お風呂に入れなかった話

高校生、大学生時代の私はお風呂に入った記憶がほとんどない。

唯一、頭と顔だけは毎日洗面所で洗っていた。
今思うと異常だよなぁ。なぜ入らなかったかと謂うと、正直よくわからない。ただ、家にいると母親に監視されているような気分になっていたのだ。
つまり、母親も音や見えるものに敏感だったと思う。些細な私の変化や、いつトイレに行ったなども無意識に感じ取ってるような気がしていた。私は実家にいたときはトイレに行くことすら不自由を感じていたと思う。

頭を洗うタイミングは朝、母が仕事で家を出た後だ。もしくは母が朝食を作っている時。
朝は唯一母が私を構ってる暇が無い時だった。父も仕事で家を出ていることの方が多かった。誰もいない家になって初めて自分の活動する時間がスタートするのである。学校がある日は学校へ行くし、よくサボっていたのでそのまま部屋にこもることもしょっちゅうあった。

母は基本的に忙しい人だ。
だから尚更、子育てが本人的には満足のいくものでは無かったのだろう。当然だ。私はまともに風呂も入れない人間になってしまったのだから。なので母は一年に2回くらい爆発する時がある。爆発するときは3~4時間説教される。でも、いつも何で怒られてるのかがわからなかったのだ。今思えば、母親はずっとずっとずーーーっと私に対する不満と、
子育てが出来てない私に対する負い目の二つにぶつかっていたんだと思う。怒ってる内容もかなり感情的で、よくわからなかったから今は全然思い出せない。ただただ苦痛な時間として私の中に刻まれている。ただ、母親を怒らせた自分が悪いし、そもそも風呂もまともに入れないようなやつだから怒っているのだろうと自責の念にかられていたと思う。

そうだ。私は母が怖くて仕方がなかったのだと思う。でもこんなに怒らせて申し訳ないとも思っていた。母が怖いから家に帰りたくなくて、友達や異性と遊んで深夜に帰る日が多かったと思う。恐らく、実家に対する逃避からの遊びだったと思う。案の定母には良くない感情を抱かせてしまったのだが。母は多分私のことは嫌いだったと思う。でも彼女は不器用だ。真面目過ぎると思う。そしてネガティブで正義感も強い。だからこそもどかしかったんだと思う。
思う、ばっかりの文章になってしまった。この文は私の勝手な偏見に過ぎない。
でも何となくそうなんだろうな、って思ったきっかけがある。それがいつなのかと言うと、私が仕事を始めるので実家を出て何年かした時のことだ。久しぶりに実家に帰ったときに、母親に、

「たまに連絡し合ってくれないと困る。帰ってきて会話してくれないと困る。家族ってそういうものでしょ?」

と言われた。
やっぱり、彼女の中に「家族」の理想像みたいなのがあったんだ、と何となく私のなかでカチッとハマった瞬間だった。同時に理想像があって、真面目で正義感が強い人は逆に理想像によって縛られてしまうんだなと冷静に考えることが出来た。だって、母親にとっての理想像を押し付けるなんて、この人は何てエゴが強いのだろうと一瞬だけ今までとは別の恐怖を感じたからだ。私はこんな真面目になりたくない。極力他人にはエゴを押し付けないように気をつけている。

ちなみに、家を出てからはお風呂に入れるようになった。むしろ欠かさず毎日入れているので、大した進歩だと思う。今だったら実家でもゆっくり湯船につかることも出来るし、本当に当時の自分は異常だった気がする。