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『さよなら子供たち』のラストシーンは涙の演技best1

映画やドラマでの迫真の涙のシーンはいつも胸を打つが、私にとって忘れられない涙のシーンベスト1は、『さよなら子供たち』のラストショット。

ナチス占領下のフランスが舞台の『さよなら子供たち』は、カトリック寄宿学校の少年たちのつかの間の心の交流を描いた作品で、ルイ・マル監督の12歳の時の体験を綴った自伝的作品とも言われている。

戦火のパリからカトリックの寄宿学校に疎開している主人公のジュリアンは、ある日、寄宿学校に転入してきた3人の少年たちの一人、ボネと同じクラスになり存在を意識し始める。二人は時にぶつかりながらも、少しずつ心の距離を縮めていく。
ある時、ジュリアンは、ボネが偽名を使い学校にかくまわれているユダヤ人であることを知る。

ジュリアンとボネの友情は、解雇された元料理番の少年の密告でゲシュタポが教室にやってきた瞬間に終わりを告げる。ボネはゲシュタポに連行され、二度とジュリアンの元に戻ってくることはなかった。

タイトル『さよなら子供たち』は、ボネ達をかくまった罪で連行される校長先生、ジャン神父が、中庭に集められた生徒たちに向かって最後に発したセリフだ。
「さよなら子供たち。また会おう」
フランス語は全くわからないが、静寂の中で放たれた重く哀しい言葉の響きは、今でも消えずに耳に残っている。
Au revoir les enfants….
非ユダヤ人にもかかわらず、抵抗することなく、覚悟を決めたかのように穏やかな表情で生徒たちに別れを告げるジャン神父の神々しさは、一瞬、呼吸することを忘れるくらい胸がしめつけられた。

そして、門を出る直前に思わず振り向いてジュリアンと視線を合わせるボネ。無言のまま、ゆっくり小さく手を振るジュリアン。

やがてカメラはジュリアンにうんと寄り、スクリーンに彼のアップが映し出される。
その瞳がみるみる涙であふれ、セリフのない数十秒のシーンでラストを迎える。

私にとって強烈に胸に刻まれたのは、ジュリアン役の少年が、決して『涙を流す』のではなく『涙を目にいっぱいためる』をキープする数十秒を見事に演じ切ったこと。
日本の作品でも海外の作品でも、子役たちの圧倒されるような『泣き』のシーンを数多く見てきたが、あのラストシーンのジュリアンの『瞳にみるみるあふれる涙』の演技を超える涙はまだない。

戦争がもたらした悲劇とか理不尽さとか、難しいことは多分、まだよく理解していなかったと思うジュリアン。けれど、理由もなくボネとの友情を突然奪われれる絶望感や言葉にならない哀しみは、瞳にみるみるたまる涙が痛いほど物語っていた。

余談だが、この映画に関しては実は苦い後悔もある。
感動を抑えきれなくなった当時の私は、無謀にも熱い想いを何とかしてルイ・マル監督に直接伝えたいと切望、愛読していた映画雑誌『スクリーン』の編集部に手紙を送り付けたのだった。
「何とかして直接、想いを届けたいが、監督へ届く送り先を教えてほしい。また、英語で書いても大丈夫か」などの内容で。
ほどなくして「ぜひ送って下さい。監督も喜ぶと思います!」の前向きな返答の手紙が届き、監督への送り先の住所も書かれていた。(個人宅だったのか勤務先だったのか、よく覚えていない)

大歓喜したにもかかわらず…
愚かな私は日々の生活に翻弄され、例によって「いつかそのうち…」と先延ばしにしていたある日、新聞の片隅に衝撃的な記事を見つける。それはルイ・マル監督の死去を報じる小さな記事だった。

もう二度と監督に想いを伝えることはできなくなったショックは大きく、スクリーンの編集部のご厚意まで無にしてしまった後悔で、しばらくは立ち直れなかった。
先延ばしで失うものの大きさを、この件で思い知ったはずなのに。。。
あれからウン十年、ズボラ体質は今だしっかり健在な自分にトホホです;;;;

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