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自己紹介作品 パート3:ハヤト

前々回から始まりました、自己紹介作品。今回は私、note管理人のハヤトの作品をお届けします!

『屑星』


 山のふもとから続く緑のトンネルを抜けると、開けた視界が広がる。ここは僕の秘密基地。誰からも文句を言われず、注意もされず、自由でいられる僕だけの楽園。僕は学校をさぼって、毎日毎日ここで空を眺めている。人工的に作られた真っ青な空の外側を想像しながら、規則的に流れる雲を見る。約200年前に、人類が地球温暖化や大気汚染、伝染病から逃れるために作った、膜の外側の世界を想像するだけで、あっという間に時間は過ぎる。空も、草木も、風も、水も、全て人工的に作られているこの世界は、何もかもがつまらない。発展した技術で、何もかもが偽りと化してしまったこの世界が、僕は嫌いだ。だからいつか、必ず外の世界に行く。そういう思いで、毎日飽きずに空を眺める。それは僕の変わらない日常だった。

「どうして空を見ているの? 空なんてちっとも面白くないじゃん」
 いつものように空を眺めていると、ひとりの少女が僕に話しかけてきた。顔立ちの整った麗しい少女は、澄んだ目で僕を見つめている。
「誰?」
 急に話しかけてきた彼女に、なんと答えればいいかわからず、とっさに出てきた言葉を放つ。
「誰でもいいでしょ。ねえ、そんなに空が面白い? ただ同じ映像が流れているだけなのに。なにがそんなに面白いの?」
 僕の質問は適当に受け流す彼女は、何度もしつこく同じことを聞いてくる。
「別に空が面白いわけじゃない。外の世界が気になるだけだよ」
 やや怒り気味に言い放つ。できれば早くひとりにして欲しかった。
「ねえねえ、膜の外に行きたいの?」
 でも、彼女は帰るどころかさらに興味を示し、しまいには僕の隣に寝転んだ。
「まあ……行きたくないって言ったら嘘になるけど」
 彼女を横目で見ると、彼女のキラキラ輝いた目と目があった。
「私ね、君のお願いを叶えにきたの」
「意味がよくわからないんけど」
 頭のおかしな少女だと思った。言っている意味がわからない。とにかく、関わりたくないと思った。
「だからね、君が私に一つお願いをしたら、私が叶えてあげる。なんでも!」
 バカだ。ただのアホだ。心で毒づきながら、彼女にも分かるように顔をしかめてみせた。僕よりも少し年上に見える彼女は、そんなことを気にも留めていない様子で、真剣なまなざしを僕に向けていた。
「じゃあ、この膜を壊してよ。この偽りの世界を壊してよ」
 どうしてかムキになっていた僕は空を指して言った。もちろん、冗談だ。壊せるだなんて思っていない。でも、彼女はもちろんとでもいうように、明るく笑って、大げさに頷いた。
 ドーン
 大きな音と同時に、地震が起こったように地面が揺れだした。立っていられないほど激しく揺れていた。大きな縦揺れとともにバランスを崩し、しりもちをつく。仰向けに倒れると、空に亀裂が入っていた。その亀裂は徐々に開いていく。そして、膜が破れた。破壊された人類の技術の結晶は、キラキラと光る小さな粒となって、偽りの世界に降り注いだ。偽りの空も、偽りの雲も、偽りの水も、偽りの風も、全て消えた。少女も、いつのまにか消えていた。僕の前に広かったのは、果てしなく続く灰色の世界。こんなの望んでなかった。こんなはずじゃなかった。ただの冗談だったのに。偽りの草木がみるみるうちに枯れていく。僕の立つ丘も、みるみるうちに茶色と化す。あの緑のトンネルも跡形もなく消えていた。灰色の世界に、とてつもない暴風が吹く。その風に呑まれて、僕の体は偽りの世界とともに姿を消した。

******

 最後に書かれた「完」の字を見て、ボクは本を閉じた。未来は本当にこんな世界になってしまうのだろうか……少しの間空を見上げて考えていたが、答えが出ずに諦めて起き上がる。緑のトンネルを抜けて山を出た。ビルだらけの街にある家に向かって歩き始める。遠くにある工場からは、今日も真っ黒な煙が出ていた。

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