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面倒くさい贅沢

恐らくもっとも贅沢なものとは時間なのだと思う。
ありとあらゆるものが便利になり効率化されていく。
ボタン一つで出来ることが増えていく。
移動も短くなっていく。
小さくなってポケットに収まっていく。
どこでも気軽になんでも楽しめるようになっていく。

なんでも気軽になればそれで済むのかと言えばそうでもない。
どれだけインスタントが世の中に溢れても、どれだけ冷凍食品が美味しくなっていっても、飲食店がなくなるわけではない。
何日もかけて仕込んだスープや、手間暇かけて創られた料理には、味はもちろんのことそれいがいの付加価値がつく。
インターネットに接続した端末からほぼ無限の数の音楽を聴けるのに、ライブハウスに足を運んで音楽を聴く。

贅沢とはつまり、面倒くさいことだ。
面倒なことをわざわざやることが贅沢に感じるのだから。
生活に直結したルーティンはどんどん面倒ではなくなっていくのに。
それで生まれた空き時間を面倒なことに注ぎ込んでいく。
普段はコンビニエンスなのに、休日に時間が開けばキャンプに行って火を熾す所からはじめたりする。
時間がかかること、面倒くさいこと、それ自体を楽しみ始める。

映画一本にも膨大な時間がかかっている。
企画から構想、脚本、撮影準備、編集。
それだけでも思い起こせばとてつもない時間を要する。
それが一人だけではなくて、それこそ役者たちは脚本に何時間も向かい合うことになる。
映画とはそれ自体がすでに贅沢なものなのだろう。

リビングでネット配信の映画を楽しむこともそれはそれかもしれない。
それでもきっと映画館に足を向けることは贅沢なことなのだろう。
時間を作って、移動して、映画館の席に座れば一切の情報を遮断する。
映画鑑賞だけの時間を作りに行く行為だ。
座禅を組み、瞑想するかのようにスクリーンに没頭していく。
なにひとつ効率化なんか出来ない。

誰でも楽しめるし、庶民的な娯楽でもある。
でもそれ自体は最高の贅沢だ。
とても豊かな時間だ。
想像力はあらゆる規制を乗り越えてどこまでも拡がっていく。
その時間があればこそ。

なんだって便利な時代に。
ふらりと映画館に来てくれる。
感謝。
誰かのノートに、映画を観に行ったと書き加えられる。
ボタン一つではその日記は真っ白なままだ。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/
劇場窓口にて特別鑑賞券発売中
先着50名様サイン入りポストカード付

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。