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「哲学対話で道徳を」の授業準備

「哲学対話で道徳を」のおにぎり流授業準備についてまとめます。
ステップを5段階用意してみました。

あくまで「哲学対話×道徳」の授業準備の一例ですが、
参考になればうれしいです。

ステップ①
「学習指導要領で調べよう」

「この教材で授業するぞ」と決めたら、指導書に書かれている内容項目を確認します。

例えば、「六千人の命を救った決断ー杉原千畝ー」(小学道徳6年・光文書院)を例に考えていきましょう。

指導書や年間指導計画をもとに、内容項目を確認します。
令和6年度小学校教科書 小学道徳『ゆたかな心』|光文書院 (kobun.co.jp)

主たる内容項目は、「C公正、公平、社会主義」であることが分かります。
教科書教材は、主たる内容項目に焦点を当てて考えられるように工夫させているので、教科書教材を活用する場合には指導書が指定している内容項目を確認するようにしています。

次に、学習指導要領解説で「C公正、公平、社会主義」を確認します。
今回は6年生なので、「誰に対しても差別をすることや偏見をもつことなく,公正,公平な態 度で接し,正義の実現に努めること」について考えていくことを把握します。

そして、解説の右ページにある「指導にあたっては」の部分も読み、この学年で触れたい道徳的価値を確認します。
内容項目を文節でわけて箇条書きにして項目立てると、整理できます。

内容項目を文節に分けて道徳的価値を探す方法は、道徳科 授業構想グランドデザイン:浅見 哲也 著 - 明治図書オンライン (meijitosho.co.jp)を参考にしました。

ステップ②
「教科書教材を読もう」

教科書教材を読みながら、確認していくことが3点あります。

その1:教材分析

教材の特徴を分類わけします。
分類は、XのKFC先生の資料を参考にさせていただきました。
(久保田・池田2020の論文が見つけられず…以前読んだのですが、前に格納されていたHPには入っていませんでした…共有できずすみません)

https://x.com/kenntatea/status/1692840433683149283?s=20

@kenntatea

改変しているのでだいぶ甘い分類かもしれませんが、今のところこれで困ったことはないのでこれでいっています。
今回は赤字の資料だと独断で判定しました。
(独断で判定するのは大事です。あまり突き詰めても時間が必要になります。)

その2:関連する内容項目

教科書教材を読みながら、山場を確認します。
この部分が「公正、公平、社会主義」を考えるきっかけになりそうだな…などざっくりとあらすじを確認していきます。

その過程で、「あれ?妻が出てきたぞ?家族の命も守りたいだろうに」「あれ?日本からOK出てないのにきまり破ったってこと?」のように、関連する内容項目が見えてきます。
子どもたちも対話をしながら、他の内容項目を通過しながら「公正、公平、社会主義」を考えていくことになるでしょう。

「規則の尊重」について話題が集中している時に、「今は、公正、公平、社会主義のことだけを考えましょう」なんて言っていたら、多面的に考えることができなくなってしまいます。
あらかじめ関連する内容項目を予想しておくことで、別の内容項目に話題が移っても慌てずに対話の道筋を見守ることができます。

内容項目の関連については、木原一彰先生の論文を参考にしています。J-STAGE(500 Internal Server Error) (jst.go.jp)

その3:子どもの問いを予想

「問い」というと堅苦しいですが、「疑問や不思議」のことです。
この教材を読んだら、我がクラスの子たちはどこに引っかかるかな、気になるかな、疑問をもつかな…という視点で読みます。

この段階でたくさんの問いを予想しておくと、実際に出す子どもたちが出す問いに動揺せずに授業を続けることができます。
この問いが、この後の対話スタートの問いになるのですが、この段階で「哲学的な問いをつくらねば」と考える必要はありません。

例えば、「ソ連がせめてきたとあったけど、日本とソ連を経由するならソ連の通過ビザは必要だったのか?ソ連からはビザはもらえたのか?」は、調べたら分かる問いなので、「答えのない問いを探究していく対話」である哲学対話にふさわしくない問いかもしれません。

だけど、気になるかもしれません。私は気になりました。
調べてみたい!って探究の心に火がついたら、それはすごいことだと思いませんか?

子どもの問いから始める理由は、「興味関心を高めるため」であると思っています。
「この問い、考えてみたい」というきっかけが見つかれば、その問いが哲学的な問いかどうかなんて関係なく大成功です。

他教科との関連で、社会と結び付けて歴史上の事実確認をする授業を設定してもいいですし、授業のあとに自分で「調べたい」とタブレットを取り出す子もいるかもしれません。
(私は日本史が好きだったので事前に調べたくなっちゃうし、時代背景も教えたくなってしまうので、事前に学習すべきか事後に学習すべきかは自分の中でまだ結論が出ていません。自分のクラスの子はどちらが良さそうですか?)

もし対話の問いに選ばれた場合には、「なぜそのことが気になったの?」と発案者に聞いてから対話を始めることをおすすめします。

「なせそのことが気になったの?」
「それだけの人が千畝のもとに殺到したということは、ソ連はどうだったのかなと思って…」
と気になった理由が知れたとします。
「たしかに、ソ連の動向を知りたいよね。教科書にこれ以上の情報がないからせっかくだからあとで調べてみたくなるね。もしかしたら千畝も同じ状態で情報が少なく、今と違って他国の情勢もわからない中で、殺到した人たちを見て千畝はどんなことを感じたんだろうね?」
と対話の流れの中から、千畝の状況や判断の理由などを考えていくように促すのもいいかもしれません。

そこで大事になるのが、次のステップ③です。

ステップ③
「これだけは聞くを用意しよう」

哲学対話の手法を取り入れた道徳の授業で、私は子どもたちにすべてを委ねなくてもいいと思っています。
ここでいう子どもたちというは、学び手という意味です。
授業のねらいがあるのだから、そこに向かって交通整理をする道しるべを差し出す進行役の教員が必要だと思っています。
進行役が子どもであっても構いませんが、その場合には完全に進行役(ファシリテーター)としての役割を全うする必要があります。

「思っています」と書いているのは、同じ仲間うちでも、この点に関して考え方が異なることがわかったからです。
なのであくまで、今現段階の私の考えは、と念押しをしておきたくなりました。

話を戻しますが、ステップ③は「これだけは聞く」を決めるです。

授業のねらいに向かって、「これは聞こう」という問い返しを決めるのです。
あえて発問を言わないのは、これまでの道徳授業のスタイルは、発問を3つ用意して、ひとつずつ話題を終えて次の話題にいくという区切りのある授業でしたが、今回はあくまで対話の流れの中で問うという意味で「問い返し」という言葉を選びました。
子どもたちが自分で選んだ問いについて対話している間に、問いを返すイメージです。

ステップ②で、この学年で触れたい道徳的価値を確認していたので、そこから「今回の教科書教材で」学ぶ道徳的価値を選び出します。

今回は、年間指導計画を参考にこちらに決めました。
令和6年度小学校教科書 小学道徳『ゆたかな心』|光文書院 (kobun.co.jp)

道徳の目標から、目指す道徳科の授業を考え、

「これだけは聞こう」と決めます。

もしかしたら、指導書に載っている発問や中心発問でいいのかもしれません。
結局それでいいんかい?と思われるかもしれませんが、教師のマインドセットとして、「子どもの問いでスタートして、子どもが中心の対話ですすめて、教師も一緒に探究する、または進行役として問い返すなど押し付けずに終末を迎え、子ども自身が何かに気付く」という意識をもつことが大事だと思っています。
この授業準備のステップを踏むことで、その意識が強調されていくでしょう。

道徳の授業NG集をまとめてみました。
押し付け道徳にはならないように、意識したいなぁ。


しかし、理想はあっても、そこまで授業準備に時間が取れないのは現実としてあるので、時短の場合には指導書の発問にお世話になりましょう。
専門家の方が集まって練り上げられていて、素晴らしい発問ばかりです。私もお世話になっています。

ステップ④
「導入・終末を決めよう」

対話への興味を促すために、導入で音楽や動画を流したり資料を見せたりすることもあると思います。
哲学対話×道徳の場合には、そのような工夫の他に「直球で聞く」というやり方があります。

今回で言ったら、「正義とは?」と聞くのです。

「導入」は対話前の自分の考えを明文化するため、テーマについて意識させるためという目的なので、時間をかけずに教科書教材へすすみます。
なので、少しスタイルは違いますが、「直球道徳」と言えばこの本ですね。
内容項目から始めよう 直球で問いかける小学校道徳科授業づくり – 東洋館出版社 (toyokan.co.jp)

そして、「終末」でも同じ問いを投げかけます。

対話を終えて、自分の考えは更新されたのでしょうか?
新しい考えに出会って、これまでの考えが塗り替えられたのでしょうか?
はたまた、自分の考えがより鮮明になったでしょうか?
最初よりももっと分からなくなって、まだまだ考えたくなったでしょうか?

そして、道徳の授業づくりを意識して、「これから」という視点も加えたいです。

ステップ⑤
「脳内哲学対話をしよう」

板書計画を兼ねて、脳内哲学対話をしてみます。
ステップ④までで授業の骨組みは完成したので、あとは流れを確認しながら
板書計画を立てていきます。

私はたいていマインドマップ形式で板書をします。
こちらは実際の板書ですが、ノートにも似た形で事前に練習します。

スタートの問いは当日子どもたちが決めるので、事前に確定させることはできませんが、問い返しをどのタイミングで入れるかなどを考えておきます。

上級者になれば、対話のライブ感の中で適宜問い返しができるようになるのかもしれませんが、私は成功したことがありません。
いつも反省ばかり…
だからこそ、ここまで夢中になって研究して「まとめたい」と思っているんだろうから、
悔しさが学びのモチベーションになっているのは事実です。

以上、「哲学対話で道徳を」の授業準備の一例でした。
いかがでしたか?
反応いただけたらうれしいけど、不安だなぁ…

また別の教材で、まとめてみます。

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