[日々鑑賞した映画の感想を書く]『ザ・プレイリスト』(2022年)

 久々にネトフリのドラマを一気見。スウェーデン制作で、スウェーデン発の音楽サービスであるSpotifyをテーマにした全6回。めちゃくちゃ面白かった。

 2年ぐらい前に出たSpotifyの創業から現在までを描いたノンフィクション本「Spotify――新しいコンテンツ王国の誕生」を原作にしている。当時私も読んだが、ドラマ版はかなり大きな脚色を加えたフィクションとなっている。

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 第1回は創業者であるダニエル・エクの生い立ちからSpotify創業までを描く。よくあるIT立身出世物語かと思えばそうではなく、第2回以降はレコード会社の社長、顧問弁護士、チーフ・プログラマー、共同創業者と、Spotifyにそれぞれに関わった関係者たちの立場から、Spotifyが世界最大の音楽サービスにのし上がるまでを描いて、Spotify及び音楽業界やIT業界の歴史から現状までさまざまな課題や問題点などを浮き彫りにしていく。その間、ダニエル・エクはいわば道化回しのような役割を与えられている。いろんなエピソードや登場人物がどこまで事実に即しているかわからないが、この過程はめちゃくちゃ面白い。古い音楽業界に育てられた古い音楽業界人である私などは、第2回でソニー・レコード・スウェーデンの社長が激しく葛藤しながらも新時代の価値観であるSpotifyを受け入れていく過程の心理が手に取るようにわかって、実に身に積まされましたw 古い頑迷な音楽業界の慣習や仕組みが理想に燃えたスウェーデンのクソ生意気な若造たちによって粉々にされていくのは痛快でもある。もちろんカッコいいことばかりじゃなく、光も影もあり、全てが理想通りには行かないことも描かれる。

 そしてこのドラマの最大の見所は「アーティスト」の目から描かれる2024年〜2025年という近未来を描いた最終回。つまりこの回だけは完全なフィクションなのだが、ドラマ制作者が考えた「近い将来に来るかもしれない未来」=現在のSpotifyが抱える最大の問題点がはっきりと描かれている。詳しくはドラマを見て欲しいけど、実在の企業及び人物を実名で出しているわりにかなり大胆に踏み込んだ話の展開になっている。これは音楽業界に関心のある人は必見でしょう。特に「ストリーミングサービスで音楽業界の未来は明るい」なんて楽観的に考えているような人はぜひ見て欲しい。このお話はちょっとやり過ぎじゃねえの、とは思いますけどね。そしてこんな話にしたってことはこのドラマ、Spotifyの協力は一切仰いでないってことですね、間違いなく。

 「Spotify――新しいコンテンツ王国の誕生」の書評に当時私はこう書いた。

スポティファイがIT業界で短期間でいかにのし上がっていったかはわかっても、音楽の聴き方やライフスタイルに至るまで音楽/カルチャーに巨大な影響を及ぼしたスポティファイの画期性や音楽的な意義などについてはほとんど触れられない。

「ダニエル・エクは音楽のわからないやつだと思われている」という一文も出てくるが、そもそも音楽への止むに止まれぬ情熱がスポティファイを作らせた、というわけでもなさそうで、「なぜエクはスポティファイを始め、こだわり続けるのか」という肝心な部分がよくわからなかったりする。


 この印象はドラマでも変わらない。それどころか、「アーティスト」以外の登場人物の誰一人として音楽に強い愛情があったり「止むに止まれぬ情熱」があったりするわけではない。彼らにとって目的は「ITの力で既存の秩序をぶっ壊したい」ことであって、「音楽」はたまたま目の前にあったから手段として選んだに過ぎないことが、回が進むにつれはっきりわかる。とってつけたようなダニエル・エクの「動機」は第一回に語られるけど、回が進むにつれそんなことは忘れ去られてしまう。

 もちろんそういう設定や描写はドラマ制作者の意図でしょう。「アーティスト」を除く主要登場人物が誰一人として音楽に強い愛情やこだわりがあるわけではなく、アーティストへのリスペクトがあるわけでもない、という「事実」が、唯一の例外である「アーティスト」と対峙した時に起こりうる、いやもう兆しはある「近未来の出来事」を描いたのが最終回の展開というわけだ。

 最終回はいろいろ賛否両論が巻き起こることは間違いないが、とにかく面白さは保証します。ネット音楽配信サービスの最大手の問題点を抉り出したこのドラマが、ネット映像配信サービス最大手のNetflixによって作られたというのも面白いですね、

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