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”愛着”や”想い”を受け取り、繋いでいく、温故知新。<あの人の温故知新 vol.1>

< FUNagain オーナー高島大輔さん>の温故知新

温故知新。古きを訪ね、新しきを創造すること。私たちの社名でもあり哲学でもあるこの考えをもとに、『あの人の温故知新をのぞいてみよう』という企画がスタート。第一回目は、東京にあるリサイクルショップFUNagain(ファンアゲイン)というお店を訪ねました。

ふつうとは一味ちがったリサイクルショップを運営する高島さんの審美眼やお店づくりには、”温故知新”の本質と呼ぶべきヒントが隠されていました。FUNagainのオーナー高島大輔さんと、温故知新の代表松山社長、プランナーの小林の対談をお届けします。

左から:温故知新プランナー 小林未歩 /温故知新代表 松山社長/ FUNagain オーナー高島大輔さん

自慢や見せるためではなく、自分のためのインテリアに出会う。

小林:高島さんは、昨年こちらにお店をオープンされたばかりなんですよね。簡単にお店の概要やコンセプトなど、ご紹介をお願いします。

高島:一言で表現するなら、リサイクルショップを『編集』した店だと思います。これはどういう時代背景があって、高級だから・・・というような従来の価値観や流行だけではなく、自由と楽しみをもって好きなものを選んでほしいという考えのもと、お店づくりをしています。人の目や、先人の作ったルールや価値観を気にしすぎたり、自慢やステータスとしてのインテリアではなく、本当に自分が素敵だなと思えるものと出会ってほしい。そんな想いでやっています。

小林:とても素敵なコンセプトですよね。実は私の自宅にもFUNagainで購入したインテリアがいくつかあります。手頃な値段なのに、味と個性があって、とても気に入っています。値段の安い/高い、有名である/ない、という価値基準ではなく、自分が本当に楽しい・お気に入りだな、と思えるものとの出会いをいただけたなあと感じています。

松山:あまりの素敵さにFUNagainで買ったよ!と自慢したくはなっちゃいますよね(笑)やはりその編集力というか。道端で見たらなんでもないようなものが、FUNagainでみるととっておきのものに見える。そのしつらえ方や魅せ方にハッとさせられますね。

FUNagainの店内。高島さんのキュレーションによって並ぶアイテムたちは、遊び心と生活の物語が詰まっている。

高島さんがインテリアコーディネートを手がけた、温故知新のホテル

小林:高島さんには、実は温故知新のホテルのインテリアコーディネートを手がけていただいてもいるんですよね。岡山のKEIRIN HOTEL 10と、長崎の五島リトリート rayです。私も一緒に開業の準備をしたのですが、どこから見つけてきたの!?という個性的なインテリアがあれよあれよという間に集まってきて。一見、並んでいないとバラバラになりそうな品々が、高島さんの手にかかるとバチリと、ずっと昔からそこにありましたよ、という顔つきになってしまう。コーディネートの際、何か意識されていたことなどはありましたか?

KEIRIN HOTEL 10のエントランス

高島:KEIRIN HOTEL 10では、『昔の競輪場の歴史を引き継ぐ』というコンセプトを提示していただきましたが、今の時代に見てもかっこよくみえる、という点を意識しました。競輪場の廃材を使用したり、競輪場がもともと持っていた”昭和”の雰囲気を取り入れながらも、”昭和レトロ”という表現ではなく、時代背景や廃材を生かしながら現代的に見える空間に。懐かしい、昭和レトロ的な感情は限られた人にしか届かないので、より多くの人達にその歴史を感じてもらえればという想いを込めてもいます。特にスイートルームでは、民藝品と工業製品がミックスされていたイームズ邸を頭に置きながら、プラスチック製品が大量に流通していて、競輪場が盛り上がっていた80年代に置き換えて選定、レイアウトしました。

KEIRIN HOTEL 10 スイートルーム

松山:まるで、魔法みたいでしたね。どこか古さを内包しつつも、とても新しい空間に見える。古さをそのまま捉えるのではなく、現代で見た時にも新しくかっこいいと思われる形で表現をすることが肝だったんですね。廃材を使ったり、昔の歴史にスポットを当て、価値がないものとされるもの、捨てられてしまうはずだったものに光を当てて、新しい価値を生み出していく。温故知新の哲学でもある、「光を見つけ、磨いて、届ける」という想いと、高島さんのまなざしは、近しいものを感じています。

”もの”の本質と対話する、『目利き力』

松山:FUNagainでは、かなり手頃な価格で掘り出し物と出会える。それは、やはり高島さんの目利き力がすごいわけで、これはなかなか真似できない。一体、どういう視点でものを見ているんでしょうか?

高島:新しい、価格が高い、ブランドものであるかないかなど、一旦そのバイアスを外して見ることは、心がけています。そのもの自体の作りや、造形、垣間見える作り手のこだわりを感じる部分など、それにしかない唯一無二の個性を見つけるようなイメージです。このカーブ、絶対手間暇かかっているな、このこだわりは一体どういうことなんだろう?のような。合理的ではない部分を見つけたり、純粋にものとしての美しさに目を向けていますね。

松山:驚きました。普通のひととは、一段違うレイヤーでものを見ている。無名有名、値段が高い・低いではなく、ものそのものへの敬意の眼差しを感じますね。差別がない。もの自体と向き合い、作り手と対話をしているんですね。

『良い違和感』に滲み出るのは、もの本来の価値や意図

高島:先日、ちょっと嬉しいことがあって。古物の競りで、他の人たちはみんなスルーしていた椅子があったのですが、どうしても気になったんです。特にサインなどもなく、一見無名に見える椅子だったのですが、横から見ると少し座面が浮き上がっていたり、脚もまっすぐではなく、下に向かいシェープされていて美しい。こういった部分には、作り手の何かの意図を感じます。自分の中にある情報と照らし合わせて、『良い違和感』を感じて、目に留まったんです。

浮き上がる座面と、下に向かいシェープな脚

高島:のちのち、しっかり調べてみると、フランスのミッドセンチュリー期に活躍したピエール・ガーリッシュというデザイナーの手がけた椅子だったんですね。彼は、コルビジュの建築に対して家具デザイナーとして働いていただけでなく、建築家としても活動しました。『良い違和感』を感じ取ったからこそ、出会えた椅子でしたね。

松山:それは、ホテルを作る時もまったく同じことがありますね。唯一無二のものを感じたり、そこにしかない、ありえないものを見つけた時は、痺れる。『あぁ、絶対にここだ!』となるんです。それはもう、有名無名とか関係なく。確かに『良い違和感』というのは、素晴らしい言語化ですね。

小林:『良い違和感』を感じ取れるようになることは、本当に良いものを選び取る目利き力に、とても重要なポイントなのかもしれませんね。良い違和感に気づくには、一体どうすればよいのでしょうか?

高島:インテリアなどに関しては、ある程度の”型”はあるので、それは勉強でどうにかなる部分もありますが、私自身、自分のお金を使ってたくさんのものを買って、たくさん失敗して、たくさん経験してきました。まずは、いろんなことを見て、経験することが、なにより大切だと思います。そうやって、自分の中に情報が蓄積されていくからこそ、違和感と出会った時に気がつける。他にも、古いものや歴史背景を知ることで、目の前のものをより正しく判断できるようにもなります。やはり”知ること”が重要ですね。あとは、何か良いなと思ったものと出会った時、”その理由を言語化して捉える”というのは、日々かなりやっています。

松山:先ほどの椅子もそうですが、高島さんは『良い違和感』や魅力を、「なんかいい」で終わらせず、こういう理由があって、と全て説明できていますよね。言葉にできるからこそ、再現性がある。

高島:お店のInstagramでも、なぜ自分がこのアイテムを良いと思ったのか、どんな風に使ってみたいかなどを、言葉で発信しています。FUNagainで出会うものは、リサイクルショップはふつうの古道具屋さんにあるものなんです。選び方やしつらえ次第。それをみんなに気づいてもらいたいなと思いますね。

小林:私も、FUNagainでものを買ってから、高島さんだったらどう見るかな?と考えるようになって。"高島目線"をちょっぴり手に入れたというか(笑)高島さんの言葉や眼差しが、自分の好きを見つける補助線になってくれています。自分の好きや、自分が何を良いと思うのかを知る手助けをしてくれるお店は、とても温かな価値があるように思いますね。

高島さんの”温故知新”=”愛着”や”想い”を受け取り、繋いでいく。

小林:最後に、この企画の中で共通で皆さんにお聞きしたいことがあります。「あなたにとって温故知新とは?」です。高島さんやFUNagainの考える温故知新とは、一体なんでしょうか。

高島:明確な答えになるかわからないんですが・・・。FUNagainは、「The Circulation of Love!!」というスローガンを掲げています。文字通り、リサイクルショップなので、ものが循環していくわけですが、今の時代、循環(Circulation)というワードが、流行りの言葉的に、すごく消費されてしまっているように感じていました。薄っぺらい、パフォーマンス的な言葉ではなく、Circulationには本当に何が必要なのか。それを考えた時に、必要なのは「LOVE」、つまりは「愛着」だと思ったんです。誰かが大切にしてきたものは、これからも大切にされるだろう、と。

小林:私たち、温故知新のホテルづくりにも、とてもシンパシーを感じますよね。

松山:ですね。温故知新も職人、地域、オーナーの想いを受け継ぐことを、大切なコンセプトにしています。古いからいいというわけではなく、残っている理由がある。高島さんがおっしゃるように、大事にされてきたものは残っているんですよね。そういう意味では今の時代に残っているのは、もうそれだけで価値があるものと言えるのかもしれない。ホテルも、もちろん、一からつくる方が思い通りにできますし、簡単です。それでも、再生が決まったホテルや旅館に今の時代にはもう造れないだろう「匠の技」を見つけたりすると、長年お客さまを見守ってきた重みを感じるというか、理屈じゃなく「大事にしたい」と思ったりしますね。

小林:”温故知新”という言葉だけでいうと、古い=価値がある、とも受け取られてしまうこともあるように思うのですが、古いことが価値というわけではなく、そこにある脈々と続く”愛着”や”想い”を受け取り、繋いでいく。それが温故知新の本質なのかもしれないと感じました。

ぜひ、高島さんの温故知新を、実際にFUNagainのお店や、手がけていただいたホテルでも感じていただければと思います。今日はありがとうございました。

<取材協力>
FUNagainオーナー:高島大輔 / DAISUKE TAKASHIMA
セレクトショップのVMD、MDなどを経てインテリア商品を取り扱うリサイクルショップ〈FUNagain(ファンアゲイン)〉を千駄木にオープン。現在はショップ運営の他に、ホテルや個人宅のインテリアスタイリング業務も行っている。
Instagram /  HP


編集後記:(温故知新 プランナー
小林未歩

"古いもの"が、どんどん壊され、なくなっていくことに、悲しさを感じることがあります。もちろん、全てを残していくべきとは思わないですが、そこに存在していた誰かの想いや思い出なども、一緒に無くなってしまうと思うと、やりきれない寂しさがあるのです。

自分が大切に想っていたものがなくなってしまう悲しさは、大なり小なり、誰しも経験があると思います。一方で、自分が大切にしているものを、同じように誰かが大切にしてくれたり、好きになってくれるのは、純粋に嬉しい気持ちになりますよね。

私たち人間は、きっと、そんな"嬉しさ"のバトンを繋ぎながら生きてきたのではないかと感じます。消費社会が発展したことで、作り手との距離が遠くなり、まわりの人との関係性が希薄になるにつれ、誰かの想いを直に受け取る機会が少なくなってしまいました。そんな時代にもう一度、誰かの想いを受け取ることに目を向けてみる。きっとそこには、自分や誰かの喜びに繋がる、素敵な"循環"がある。実は、それが、"温故知新"の根っこなのかもしれない・・・。そんな風に感じた、今回の対談でした。高島さん、ありがとうございました。



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