憧憬をいいわけにして
「朝まで飲みましょ、」
と言うと
「いいよ。でもセックスはしないよ」
と応えた。
その言葉は
まるで日曜日の吉祥寺をぷらつきながら
足を休めるカフェを探している時に交わすなんの気のない会話みたいなトーンで放たれて、
少し高いしゃがれた声は渋谷の夜の風に流されていった。
僕は一つ歳上のその女性の
きっぱりとしたその態度が好きだった。
屈託のない自己確信を持っているでもないのだが、
不安や悲しみも、まどろみも快楽も混濁した情緒を内に抱えながら
なぜだかその態度には揺るがない確信を感じさせた。
世田谷のディープな街で暮らし、
旅をするわけでもないのに
飄々とした空気を纏わせて生きていた。
きっとその人と
男女として結ばれることはないのだろうけれど
憧憬の気持ちをいいわけにして
ずるずるとこれからも時々、
酒を飲みに誘うのだろう。
普段吸いもしないタバコをポケットに忍ばせて。
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