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岩瀬商店の明るい生き残り戦略


岡村 衡一郎

岩瀬商店にとって新店舗「ソメラボ」は生き残り戦略の柱である。
ジーパンなどの業務用染料販売が、下がり続けている現実への突破口をひらく店舗であるだからだ。一般消費者に向けて染める × ワクワクで活路を開く、コアな技術の応用的な展開で、生き残りをかける思いが、店名に込められている。

岩瀬商店は、広島県福山市で創業80年を超える、かつてはブラックジーンズの開発の一翼を担い、ジーパンの染料でダントツのシェアを誇っていた。
近隣にも染料を取り扱う業者が多数あり染料の町として活況をていしていた。しかし、今は輸入品に押され国内生産の落ち込みとともにその陰をひそめている。染料を商売としているのは、岩瀬商店を含めて数社があるだけである。

業務用染料だけを扱っていても未来がない。岩瀬茂揮さんが家業を継いでから右肩下がりの業績をなんとかしようと試行錯誤の日々は続いていた。

畑違いの業種に飛び込み営業、過去取引のあった企業に何かできないかと持ち掛けたり、お坊さんの仕事の道具をブランド化したり、地域のイベントに染体験コーナーをつくって参画したりと、思いつくことはすべてやってきた。

「なんでも染めます」。
社長は、名刺を渡すたびに一言添えて、営業活動を行なってきた。
その中で、飛行機の大型模型を染めて欲しい、イベントで海面を真っ青に染められないか、など面白い引き合いもいくつか取れた。
しかし、リピートで安定的に商売につながるものは、なかなか見つけることができなかった。
どれも、お客さまからは感謝されるものの、スポットの依頼ばかりである。

感謝されるものの労多くしてもうからない。染料の卸売りに変わる、新たなビジネスの種はなかなか見つけることができなかった。そんな中でも、地域のイベントに染体験コーナーでは、わずかではあったが、毎回楽しみに参加してくれるお客さまがいた。一般消費者向けに、ささやかに売っていた染料のミニボトルを、店頭まで定期的に購入しに来るお客さまが現れてきた。

何でも染めます、染められますという手探りの中で見えてきたのは、業界では誰も商売にはしていないが、染めるという体験そのもので固定客ができていくのではないかという可能性と、お客 さまにとって大切なものを染め直す先が、身近にはないという事実であった。これらの変化への情報をどうするのか。考え抜いた上で、開店したのが「ソメラボ」である。

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