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小説紹介

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#物語

短文小説紹介 #4

概要 僕は自分のTwitterアカウント(@OnishiHitsuji)で小説の紹介をしている。ここにまとめられた7つの紹介の文章はそちらで共有しているものと同様だ。  今回は025から031までとなっている。 025-リチャード・ブローティガン「東オレゴンの郵便局」 とても好きな作家。あるいはお気に入りの作家。べつに好きだってことはないんだけどもこれまで沢山読んできたし、新刊が出ると手に取ってしまう作家――僕の場合には村上春樹。  習慣的に小説を読む人には、おのずとそのよ

短文小説紹介 #3

018-バーナード・マラマッド「魔法の樽」「恋愛」という単語にいったい何をおもうだろう?  僕としては、あるときには最良のもののひとつであると考えている。事実はさておき。  人が都合のためにパートナーを求めるとき、それは欲からなる罪深きものであるように僕には思える。ユダヤ人の祭祀になろうとしている主人公リオも、祭祀としての立場からで結婚斡旋人に連絡をとる。やってきたのはソルツマン。魚くさいにおいがぷんぷんし、商人のあの薄笑いを浮かべている。彼が手品師のように語る手前で、青年リ

大西書評堂#6 『左ききの女』

ペーター・ハントケ『左ききの女』(池田香代子訳) ・あらすじ  女がいた。女は子供といた。スカンディナヴィアに赴任している夫が「居住ユニット」と呼ぶその部屋でトウヒの眺めを見つめていた。子供はだだこねて、遊び続けている。女は文句を言うが、それでも子供は遊んでいる。  女は空港にひとりでいき、夫を迎える。帰りしなに、彼はスカンディナヴィアで孤独だったと話す。誰にも言葉が通じなかった、と。  帰って荷物をおろしてから、夫は変な感じだと話す。孤独でないことになれない感じだと。女は夫

大西書評堂#5 「何を見ても何かを思いだす」と「静けさ」

アーネスト・ヘミングウェイ「何を見ても何かを思いだす」(高見浩訳)・あらすじ  受賞したその小説を読んで、父は驚いていた。「どんなにいい出来かわかってるかい?」と息子に尋ねる。息子のほうでは「パパには見せたくなかったな」と言う。「お母さんが勝手に送ったのは心外だったな」とも言う。息子ははっきりしない態度で、しかし嬉しそうにしている。父のほうではじつに驚いていた。息子の小説を素晴らしい作品だと評していた。父は創作について尋ねる。どれくらいかかったんだ?――そんなにかからなかった