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キャラ立ち過ぎ冒険小説〜ジュール・ヴェルヌ作鈴木啓二訳『八十日間世界一周』感想書評〜

今度友達とTRPG「冒険都市Z」をするにあたり、「ベルヌ大好きな探検家」という設定でキャラメイクをしてしまったので、参考のために読んでみた。

爆裂に面白い。
ベルヌを読むのは小学生以来だが、ストーリーのテンポが良く、展開もよく練られていて飽きず、何よりキャラクターが魅力的で、「ほんとに150年前の小説?」となる。

【主要キャラクター】
・フォッグ
ロンドン在住の英国紳士。賭けのために80日で世界を一周する。経歴不明。感情の起伏が無く常に落ち着いているが、ときどき奇想天外な発想で旅を進める。全てのトラブルを札束でぶん殴って解決する。

・パスパルトゥー
フォッグが世界一周に出るその日に雇われた召使。運動神経の塊でめちゃくちゃ良い人。どんどんご主人様大好きになる大型犬。フランス人。横浜で物理的に天狗になった。出発の日にガス灯を消し忘れたため、早く帰らないと破産する。

・アウダ夫人
インド横断中にフォッグたちが命を救った美女。インドに残るとまた命が危ないので、彼らと旅をすることになる。いざとなれば銃撃戦も出来るパワフルレディ。

・フィックス刑事
フォッグのことを手配中の銀行強盗だと思って逮捕を狙うが、逮捕状が届かないので出来ませ〜ん!→とりあえず尾行だ!→結局途中から世界一周を共にすることになる。作中唯一フォッグからダブルパンチを貰う。

今アニメ化しても遜色ないキャラ設定の濃さだが、中でもフォッグとパスパルトゥーの主従関係の変化が好きだ。主人の旅を疑っていたパスパルトゥーは、やがて彼のことを敬愛するようになる。フォッグもまた、一召使としての彼を、危険を賭して助けようとする。
その関係性の象徴なのがアメリカ横断鉄道がスー族に襲われた一連だろう。パスパルトゥーが命がけで連結部を外し、一行は危機を逃れるが彼はスー族に捕虜にされてしまう。フォッグには彼を助けにいく時間的猶予は無い……にも関わらず、彼は

「死んでるにせよ、生きているにせよ、私は彼を探し出してみせます。」

368頁

これには僕もアウダ夫人と共に「ああ、ムッシュー」と言う他なかった。香港の時は大使館に金を預けただけだったのに。 

鈴木啓二先生の訳文が良いためだろう、めちゃくちゃ読みやすく、シーンがすいすい頭に思い浮かぶ。日本のエキゾチックな描写も魅力的だ。

「江戸は日本の帝国の第二の都であり、世俗の皇帝タイクンが存在していた時代にはここにその住居がおかれていた。江戸はまた、神々の子孫である宗教的皇帝ミカドが住む大都市、メアコのライバルともいえる都市である。」

262頁

いまは気軽に世界の風景をスマホで見ることはできるが、世界を次々と言葉で味わうという体験はなかなか出来ない。不思議なことに、映像で見るよりも感覚に訴える力がある。「◯◯カ国巡る!」みたいなチャレンジをしたい人はぜひ読んでほしい。YouTubeのショート動画は5年後見られるかわからないが、文字にすると150年は残る。

とにかくワクワクが止まらない小説なので「あのシーンよかったよな!」「あそこ面白いよな!」とまるでアクション映画を観た後のように語ってしまいたくなる。以下、好きなシーンを羅列して終わる。

  • アウダ夫人を助けるシーン。パスパルトゥーが味方含めて出し抜くところ。喝采が聞こえてきそうで嬉しい。フォッグが褒めるのも好き。

  • 裁判所でパスパルトゥーの靴が証拠品として提出されるところ。「僕の靴だ!」と叫んでしまう迂闊さ、かわいい。

  • 上海発横浜行きの船にあわや間に合わないというところ、半旗を掲げて大砲を撃つフォッグの発想が常人離れしてて好き。ここの訳文作るの楽しいだろうな〜。

  • 横浜で(物理的に)天狗になったパスパルトゥーが客席のフォッグと合流するところ。そこまでのフォッグ側の描写を省いていた演出がオシャレすぎる。策士ベルヌ。

  • 「実はあと1日あった!」のネタバラシが天才的すぎる。しかもこれには「パスパルトゥーが牧師の元へ行く」必要があり、それには「アウダとフォッグが婚約する」必要があり、それには「アウダを救出する」必要がある。伏線回収が巧み。そしてアウダを助けたのはパスパルトゥーです。

結論

パスパルトゥー大好きです。

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