花よりハンバーグ
誰かに「好きー!!」とか言うのは疲れる。
「好きー!!」と言われるのも疲れる。
あー、先程まで異性とどこかへ行っていた女には見えないだろう。今はファミレスで大きな大きなハンバーグが鉄板でジュージューいっている前に座っている。このジューはハーモニーだ。オーケストラ。私のためのオーケストラ。
「俺、好きな人できたんだよね」
何?この歌詞。この独唱。夜景というロマンチックな場所で生涯を共にする台詞ではなく、突拍子もないあれ。“好きな人できました”って。何?タネを植えたらきゅうりができました的なあれ?うーん。
ジュー。ハンバーグはこの間も奏でる。指揮者もより一層力が入る。食べて欲しいんだろう。そうだろうよ。この指揮者よりもシェフが食べて欲しいんだろう。だって厨房から視線を感じる。アフロで目立つコックがこっちを見てる。熱い視線だ。圧が強いファミレスだ。ゆっくりできやしない。
ナイフをハンバーグに入れる。中からとろとろとしたチーズが出てきた。あらー。すごい。出てきた。(そりゃ頼んだんだからそうだろ)
このとろとろチーズと一緒に今日の記憶も溶けないかなぁーとか思う。
ヴィーと携帯が震える。寒いのかな。メッセージだ。
【合コンどう?】
え、うそぉ。すごい。欲しかった言葉だぁ。(なわけない)
いつもは食べないライスを大盛りでハンバーグをかきこむ。口の中で溶ける。うまい。厨房のアフロもうなづいている。なんで、うなづく。仕事をしろ。手を動かせ。ちゃんと帽子被れ。
すっかり綺麗にしたお皿。明日の仕事は休み。だって、今日、もしかしたら泊まるかもなぁー的な。かもなぁー的な。でもあれです。きゅうりできましたみたいな。できましたみたいな。なんだそれ。
「1380円です」
しっかりとしたハンバーグ代金。
「ありがとうございました。美味しかったですか?シェフです」
アフロだ。なんで出てきた。「ここのシェフを」って呼んだかなぁ。なんでかなぁ。
「美味しかったです」
「良かったです。良かったら連絡先」
あー。私はモテる。モテるみたい。これは希望だ。でもアフロ限定なのかな。それはそれで。
「ディスコ」
「はい?」
「ディスコに帰れ」
アフロをディスコに帰らせてやった。さぁどこ行こう。携帯を開き連絡を返す。
【合コンはいいや。カラオケ行こう】
今夜はアフロも相まってディスコだ。
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