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ああ。あなたに伝わればいいなぁ。

映画の楽しみ方というのは人それぞれで。
そのまま物語に埋没する人もいれば深読みする人とか過去作品からの文脈を読み解く人とか純粋に芝居が好きとかカメラワークとか正解なんかない。
好きなように楽しめばいいし、それはきっと小説なんかでも同じで鑑賞する人の特権なのだと思う。
ただまぁ、その、物語の絡繰りというか伏線とかから謎が解けてスッキリみたいな楽しみ方がここ最近はどうも強すぎるなぁとは感じる。
その辺はきっとSNSやらを通じてネタバレだとかそういう楽しみ方が目に触れやすくなったことと、最近の映画の傾向としてリピーターが生まれることが重要というマーケティングの観点からなのだろう。
それはそれであっていいけれど、そればっかだと僕なんかはちょっともったいないかもよと思う。

メタファーというのがある。暗喩。
最近の流行で言えば、例えばドライブシーン。車での移動が登場人物の成長を表現したりする。移動シーンそのものが紆余曲折を経ていくことを表現していたりする。
風船が空に飛んでいってしまうのは自由になることだとか。
あとはあえて手持ちカメラにしてアップを撮影して映像が揺れることで、心が動揺していることを表現するとか。
過去名作のシーンをモチーフにしたカットを入れることで心象風景を表現するとか。
この辺は流行みたいで、とても良く見かける。
どっかで誰かが教科書に書いているんじゃないかっていうぐらいよく見かける。ほぼ映像言語と言ってもいいぐらいの頻度。
なんとなく覚えておくと、ああ、そういう表現をしてるんだなってすぐにわかるようになる。
少しだけ映像表現のプロトコルを知るだけで、見え方が変わったりする。
まぁ、そういうよくある暗喩表現は避けまくる監督もいるから簡単じゃないのだけれど。

今の世の中は「わかりやすさ」が鍵なのだそうだ。
テレビ番組で必要以上にテロップが出たりするのもそうだ。
ナレーションや字幕で状況説明しちゃう方が早いという考え方。
わかりにくいものは頭が疲れるし、やっぱり覚悟して構えて見なくちゃいけないからハードルがある。
悲しいシーンには悲しい音楽を、楽しいシーンには楽しい音楽を。
アクションシーンのとどめをさす直前には少しだけスローモーションを。
みたいなことで、より伝わるようにする。
伝わらなくては意味がないのだから、そこは大事なことだ。

誰もわからなくてもいいぞぐらいに振り切った作品もある。
僕としては意外に苦手だ。さすがにそれは壁が高いっすと思ってしまう。
苦手なだけで嫌いなわけじゃない。むしろ好きな作品もある。
でもなんだろう、そこに塩梅があってもいいよなーとか思ったりもする。
わかりやすすぎる作品を観ても同じで、いやそれだとなぁって思っちゃう。
いや、普通はそんなことは考えて見ないでしょと言われるかもだけれど。

なんだろう。この矛盾した感じ。
伝えようという意思なんか全然ない作品。
わかりやすく誰にでもという作品。
どちらも僕の場合、ん?ってなってしまうのだ。
わかりにくくてもさ、わかるだろ!みたいな強さは欲しいというか。
わからないまでも、なんか伝わってきちゃうというか。
そういうことを求めているのかもしれない。

説明的であることを表現する人たちは忌避する。
そりゃあそうだ。説明するなら文章で書けばいい。
映画なら映像で、音楽なら音で、演劇なら演技で伝える。
それ以外は不純なものでしかないという考え方だ。
どちらかと言えば僕はそっち側なんだろう。
だからと言ってそっち側にこだわるつもりもないのだけれど。

そこはいつも考えてしまう。
わかりにくいのかな。
わかりやすすぎるのかな。
伝わるかな。
伝わらないのかな。
不純かな。そうでもないかな。

ああ。あなたに伝わればいいなぁ。
結局、最終的には希望的観測みたいなことになる。

なんとなくわかったけれど、でもまだわかってない気がする。
そのぐらいの作品が僕の好みなのだけれど。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/
劇場窓口にて特別鑑賞券発売中
先着50名様サイン入りポストカード付

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。