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「フェミニスト」のポジネガ分析

背景

 SNS上のコミュニケーションが社会に与える影響は非常に大きくなっている。ユーザーの属性や結びつきを明らかにする、あるいは炎上やフェイクニュースを検知するなどの研究がさかんに行われている。最近では、ネットワーク分析や自然言語処理などを組み合わせて、大量のデータを解析することで、社会科学的に新規性の高い知見が得られている。

 例えば、以下の論文では、保守の声はリベラルの声よりも中間層に届きやすいことを明らかにしている。理由として、「保守の方が返報を行う」「保守と中間層の言語的な親和性がある」ことなどが挙げられている。また別の記事でも、リベラルは、アカウント数に対してRT数が異常に多く、RTを繰り返している、内輪のネットワークだけで閉じていることが指摘されている。


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 それでは今回の全国フェミニスト議員連盟の炎上に関してはどうだろうか。「ジャーナリスト」の郡司真子氏(@bewizyou1)側の認識としては、以下のようである。

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 全国フェミニスト議員連盟を擁護する意見が世論であり、議連への批判は無視してよいとの認識らしい。本当に世論がそうであるか確認するため、抽出したツイートから、「フェミニスト」に対してどのような言葉がどのようにツイートされているか、また、どれだけの人がフェミニストを支持しているか検証した


解析の流れ

①「フェミニスト」というキーワードを含むツイートを11,899件を抽出した。

➁ツイート全体として、どのような単語がどのようにツイートされているか確認した。

③11,899件のうち、「フェミニスト」にポジティブなツイートを数えた。

④「フェミニスト」にポジティブなツイートの中で、どのような単語がどのようにツイートされているか確認した。

なお、ツイートは2021年10月11日18時頃集計している。


解析結果

 まず、抽出した11,899件のツイートのうち、どのような単語がどのような関係性でツイートされているか可視化した。

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 各ポイントの大きさは単語がどれだけ出てきたか、また親和性の高い単語を同じ色で表現している(小さくて見えないようだったらグラフを改善します)。まず一見して、4つのグループが確認できる。

①右側、黄緑のグループでは、「戸定梨香」さん、「板倉節子」社長、「対話」「誠実」「活動」などが確認できる。今回の被害となった戸定梨香さんや板倉節子社長を応援するツイート群である。

➁右上、青のグループでは、「Vtuber」「性」「犯罪」「被害」「レッテル」などが確認できる。「フェミニスト」側の無根拠な主張に対して、批判をツイートしているツイート群である。

③左上、ピンクのグループでは、「議連」「会見」「不審」など、全国フェミニスト議員連盟が(思想の近い記者のみを招いたと指摘されている)会見に関するツイート群である。

④下、緑のグループでは、「郡司」「真子」「記者」「おかしい」「デマ」などが確認できる。今回の全国フェミニスト議員連盟の会見に参加していたとされる郡司真子氏への批判のツイート群である。

「フェミニスト」側がどう受け止めてくれるかはわからないが、私を含め、多くの方にとって、至極妥当な結果であろうと思う。


フェミニストに対してポジティブなツイートの解析

 それでは、11,899件のうち、「フェミニスト」に対してポジティブなツイートはどのぐらいだろうか。ポジティブ/ネガティブの判断には、pythonにおける辞書ベースの日本語の感情分析のライブラリ「oseti」を用いた。

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 全体のうち、828件がポジティブと判断されており、全体の約6.96%である。実際には、日本語の完全なポジティブ/ネガティブ判断は難しく、「フェミニストさん出番です!」などの、好意的な文章に見せかけた煽りなどをそのままポジティブと判断している。また、ライブラリの精度もまだ不十分な部分がある。しかし、yahoo リアルタイム検索における結果と同じ水準であることから、妥当な数字だと考えられる。

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これらの、フェミニストに対してポジティブなツイートは、どのような言葉がどのように関係しているだろうか。

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これも大きく分けて、4つのグループが確認できる。ただし、ポジティブなツイート数がそもそも少ないため、頻出単語の導出が難しく、関係性が把握しにくいことに留意していただきたい。

①右上、青のグループは、「界隈」「事実」「馬鹿」「好き」「嫌い」などが確認できる。おそらく、「フェミニスト」に批判的な集団を感情的に揶揄するツイート群だと考えられる。

➁左上、ピンクのグループでは「認識」「詭弁」「喧嘩」などが確認できる。確証はないが、「フェミニスト」に批判的な集団を「正直相手にしてられない」「詭弁だ」とするツイート群だと考えられる。(感情的に揶揄するツイート群と何が違うのか・・・)

③左、黄のグループでは、「全国」「議員」「連盟」などが確認できるが、このツイート群は感情を読むことが難しい。

④右下、緑のグループでは、「石川」「共産党」「動画」「広告塔」などが確認できる。最近、石川優実氏が共産党の広告塔として動画に採用された件に関するツイート群なので、今回とは関係はない。

 もちろん、両陣営とも、単語のみでどのような論理が展開されているかは把握はしきれない。ただ、「表現の自由」側は、戸定さんや板倉社長を労いながら、フェミニスト議員連盟の無根拠な主張、仲間内だけの記者会見、郡司氏などに疑問を抱いている中で、「フェミニスト」側は「詭弁」「嫌い」「相手にしない」といったツイートが見て取れ、我々が感じている停滞感も納得である。6-7%という数字で、もし本当に女性が自由な社会を目指しているのだとしたら、対話しないことが本当に最善なのだろうか。

まとめ

・「フェミニスト」が世論かどうか実際に検証した。

・頻出単語とその関係性をネットワークで可視化した。

・「フェミニスト」に対してポジティブなツイートはおよそ6-7%。

・戸定さん、板倉社長や関係する被害者は今なお苦しんでおられる。「フェミニスト」側は対話の席に着いてほしい。


私見

 「フェミニズム(-ism)」はイデオロギーや宗教の部類だ。宗教は決して悪いものではない。人が生きるには、強く信じる柱が必要だ。他の宗教も受け入れる(八百万神的な)日本では、宗教を実感することは少ないが、「座右の銘」などもひとつの小さなイデオロギー・宗教であり、誰かの生きる柱になっている。

 郡司氏にブロックされているので、ツイートの詳細は追えないが、性的な被害にあった経験があるそうだ。その心痛は察するに余りある。当然、性犯罪は許すべきではないし、「性的要素の嫌悪」的な側面も見て取れる、現代の「フェミニズム」に傾倒するのもわからなくはない。

心の健康を保つためには、深く考えないのがいちばんだし、そのためにはシンプルなイデオロギーに主体を明け渡すのがラクチンだ。倫理の崖っぷちに立たせられたら疑問符などかなぐり捨てろ。内なる無神経を啓発しろ。世界一鈍感な男になれ。正しいから正しいというトートロジーを受け入れろ。(『虐殺器官』/伊藤計劃)

しかし、ジャーナリストとしてはどうだろうか。郡司氏はジャーナリストについてこう述べている。

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これは明確に異なる。ジャーナリズムとは「様々な問題に対し、その本質を公衆に伝える」ことだ。

日々に生起する社会的な事件や問題についてその様相と本質を速くまた深く公衆に伝える作業。

 一つの立場から見た「事実」は、物事のひとつの側面でしかない。「主観と客観」「抽象と具体」といった作業を繰り返すことでしか本質は見えてこない。イデオロギーに主体を明け渡し、客観を捨て、「被害者」の立場からしか物事を観察せず、正義を正義と信じ、中立を否定するその姿勢は、ジャーナリズムでは絶対ない。

「貴方は、言葉を駆使して自分の歩いてきた道の舗装をされているだけよ。貴方は、後ろ向きに掃除をしているだけ」(『黒猫の三角』/森博嗣)


参考にした他の論文

榊 剛史ら, "ソーシャルメディア上の大規模情報拡散に関する俯瞰的可視化手法の提案", The 33rd Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2019

K. Uchida et al., "Comparative evaluation of two approaches for retweet clustering: a text-based method and graph-based method", Web Intelligence, vol. 17, No. 4, pp. 271-284, 2019

https://content.iospress.com/articles/web-intelligence/web190418

 

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