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忖度

なんだかまたしても「忖度」なんていう言葉を目にする日。
そもそも「忖度」という言葉の持つ意味は相手の心を推察するという意味であってそんなに悪いものではない。
日本人は特に言語によるコミュニケーションだけではなく、言語外のコミュニケーションで相手の気持ちを慮るとか、察するという文化がある。
傷ついた人に、今はそっとしておこうなんて言って、そっと温かい飲み物だけ渡したりするような、そんなことだ。黙って酒を二人で呑むとかさ、そういうことだったはずだ。
そんな良いイメージの言葉だったからこそ、政治の場面で使用されてそれが拡がって、悪いイメージに変化してしまった。
察することはそんなに悪いことなわけがない。

要するに「権力に媚びた」ってだけの話だ。へつらったでもいい。
阿諛とか追従とか、そんな言葉が本来は正しい。
権力あるものに気に入られたいという欲から生まれるやつだ。
何がソンタクだか。本来、美しい察する文化だったものを引っ張り出して。
そしてこのへつらう文化ってのも、確かにこの国にはずっと存在している。

ブランド信仰とかさ。学歴社会とかさ。大企業ってだけで偉いとかさ。
まぁ、へつらう場面ってのは日常生活でもよく見かける。
ごますり文化っていうやつだ。
今はさ、権力ある人が偉そうな発言をしたとか、そういうことで炎上とか問題になったりとかするけれどさ、へつらっている連中がその周りにいるってことはもっともっとクローズアップして良いと思うよ。
政治とか芸能っていうのは構造的にもそういうのが生まれやすいのかもしれない。
売れていない俳優なんかプロデューサーって聞くだけでヘーコラしちゃう連中なんかごまんといるよ。
社長だとかプロデューサーだとか肩書が大好きな人は大勢いる。

落語とかはさ。そういうものを引っ繰り返してきた。
殿様のことを何もわかっていない人として笑っちゃったりする。
あるいはそんな風に、へつらっている人をとてもみっともないと表現する。
特に日本の芸能というのは、歌舞伎でも落語でもそのほとんどが大衆文化から生まれたもので、作品を紐解くと意外にアナーキーだったりする。
ルーツというのは大事で、西欧文化の王道は貴族文化から生まれたものが多いのだけれど、それこそブルースのように大衆文化が突然変異のように生まれてきてあっという間に世界を飲み込んだりする。
だから本来の芸能というのは、へつらうようなのとは正反対のものであるはずだと僕は思っているし、そういう魂を宿しているものだ。
ロックは反体制だなんていうけれど、別に何かに反対しているとかそういうことじゃなくて、権力構造に媚びるような生き方じゃねぇぞっていう宣言なのだと僕は思っている。
ソーリダイジン?シャチョー?ウレッコアイドル?知らねえよ。そんなことで俺は変わらねぇよ。ということだべさ。

でもねでもね。
つい最近見たとある映画でも感じたりした。
ああ、プロダクションにへつらっとるねぇって。
キャスティングとかさ、見せ方とかさ、あからさまでさ。
世の中の評判は凄く高いし、誰もそれを指摘もしないけれどさ。
なんかその他大勢の大衆みたいなものが小汚くで小さい存在に描かれてた。
意志ある言葉ある者たちと大衆との対峙場面で嫌になっちゃったんだよ。
でもその違和感はあまりにも世の中に溢れているから違和感として誰も感じないのかもしれないなぁなんて思ったよ。

大きな映画会社だとかさ、有名な配給会社だとかさ。
そういうものと並んで、映画「演者」はあまりにも弱小なのだよ。
だから余計に感じるよ。
例えばお知らせを送ったって返事すらないことなんて当たり前だからさ。
それで権力あるところにはすぐに返事してるのかもなとかさ。
映画とか音楽とか演劇だとかさ、文化という最高に尖っていておかしくない場所で、どれだけの追従記事が書かれているか。やれやれだぜって思う。
むしろ、ほんとうの意味の忖度なんて出来ないんじゃないかな。
こっちから願い下げだぜとか思っちゃうよな。

でもいるんだよ。
心優しい連中も。すぐそこに。
そんな、へつらってばかりの世界に。
権力に阿ってばかりの世界に。
心のやりとりが出来る人たちが。
だから投げ出さないで済む。
何もかも厭になりそうでも踏ん張れる。

胸を張って生きるよ。僕はね。
人の心は察する人でありたいよ。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。