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伝統木工「大館曲げわっぱ」を知財文献から紐解いてみた【地財探訪 No.3】
本コラムは、地域の財産である「地財」を探訪するものである。全国の「伝統的工芸品(*)」の歴史を紐解きながら、関連する知財権情報と合わせて紹介していく。(知財権:特に、特許権、実用新案権、意匠権、商標権)
(*) 伝統的工芸品:経済産業大臣によって指定された計237品目の工芸品(2022年3月18日現在)
例えば昭和時代に出願された特許等の情報には、職人の拘りや後世へ伝えたい想いなどが隠れているかもしれない。本コラムを通じ、数百年の歴史がある「地財」である伝統的工芸品の新たな魅力を発掘していきたい。現代に生きる者として、先人が遺した知的財産を更に後世へと伝えていく姿勢が大事と考えるためである。
地財探訪第3弾は秋田県「大館曲げわっぱ(おおだてまげわっぱ)」。
歴史を振り返りながら、曲げわっぱ職人による職人技術を知財文献からも拝見していく。(過去のコラム:第2弾 沖縄県「琉球びんがた」)
01 大館曲げわっぱの概要
「大館曲げわっぱ」とは、秋田杉を主な素材とした、秋田県大館市にて伝わる木工品である。ほんのりとした木の香りや、均一な木目によって醸し出される上品さが特徴的。
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「大館曲げわっぱ」は、奈良時代に「きこり」が杉柾で曲物の器を作ったことが始まりとされている。17世紀後半には、大館城主・佐竹義方(西家)が領内にあった秋田杉に着目。藩の財政を支えるべく、曲げわっぱを武士の内職として推奨し、秋田を代表する工芸として発展することとなった。
そして「大館曲げわっぱ」は、昭和55年に「伝統的工芸品」として指定され、平成25年には「地域団体商標」として商標登録を受けている。(商標登録第5591586号)
02 大館曲げわっぱ・秋田杉の特徴
・秋田杉は「断熱性」「吸湿性」に優れ、煮沸によって「しなやか」に曲がる。
・白さやほのかな「香り」、そして均一の木目から醸し出される「上品さ」がある。
・山桜の木皮で縫いつなぐ技法「樺綴じ」による「優美さ」がある。
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大館曲げわっぱの伝統工芸士として、例えば柴田慶信氏がいる。1966年に工房を開所。半世紀にわたり「曲げ」を行い、協同組合の立ち上げ等を通じて技術の保存や伝承に携わってきた。その功績から、令和3年度「卓越した技能者(現代の名工)」を受賞。現在も、日々工房で作品制作や後継者育成に励んでいる。
03 知財出願情報からみる大館曲げわっぱ
実公昭60-40300:単板耳取り用曲面加工機
出願日:1980.3.4 考案者:佐々木 悌治 氏 出願人:株式会社大館工芸社 J-PlatPat リンク
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こちらは「現代の名工」を受賞している佐々木 悌治 氏による考案。杉の曲面加工は熟練した手作業によってなされるものだが、本考案の加工機を用いることで、熟練を必要とせず効率的に曲面加工が行えるとのこと。
秋田に700年伝わる「曲げわっぱ」の裾野を広げるべく、本考案に至ったのかもしれない。
<参考>
シリーズ 時代を語る「佐々木 悌治」|秋田魁新報電子版
実公昭60-28336:せいろ
出願日:1981.8.3 考案者:鎌田 貞政 氏 出願人:株式会社杉のや J-PlatPat リンク
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食品を蒸すときに用いるせいろの考案である。底輪6内に押片4を桟3間に嵌め込むことで、高温による軟化変形を防止している。
実用新案登録第3111368号:曲げわっぱ加工のお櫃
出願日:2004.10.29 考案者:栗盛 俊二 氏 J-PlatPat リンク
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大館曲げわっぱの老舗「栗久」6代目、栗盛 俊二 氏 による考案。「隅丸加工」が施されたおひつである。底が滑らかになっていることで、ご飯をすくいやすく、洗いやすいという利点がある。図面に各工程が示されており、手間をかけた職人芸の一端を文献からも感じることができる。
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<参考>
職人と技|大館曲げわっぱの老舗栗久 HP
意匠登録第1633700号:ワインクーラー
出願日:2018.10.11 創作者:栗盛 俊二 氏 J-PlatPat リンク
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こちらも栗盛氏による作品。秋田杉の断熱性により、氷が溶けにくい利点がある。2019年度グッドデザイン賞受賞、令和2年度東北地方発明表彰「秋田県発明協会会長賞」受賞。
<参考>
ワインクーラー|有限会社栗久 HP
実用新案登録第3173725号:曲げわっぱ容器
出願日:2011.12.6 考案者:山内 安久 氏 J-PlatPat リンク
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「透かし彫り5」を施すことで、装飾性に富む曲げわっぱについての考案である。考案者である山内氏は、木工技術とクリエイティブな発想とを融合させた「木肌のぬくもり社」を設立し、曲げわっぱに限らず様々な木工品を制作してきた。
<参考>
「先代・山内安久」|木肌のぬくもり社
04 特許情報からみる大館曲げわっぱの周辺技術
以下表は、特許文献の要約中に「木」「曲」の記載がある技術分野の一覧である。建築分野を筆頭に、様々な分野にて曲木加工技術が関わっている。
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【秋田県立大学】特開2022-49004:木材処理方法、木材処理剤、及び木材加工品
例えば秋田県立大学は、酒粕等を含む木材処理剤について特許出願している。本発明の処理剤に木材を浸漬させることで、木材の変形能が向上するというもの。木材加工の研究を行っている足立幸司准教授による発明である。
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<参考>
「やわらかい木 〜グニャグニャとバネバネ〜」公立大学秋田県立大学HP
【青森県産業技術センター】特開2021-732:立体成形物、その部材、それらの製造方法、および立体成形物製造用型セット
青森県産業技術センターは、複数の板材による三次元成形物の製造方法について特許出願している。本発明により、材料の無駄を低減するとともに、独特の木目表現を有する玩具等の工芸品を制作することが可能となる。
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【パナソニック】特開2021-115784:木材および木材の製造方法
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本発明は、曲木加工の際、繊維方向に沿って割れにくい木材の製造方法に関する発明である。ジグザグ形状等の溝14をマイクロサイズで設けることで、木材1を曲げるときに繊維方向Bに沿って割れにくくするというもの。
【木製キャンピングトレーラー】特許第6497568号:木製トレーラーハウスおよびその製造方法
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こちらは木製トレーラーハウスについての発明である。丸みを帯びた形状とすることにより、風圧による居住部の破損防止に繋がるというもの。木材を湾曲させて作った環状木製支柱等により中央骨格部4が形成される。
<参考>
I'm Flicka|タイニーハウスジャパン HP
【あとがき】「大館曲げわっぱ」紐解いてみて
秋田県を代表する工芸品「大館曲げわっぱ」について、その歴史を学びながら知財権の情報を調べてみました。実用新案登録に限らず、ワインクーラーの外観についての意匠登録事例など、多くの職人によって出願がなされていました。
曲木加工は、工芸品に限らず建築や家具等の幅広い分野で関わる技術です。奈良時代から伝わる「大館曲げわっぱ」には、様々な分野でその技術や歴史的価値の活用可能性が秘められているのかもしれません。
近年における新たな商品としては、例えば曲げわっぱによる小物やアクセサリーがあります。2022年に独立した伝統工芸士による商品です。
「今までになかった発想を取り入れ、曲げわっぱ商品を知らない人の窓口として、これからも伝統工芸を盛り上げていきたい」
小物でしたら、お土産としても気軽に購入することができそうですね。秋田を訪れた際には是非購入したいと思います。
大館曲げわっぱについて、今後も目が離せません!
参考情報
大館曲げわっぱ共同組合HP
大館曲げわっぱとは 江戸から受け継ぐ技法と魅力|中川政七商店の読みもの
◆特許情報(母集団118件)検索式◆
① [曲,10N,木/AB]-[ラーメン構造/TX] ② 出願日:20110101以降
①×②=118件
検索日:2022.6.20 検索DB:J-PlatPat
以上
Uchida l 知財ライター
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