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映画『葬式の名人』(前田敦子・高良健吾出演)脚本決定稿

*映画『葬式の名人』の脚本決定稿を限定公開します。撮影されなかった幻のシーンも収録されています。ぜひ本編と読み比べていただき、お楽しみくだされば幸いです。

『葬式の名人』

(決定稿)

原案 川端康成

(川端康成の小説『葬式の名人』『片腕』『十六歳の日記』『少年』『バッタと鈴虫』『骨拾い』『師の棺を肩に』『古都』『抒情歌』『雪国』『伊豆の踊子』『化粧の天使達』他からモチーフを得ている)

脚本 大野裕之

(C)2019 Ono Hiroyuki



【登場人物】

<大阪府立茨木高校の同窓生 年齢は28歳>

渡辺雪子(工場の派遣社員、シングルマザー)

豊川大輔(元野球部のキャッチャー。今は母校の野球部顧問)

吉田創(元野球部のエース。雪子と結婚していた)

渡辺あきお(雪子の息子。9歳)

竹内みさ(元ラグビー部のマネージャー。現在は弁護士)

島村範男(元野球部。広告会社勤務)

島村ゆう(範男の妻。アマチュアのオペラ歌手)

緒方慎吾(現在、大阪府会議員。元水泳部)

大森奈都(出版社勤務。高校時代は文芸部)

<先生、大人たち>

僧侶(東本願寺茨木別院の僧侶。75歳)

葬儀屋(42歳)

吉田栄吉(吉田の父。60歳)

吉田葉子(吉田の母。54歳)

岩日京子先生(美術教師。48歳)

奥村邦子(茨木高校の食堂の調理師。50歳)

小畑典子(茨木高校の食堂の調理師。42歳)

江崎晋(茨木高校の食堂の調理師。34歳)

長綱ありさ(茨木高校の食堂の調理師。30歳)

<夜中の登場人物>


 以文会友

「これは「論語」にある言葉でありまして、「文」は文学という狭い意味ではなく、まあ、文化一般、あるいは道徳・倫理、あるいは誠の心・美しい心・優しい心——そういうようなものによりまして”友“と会いまして、友人をつくって、つまり人間が結ばれる。結ばれ会うというような意味で、これは非常に広い色々な意味に解釈されると思うのであります。」

 ——川端康成

S#1 木造アパート(大阪でいう「文化住宅」) 2018年初夏の朝

 築50年ほどの簡素な2階建の木造アパートの一室。

 台所前の3畳ほどの間。

 戸棚の上には勤め先の工場の製品のペットボトルや牛乳パックに千代紙を貼ってセンス良く作った容器があって、鉛筆や化粧道具を入れている。「宿久庄地区野球大会」の小さなトロフィー。背の低い本棚に、図書館から借りた小説と子供向けの本。

 たくさんの小説の文庫本やCDのなかに、スケッチブックが目立って置いている。モルタルの壁には子供の写真、高校生時代の雪子たちがうつった古い写真。

ところどころ傷のついた古い柱に貼られた野球チーム「茨木タイガース」の練習予定表、その横の小学校の連絡プリントに「調理実習なのでエプロンをもたせてください」。

 渡辺雪子(28歳)、子供用のエプロンに星の飾りの刺繍をつけ終わったらしく、蛍光灯の下に広げて飾りを見た後、振り返る。着古した軽装で化粧気もないが、髪も肌も健康的に華やいでいる。エプロンを巾着に入れてランドセルの横に置く。

雪子「あきお、エプロン用意したで。早よごはん食べ。ママ、もう行かなあかん」

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