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僕にできること

ユーロスペースの期間中、一日中チラシを配っていて気になったこと。
それはあまりにも若い世代のお客様の数が少なかったことだ。
ユーロスペースは若い世代に破格にチケット代を設定している。
500円という低価格でも観れるというのはそもそも赤字設定だ。
席が未成年で埋まれば埋まるほど、痛手になるはずで。
それでも開館からずっとその値段を堅持している。

そのユーロスペースに若い世代が週末も足を運んでいなかった。
あのビルには映画を教える学校が地下にあるのに。
その生徒たちが演者に一人も来ないこともちょっと驚いた。
気付かないだけで来ていた可能性もあるんだけれど。
芸事は人に教わるよりも、体感することの方が学べるんだぜって思うけど。
特にレイトショーに設定されているような作品は彼らがこれから製作する作品に近い作品だと思っていたのだけれど。
そういうものなのかな。

僕が10代後半で単館映画館に通っていた頃はちょろちょろ見かけたと思う。
それこそ僕は演劇を学んでいて、面白そうな作品を探し回ってた。
ここまで若い人を見かけないような状況だったかなぁ。
記憶が曖昧になっている部分もあるから言い切れないけれど。
でもなんかいたよなぁ、確かに。同じような世代がさ。

横浜シネマ・ジャック&ベティの閉館危機からのクラウドファンディング、旧名古屋シネマテーク跡地へのナゴヤキネマ・ノイの開館に向けてのクラウドファンディングが、今、進行している。
たくさんの映画ファンたちがその意思に共感して支援を始めている。
すごいなぁ、愛されているなぁと思うと同時になんだか貧血気味のようなクラッとするような感覚がある。
クラウドファンディングは成功して欲しいし、そこからスタートを切って欲しいのに、それと同時にその後は同じことが続いていくということに戦慄する。一時的なカンフル剤で生き延びることも重要だけれど、同じぐらいそのあと何十年だって続くように映画館に通う人が増えなくてはいけないのだから。

地方のミニシアターでその土地の高齢者たちのコミュニティのような役割を果たしている映画館もあるのだそうだ。
そういう常連さんが多いからコロナ禍に高齢者が外出しなくなったときに、傷が大きかったなんて言う話もあった。
映画を何十年も愛し続けている高齢の映画ファンたちはとても重要な存在でそういう人たちがミニシアターを実は支えているという側面がある。
それはなんだか美しいことで、愛に溢れていることのように思える。
でも、それは同時に危機でもある。
映画館とは若い世代が通い詰めるような場所でもあるからだ。

若い人が自主製作した映画を観に行った時にも驚いた。
観に来ている客層が、40~50代がメインだったからだ。
何人か若い人もいるなと思ったら、どうやら同じ自主映画製作をしている仲間たちが足を運んでいただけだった。
当然だけれど40~50代の映画ファンの皆様が何か悪いわけではないです。むしろ、皆様の映画への情熱に助けられているのです。
ただただ若い人が同世代の関心を引けていないという事実に背筋が寒くなるのです。

Netflixとかの配信もあるし、Youtubeのほうがサブカル感あるし、ミニシアターまで関心が及ばないのかな。実際に僕自身、演者の配信ありますか?ってすでに何人かに聞かれたりもしてさ。なんかそういうことじゃないんだよなぁって思ったりもしたのだけれど。

でもさでもさ。
まぁ正直に言えばですよ。暴論かもしれないけれどさ。
子供だましのエンターテイメントに飽き飽きしている若い連中いるはずだよねぇ。絶対に。
自分が十代の頃を思い出せば、それこそ作られたブームとかにワイワイ言っているクラスの連中の端っこで、あんなもんの何が面白いんだよ、ばかじゃねぇの?みたいに話していたもん。
なんか好きだった女の子が海外の知らないバンドとか聞いててマジかよ!みたいになって焦ったりさ、ものすごい怖いくせにライブハウスにもぐりこんでみたりさ、地下の劇場やら、映画館やらにも足を伸ばしたりさ。
もちろんメジャーなものを面白がる子もたくさんいたんだけれどさ。
あんなもんニセモノで、実はほんとうに面白くてかっこいいものをパクッて水で薄めて、わかりやすくしただけのもんなんだぜみたいなさ。
そんなことを思っていたやつらも何人もいたもん。

今だったらHiphopとかなのかな。
アイドルソングの中のラップ聞いて、ばかじゃねぇとか言ってそうなのは。
そういうのって別に世代の問題じゃなくて、どの世代でもある一定数は必ず存在しているんだって僕は思う。
そうじゃなきゃ文化なんてものはどんどん商業になって面白くなくなっちゃうもん。
そういうのってそれこそ若かった頃の方が鋭く見抜けていたなぁって。
だから映画だっているでしょ?そういう層が存在しているはずでしょ。

少女漫画原作のキラキラ映画みても、醒めちゃってる子とかさ。
子供だましのアニメとか見て、視聴者を馬鹿にしてんじゃねぇの?とか思ってる子とかさ。
口パクで歌って、ウインクして、汗をぬぐっているアイドルに、しらけちゃうような子とかさ。
いるよねぇ、やっぱ。
そういう表現に夢中になれることは幸せなことだけれど、そういう表現じゃ満足できない子たちはやっぱり存在していると思うんだよ。

ましてやさ。
今、ガザやウクライナのことがあってさ。
昔よりも生々しい映像が誰にでも観れるような状況でさ。
コロナ禍なんてものまであってさ。
生と死というものを否が応でも感じるような状況なわけで。
ニュースなんか関係ねぇしなんて口にする子も、実際にはやっぱり気になっているはずでさ。
僕の若い頃で考えてみてもそんなにただ楽しければいいみたいな感じじゃなかったよ。
未来とか希望とかでキラキラしてたわけでもなかった。
なんか必死だったし、なんか嫌なことがたくさんあるってひしひし感じてた。

僕は忘れられないのだよ。
映画『演者』を観た若い世代のお客様の感想が。
とても鮮烈な言葉だった。
とてもまっすぐな瞳だった。
遥かに年下の鑑賞者を僕は尊敬した。
それは重要なことだと思う。
テレビドラマや今まで見てきた映画や配信と違う何かに触れた瞬間だ。

ほんとうにミニシアターを救うのだとすれば。
ミニシアターという映画体験を若い世代に経験してもらうことだと思う。
その中から未来の映画ファンが生まれる。
その中から何十年も映画館に通う人が生まれてくる。
そう思えば500円という値段設定だって合点がいく。
今、思えば単館映画ブームってちょっとオシャレでもあったんだけどさ。
オシャレで観に来た人たちの中から映画ファンが生まれたのも事実だ。

嘘ばかりの世界で真実を見抜こうとしている孤独な若者よ。
僕は君に届けたいのだ。君に届いて欲しいのだ。
「ほんとう」を射抜いて欲しいのだ。
クソガキども!お前らが世界を支えていくのだと僕は叫びたい気分だ。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【次回上映館】
未定

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映◆
・2023年11月18日(土)~24日(金)
ユーロスペース(東京・渋谷)

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。