#01│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
犬が握りつぶされた。
鬼たちの笑い声が響き渡る。
(絵本で読んだ鬼と全然違うじゃねぇか・・・・・・)
でかい。
身の丈は人間の倍もある。
それに、上半身が異常に発達していた。
胴回りは大木のように太く、両腕は地面に届くほど長い。
(体格差がありすぎる・・・・・・!)
何より不気味なのが、頭だけ牛であることだ。
牛頭、というヤツか・・・・・・?
そんな鬼5匹に囲まれている。
刀を身体の正面で構え、目の前の鬼に対峙した。
奥歯はカチカチと鳴り、小便が漏れる。
犬以外に仲間はいない。猿も雉も道中で出会うことはなかった。
正面の鬼が、弓を引くように右手を振りかぶった。予備動作が大きい。
「右に跳んでかわす――!」
そう思っても、身体は凍り付いたように動かなかった・・・・・・。
◇◇◇◇◇◇
目を開けると、見慣れた天井が見えた。どうやら、布団で寝ていたらしい。
「気がついたようじゃな」
「わっ!オバアサン!?」
驚いて布団から半身を起こす。
隣で、オバアサンが正座していた。
顔が異常なほど皺だらけなので、ひそかに“ゴブリン”と呼んでいた。しかし、背筋はいつもピンと伸びており声にもハリがある。
「さっきまで鬼と戦っていたはず・・・・・・」
「お主は鬼と戦い、負けたのじゃ。そして、復活した。希火団子の力でな」
そうだ、鬼ヶ島に行く前、希火団子をオバアサンに食わせてもらっていた。まさか、こんな力があったとは。
「復活できるなんて、先に教えてくれてもよかったのに」
「教えたら、安心してしまうじゃろう?それでは本気の勝負にならない」
一理ある。
「桃太郎さ~ん!」
ふすまがスーッと開き、隣の部屋から白い犬が駆け寄ってきた。
「おぉ~楽丸も復活できたか!」
楽丸、というのはこの家で飼っているこの犬の名前だ。
この世界では、動物が人語を話す。当初は、不気味で仕方なかった。しかも、楽丸はなぜか関西弁だった。まぁ、すぐに慣れたが。
「鬼はすげぇ強かった。何もできなかったよ」
オバアサンは、ゆっくりとうなずく。
「奴らは強い。それに9999匹いるらしいしな」
そんなに・・・・・・!?
「難敵であるのは百も承知じゃ。それでも、これから戦いと復活を繰り返して鬼に勝たねばならん」
「簡単に言ってくれるなぁ・・・・・・」
楽丸も抱かれたまま抗議する。
「せやせや!こっちは人間一人とかわいいワンちゃん一匹やで?」
すると、オバアサンの目がみるみるうちに吊り上がった。
「あほぅが!前にも言ったじゃろ!あいつらは、若い女を奪っていく!」
オバアサンがどなる。
「一年に一回、生贄の女を送るんじゃぞ?助けたいとは思わんのか!それに・・・・・・」
それに?
言いかけて、オバアサンの歯切れが悪くなる。
「いや、何でもない。たしかに鬼は強いな。だからこそ、勝ちたいと思わんか?」
はっとした。
「お主は、希火団子の力で何度でも復活できる。経験・修行を積み、倒せばいいんじゃないか?」
オバアサンは、続けた。
「鬼を倒せば、一つだけ願いが叶う打出の小槌も手に入るらしいがの」
それって、たしか一寸法師のじゃなかったけ・・・・・・?
「まっ、お主が負けたままのウンコ野郎でいいなら、無理強いはしんがのぅ」
お、おもしれーこと言うじゃねぇか。たしかに、負けっぱなしってのはシャクだ。
いいぜ、やってやろうじゃないの。鬼どもをぶっ倒してやる!
ついでに打出の小槌も手に入れるぞ。
この世界に飽きたら元の世界に帰る!
ただ、現状は多勢に無勢だ。本気で鬼を倒しに行くなら、仲間の力も不可欠だろう。
「なぁ、オバアサン。このへんに、猿や雉っていないのか?」
「雉は知らん。猿ならおるよ」
「居場所を教えてくれ。行って、仲間になってもらう」
オバアサンは「構わんよ」と言ったあと、ため息をついた。
「ただ、あいつらが素直に仲間になってくれるとは思えんがね」
(つづく)
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