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ニートが家に住むことになった。#10

どうも、この度ニートが家に住むことになりました。

(ハ)ニート、ガチニートになる

前日に確認した事実や本人から言われたことなど全てを報告した上で、社長はニートから手を引くことを本人に伝えた。ここには記載していなかったが、社長はニートに渡そうとしていた仕事を動かそうとしていた。その進捗管理はもちろん寅女もやっていたのだが問い詰めると「時間がない」などの結論になり、まあ確かにまず目先の金を稼がないとどうにもならないもんな〜と思っていた。蓋を開ければバイトはクビになり酒を持ってただ歩いていた日々。そもそも身近で応援してくれている人に対して大嘘をつくようなやつにはもう付き合ってられないと言う至極真っ当かつシンプルな理由だ。ただ、生活の立て直しについては寅女が支援するなら支援してもいいとのことだった。

寅女としては、前述の通りそもそもニートが家に住むことになった前提を超えて「好きかもしれない」と言う謎の愛着が生まれてきており、このままあっさり家を出ていかれるのは正直なところ嫌だった。私自身、側から見てもニートが家に住んでから日々の殺伐とした生活にほんの少しだけの癒しや安らぎが訪れていたことを自覚していた。「身近の誰かのために頑張ること」「自分の気持ちを相手に伝える重要性と誰にでもわかるようにアウトプットすることの難しさ」という、人生の真理を身をもって体感できた気がしていた。そんな彼を簡単に手放すのは嫌だった。

とても悩んだが、「一緒に住んでいて最初は仕事上での関わりで、と言う体だったけど、それ以上に一緒に住んで楽しかったり面白くて笑ってしまったり、明るい思い出が増えるにつれて愛着が湧いてしまった。好きになるのかもしれない。だからこれからノープランなのであればもう少し一緒に住んでほしい」と伝えた。人に素面で好きかも、なんて言うのはきっと高校生ぶりだったのでなかなか言い出せなかった。こんなに何かを発するのに言葉を選んだことは今までになかった。

それを聞いたニートはとても驚いていた。驚きすぎて動揺が隠せないので一旦逆立ちしていい?と言われ壁に向かって逆立ちをし始めた。頭に血が登ったらしく通常の二足歩行に戻り、落ち着いたニートは「正直、寅女ちゃんに恋愛感情は今持っていないけど、それでもいいならもう少しここに住ませて欲しい」と言ってきた。

こうして、引き続きニートが家に住むことになった。そして彼は本物のニートになった。

(ヒ)世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方〜人生のモヤモヤから解放される自己理解メソッド〜

さて、全ての状況が白紙に戻った今、今後どうしようかすぐに考えてしまうのが寅女の性である。とりあえずニートが家にいることを引き伸ばしたが、いつまでもここで暮らしてもらうわけにはいかない、という常人の脳みそも備え付けられていたので安心して欲しい。ニートは言語化能力が極めて低い人であることを理解していた。言語化能力が低すぎると自己認知ができない。つまり自分のことがよくわかっておらず、とりあえず目先の金がないのでよくわからない行動をしでかすのだ。
私自身も、日々忙殺されている中で「なぜ働いているんだろうか」「私の人生ってなんなんだろう」というような言葉が日々脳内を錯綜していたが、忙殺されているが上に無視し続けてきた。そんな中、自由気ままにとりあえず目先の金と酒と煙草のことだけを考え欲望のままに生きている彼に「なんでそんなにしんどくなるまで働いているの」と言われたことがある。腹立たしい感情の次に、とてつもない確信をついてきたなとハッとさせられた。ニート同様、会社員として働いている私自身絶賛迷走中であることに気づいた。

そんな中、本屋さんで一冊の本と出会う。
世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方-人生のモヤモヤから解放される自己理解メソッド- 八木 仁平 著
https://www.amazon.co.jp/世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方-人生のモヤモヤから解放される自己理解メソッド-八木-仁平/dp/4046044357/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=カタカナ&dchild=1&keywords=やりたいことの見つけ方&qid=1633666460&sr=8-1

この本には自己理解のフレームワークがわかりやすく書かれている。少し立ち読みをして、今この7畳ワンルームに閉じ込められている迷える子羊2匹にとって重要な本である気がした。

早速、お寿司とビールを片手にニートとこの本にあるフレームワークを実践していく。この本はおおよそ3部構成となっており、「大事なこと(価値観)」「得意なこと(能力)」「好きなこと(興味関心)」と順に明らかにしていくことによって、最終的にはその3つを掛け算することでやりたいことが見つかるよね、という流れである。
まずは、「大事なこと(価値観)」についてのフレームワークからだ。本に書いてある価値観に関する5つの質問に対して、自分の「価値観ワード」を付箋に書き出して、紙に貼り付けていく。次に、出てきた価値観ワードをグルーピングして、最後に流れを確認する、という工程だ。

ニートが出した価値観はこのようになった。

「自由」「興奮」「楽しさ」「プロフェッショナル」「裕福」
まあなんとなくこの結果は想像ができていた。それは約1ヶ月半を共にした成果だと思う。これらのワードを見つけていくにあたり、本に記載されている質問に付随して寅女お得意の度詰めタイム「なんでなんで攻撃」を彼は受けることになったのだが、結局のところ「お金持ちになって美女に囲まれたい」と言う結論が10回以上出てきた。

お金持ちになって、モテたい。まあこれは男性の心理であることはいくつものコラムで読んだことがあるが、果たしてニートの深層はこれだけなのだろうか。本当の真意が知りたくてこの本のワークを始めたのに、酒が進んでいたのか結局は「タワマンで毎日複数の裸体の美女と寝たい」と言い出したので、笑いが止まらなくなってしまった。
やってられない、と思い一度スト缶をガブっと飲んだところで時計を見ると短針が「1」を刺そうとしていたので、一旦本日のお話はお開きにして寝ることにした。とても面白かったのでやってよかったと思ったが、結局彼の深層心理は何も掴めなかった気がする。

※ちなみに寅女とニートが結果的にはテキトーにやってしまったこちらの本のワークなのであるが、迷える子羊には間違いなく何かの役に立つ素晴らしい本である。ニートと一緒にワークを進める前に、真剣にカフェでこの本を読んでワクワクした寅女がいたことも併せて伝えておきたい。

(フ)0123♪アー○引越しセンター

根本の解決と今後の長い人生と向き合うことも大切である。しかし、とは言え彼は手元にあるお金がほぼ皆無かつ多額の借金を背負っているのだ。1人だと職探しも間もならないニートが死んだ目で仕事をしている寅女を横目に寝転びながらYouTubeを見ながらゲラゲラ笑っているのに耐えられず、速攻ハローワークに行ってもらうことにした。帰ってきたニートは「とりあえず引越し屋さんのバイトをすることになったよ、これなら日払いで毎日お金がもらえるからとりあえず生きていけると思う」と柔らかい表情をしながら言った。

そうして、引越し屋さんをする日々が始まった。時給もそれなりに高いし、日払い制度あり。目先のお金がないニートにとってはとりあえずぴったりのバイトだ。以前のコールセンターのバイトは、週払い制度があったものの週払い申請に手数料がかかること・大した週数働いていないのに週払いをしすぎた結果雀の涙ほどの給料しか残らず、しまいにはクビになってしまって金なし・仕事なし状態に即陥った。おそらく毎日お金がもらえないので日々の焦りが募っていたのだろう。今回は毎日働いた分だけきっかりお金をその場でもらえるバイトだ。働きだしてから少しニートの顔色が良くなった気がした。少しだけホッとする寅女。

ニートは大学生の時に引越しのバイトをしたことがある。引越しのバイトは、やったことがある人はご存知かもしれないが過酷な重労働な上にチンタラ動いているとめちゃめちゃ厳しい上司にすぐ怒られる、張り詰めた空気だそうだ。(寅女は引越しバイトをしたことがないので、これらの話は全てニートの話参照なのだが。)だが、ニートはそれを既に知っていたのでテキパキととても良く働いたらしく、その結果社員の方に毎日仕事で褒められた話を家に帰ってきてベラベラ小一時間話しかけてくる日々が始まった。それはいいことなのであるが寅女は自分自身に余裕がなかった。引き続き激務だったため疲れ果てていた。正直ニートのそんな話には微塵も興味が湧かなかったし、私自身全く仕事でうまくいっていなかったので「うるさい」とまで思っていた。
とはいえニートもいきなり過酷な重労働を始めたので毎日「熱が出た」「肩と腰が痛い」と大騒ぎ。私も疲れているんだが、と思いながらも冷えピタを貼ってあげたり湿布を貼ってあげたりとする介護生活が始まった。

寅女のHPが目に見えて削られていった。ほぼ鬱状態まで陥った。あれだけニートが家に帰ってこなかった日々、寂しくて仕方なかったのに、今度は家に帰ってこないでほしいと思うようになった。自分の話だけするだけして、して欲しいことだけを求めてきて、私のことには興味がないニートは、私が好きかもしれないという感情は知りつつもこの家に住み続けている。この状況はよくない、搾取され続けている、とわかってはいたものの好きかもしれないと言う気持ちを拭うことができずどうしたらいいかわからなかった。誰とも話したくなかったし、1人になりたかったし、1人だけの誰にも見られない空間が欲しくなった。

ある土曜日、前日の夜からニートは家にいなかった。久しぶりの1人の空間だった。そこまで泣ける要素もないB級映画を見ていたのにも関わらず、途中から涙が止まらなくなった。真っ暗な部屋で泣き続けているとニートが突然帰ってきて、目をまんまるにして驚いていた。「どうしたの」と言われても何をどう説明すればいいのかわからず、黙ってシクシク泣いていた。
ニートもどうしたらいいかわからず、ただ黙っていた。少しの沈黙の間があったあと、「そういう時はいい音楽を聞こう」と徐にYouTubeをつけ始めた。「またEDMは嫌」というと、「違うよ」と言って、上原ひろみのジャズをかけ始めた。
聞いていると少し落ち着いてきて、涙が止まり、しょうもない発言をたくさんし続けてくるニートの姿が滑稽で笑えてきた。またいつものようにたわいない話で笑っていると、ニートが突然「上原ひろみの演奏をブルーノートに聞きに行きたい」と言ってきて、うまく話に乗せられて何故かチケットを取らされた。なんかよくわからないけど、涙止まったしいいや、と思ってそれ以上考えることが難しかったので思考を停止させて就寝した。


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