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「一体感」とは何か?

 ここ最近、サポーター界隈でトリテン の記事が話題となっている。いずれも
チームの内情に踏み込んだ内容となっており、下平監督が赤裸々に語ってくれている。自分は普段twitterを通じて発言しているが、140文字に自分の思いを収めることができないので、"note"に記載することにした。

 一連の記事のきっかけとなったのは監督ではなく、野村選手の記事である。その後の坂選手のインタビューでも触れられていたが、現役選手がここまで発言するということはかなり珍しいと思う。ある種のチームやクラブ運営に対する批判にも繋がるし、凄く勇気がいることだと思う。まずは話してくれた野村選手に感謝したい。野村選手は過去のインタビュー記事をみても、自分を客観的に捉えること、また言語化することに非常に優れたプレイヤーであることが分かる。その選手からの発言は重い。記事は有料であるため詳細な内容については言及を避けるが、野村選手が指摘したのは片野坂前監督(片さん)の功罪とも言える部分だった。

 片さんが就任中によく使っていた言葉、「矢印を自分に向ける」。僕自身も、仕事が上手くいかないとき、この言葉をよく呪文のように心の中で繰り返していた。キャッチーな言葉は、時に言葉以上の力を持つ。実際にトリニータの選手たちがこの言葉をどの程度大事に捉えていたかは不明だが、過去の選手インタビューから考えるに、少なくとも軽いものではなかったとは考えられる。

 ご存知のようにサッカーは「チーム競技」である。そのことについては誰でも知っている。ただ、選手には生活があり、家族がいる。これは遊びや部活ではなく、仕事なのだ。ここにサッカー選手の難しさがあると思っている。矢印を自分に向け過ぎてしまうことで、全体を俯瞰して見れなくなる。さらに片さんは、細部まで設計された戦術を好む監督だ。各々がポジションで与えられた役割を果たそうと必死になる。片さんの指示通りに動くと面白いようにハマる。そこに勝利という成功体験がついてくるし、自分が上手くなっていく感覚もある。また、指示通りに動かないと使ってもらえない現実もある(インタビュー記事より)。そうすると片さんの意図は別にして、個々の判断という部分が希薄になり、チーム競技から個人競技に変わってしまう。当然ベンチやベンチ外メンバーはチーム愛が低下する。

 これは、片さんだけが原因という話ではないと思う。あの時の大分はそういう方針だったし、それで実際勝利できていた。ただ、人間が考えられることには限界がある。徐々に相手に研究されて立ちいかなくなってしまった。片さんの機能美に、選手の「個性」が加わればあるいは違っていたかもしれない。片さん自身もその部分を待っていた節はあるが、選手の立場としては、そういう風にチームとしての方針を示されてしまうと、なかなかそこから1歩というのは難しかったのではないか。自分自身の方がチームに貢献しているのに、上手いのにと不満を持つ選手がいると、組織としては成り立つのは難しい。

 以前のチームは良くも悪くも文字通り「片さん」のチームだった。例えば強豪チームだと、チームカラーと伝統は既に根付いているものであり、監督が変わってもチームを代表する、体現する「選手」がいる。大分はそのカラーを今作っている時期で、まだそこまでの段階ではなかったのかもしれない。

 今季からチームは下平監督(下さん)に引き継がれた。サポーター自身も、片さんに慣れていたこともあり、チームの良し悪し、勝利できるかどうかを監督力に求めているところがある。実際に戦うのは選手なのだ。ただ、トリニータのサポーターも片さんによる勝利体験にどっぷりハマっていたので、監督に求める期待が大きかったというのも事実だ。

 下さんに変わってから、色々な批判も起こった。やれ交代が遅いや、特定の選手を使いすぎなど。当の僕もAmazon primeの横浜FCドキュメンタリーを観たせいか、あまりいい印象を抱いていなかった。その中で印象的なシーンが、下さんが横浜FCを去るときに、お互い酷くあっさりしていたこと。また、下さんが出て行った後に、横浜FCの選手たちが「戦術ばかりになって基本の戦うところができていなかった」と口々に語っていたこと。そこが気になった。元々トリニータは戦術ベースのチームなので、同じようになるのではないかと危惧していた。

 しかし実際に起こったことは真逆だった。選手自身がチャレンジすることを避け、そこを下さんがなんとかしようと着手する構図だ。横浜FCの時とは全く逆である。逆に横浜FCの時は、戦術がないところに戦術を取り入れ、最終的に戦術頼りで連敗し、解任されるという経験をされている。なんとも皮肉な話である。

 ただ今回は監督自身も変わろう(キャラ変)としてくれている。監督自身が変わり、ベテランが変わり、チームが変わり、そして最後にはサポーターが変わる、これこそ正しい「一体感」ではないだろうか。そういう意味では、僕はこれからのトリニータに非常に期待している。今回のことは、トリニータというクラブ自体が、一つ上のステージにいけるきっかけとなるような出来事だと思っている。これは、片さんが戦術を根付かせ、下さんが引継ぎいたことで起こった化学反応であり、正しい方向にチームが向かっているのではないかと考える。

 最後にサッカー選手の一体感について常々個人的に疑問に思っていることについて記載したいと思う。サッカーはチーム競技であるというのは先に述べた。ただ、中学、高校、今ならば大学時代と違って、チーム愛はどう構築されていくのだろうか。例えば医師の世界には「医局」制度というものがある。サッカーでいうところのチームにあたる。医局には様々な大学出身者が所属している。僕自身がどういった時に医局愛を感じるかというと、例えば同じ医局出身者が何かしらの賞を受賞した、代表して素晴らしい研究会や学会で発表をした、そんな姿を見た時に医局に対して誇りを感じる。つまり、他大学に向けて自大学の強みや良さを発信できたときだ。また、自分が医局にとって必要な人材であると感じたとき。あとは当然、過ごした時間もあると思う。

 振り返ってサッカー選手というのは不思議である。アカデミー出身者もいるが、多くは県外。強豪クラブでなければ長年所属する選手というのも珍しい。中にはステップアップと捉えている選手もいるだろうし、1-2年で去っていく選手もいる。さらにチームのためだけではなく、その地域のサポーターの気持ちも背負って戦わなければならない。現段階でトリニータは常勝軍団でもないし、タイトルはナビスコ杯(旧称)のみ。この中で、チーム愛、一体感を確立していくのは大変だと思う。ただ今年は「昇格」という共通の目標がある。また、下さんを含め、チーム全体が変わろうとしている。なんとか1年でJ1に復帰して欲しい。真に一体感が必要となってくるのは昇格後になってくると思うが、今のチームなら絶対に大丈夫だと思うし、そう信じている。

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