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小説紹介

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#短編

大西書評堂#5 「何を見ても何かを思いだす」と「静けさ」

アーネスト・ヘミングウェイ「何を見ても何かを思いだす」(高見浩訳)・あらすじ  受賞したその小説を読んで、父は驚いていた。「どんなにいい出来かわかってるかい?」と息子に尋ねる。息子のほうでは「パパには見せたくなかったな」と言う。「お母さんが勝手に送ったのは心外だったな」とも言う。息子ははっきりしない態度で、しかし嬉しそうにしている。父のほうではじつに驚いていた。息子の小説を素晴らしい作品だと評していた。父は創作について尋ねる。どれくらいかかったんだ?――そんなにかからなかった

大西書評堂#3 「クリスマスの思い出」と「八〇ヤード独走」

トルーマン・カポーティ「クリスマスの思い出」(村上春樹訳)・あらすじ  二十年前の秋のこと、僕はまだ七歳で、クリスマスの日は刻々と近づいてきていた。髪を短く切り詰めた女――背中がひどく曲がりこぶのようになっていて、頬はリンカーンのようにこけている――はうきうきした様子でクリスマス前の、この季節がやってきたことを僕に話しかけている。彼女は僕の親友だった。とても遠い親戚で、歳は六十を越している。彼女は僕のことをバディーと呼ぶ。彼女の子供時代にそういう友達がいたからだ。ただ、いまで