もう最終日だ
気付けばもう最終日まであと少し。
金曜日の朝10時に上映開始してそれが現時点での映画『演者』が予定されている上映の最後になる。
あのシーンも、そのシーンも、最後だということか。
それが頭の中に浮かんでは消える。
確か上映前。
僕は大きな大きな不安というか、不安とは違うものだけれど、何か情緒が不安定になるような気分だったはずだ。
まるで自分の頭の中を覗かれるような、まな板の上に寝転ぶような、なんともいえない気分だったはずだ。
最悪の場合、拒絶されるのかもしれないとも考えていた。
絶対に何かは伝わるはずだと信じていながら、もしかしたらという疑念が頭の中に浮かんでは消えていく状態だった。
初日の舞台挨拶前、皆と楽屋で顔を合わせた時、懐かしさで皆が笑っていた時も、うまく笑えていたかどうかわからない。
納得はするさ。自分の足で歩いてきたのだから。そう言い聞かせていた。
たとえば映画祭にエントリーしても落選したり、たとえば映画館に連絡しても観てさえもらえなかったり、そういう小さな敗北感の連続がそれまで続いてきたわけで、こんなの耐えられない人はたくさんいるんだろうなぁっていう気分だった。自分の頭の中にあるすべてを否定されているようなものだからさ。
幸い僕は、いや全然幸いでもなんでもないけれど、負けることなんか慣れっこで、むしろ見ていろよと火に油を注ぐような材料にしてしまうのだけれど、そんな僕でもより強くなりながら、目に見えないような細かい傷だらけになっていたのだと思う。折れることはなくても血は流れたのだろう。
新宿、今池、十三。3つの街の3つの映画館。
その短い上映期間の最後の上映の直前になった今。
こんな気分になるだなんて。
結構本気で思ってる。
見逃してしまった人たちはどうするんだろう?って。
観なくちゃいけない奴だったんじゃないか?って。
もちろんこの期間だけじゃタイミングが合わなかった人だってたくさんいるのもわかっている。
行けたけど、行こうかなって思っているうちに終わったという方もいるだろう。
僕だってそんなことは今まで山ほどあるから、それは仕方がないよなって思うようにしているけれど。
それでも、いやこれだけは観ておくべきだったぜって。
仕方がなかったとしても、たとえば観てもわからなかったとしても。
そのわからないという体感も含めて、見逃しちゃいけなかったんじゃないかって。
それが今日まで上映してきて様々な人たちに出会った後の僕の本心だ。
上映前には不安のようなものに包まれていたはずなのに。
今は僕はこの作品の持つ力を誰よりも信じているようだ。
映画館でこの映画を体感した皆様からいただいた言葉や、熱や、繊細な心の震えや、そういう一つ一つが僕の頭の中の霧のようなものを吹き飛ばした。
今日までに生まれたたくさんのどの映画にも似ていないと言われたこの映画『演者』という作品は、どこかで観たことがあるような作品の中に埋もれていってしまうのだろうか。いや、そんなわけがない。
確信が僕の中で生まれて、煌々と光り続けている。
疑うことだって出来た。
僕はむしろ疑い深い人間だと思う。
たとえば応援してくれる人が褒めてくれても、それは元々応援してくれている人なのだから肯定的に受け止めてもらえる何割増しかの感想になるだろうぐらいのことをいつも思っている。
長いこと色々なことをやっていれば、褒められても中々それを正直に信じることは出来なくなっていく。いや、むしろ褒めていただく以上に叱っていただくことのほうが大事だなんて考え方さえ生まれてくる。褒められて伸びるというのも目撃も体感もしているけれど一時的なカンフル剤のようなもので気分が良くなっているだけで、自分を向上させるにはやはり様々なご指摘の向こうにしかないというのが僕のスタンスのはずだ。
その疑り深い僕が、ここまで確信を持っている。
もう最終日か。
この作品が?
ほんとうに?
どんな気分でその日を迎えるだろう。
この分じゃ、収まりがつかない。
なんか珍しく怒りだしそうな気もする。
なんというか。
今の僕の目は座っていて。
何もない空間を睨みつけている。
最終日の前日がはじまる。
新月だ。
映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
「ほんとう」はどちらなんですか?
【限定3回上映】
2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)
各回10時から上映
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
◆終映◆
2023年3月25日(土)~31日(金)
K'sシネマ (東京・新宿)
2023年4月15日(土)16日(日)
シアターセブン(大阪・十三)
出演
藤井菜魚子/河原幸子/広田あきほ
中野圭/織田稚成/金子透
安藤聖/樋口真衣
大多和麦/西本早輝/小野寺隆一
撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟 録音 高島良太
題字 豊田利晃 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希 制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき
【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。
家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。
やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。
投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。