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【SS】性格を変えた日記  #シロクマ文芸部

 赤青鉛筆で日記を書く。
 それは私のお決まりの夜のルーティンだ。

 今の職場で働き始めて七年が経過した。転職三回目の仕事なので今度こそは長続きさせたい。以前の職場では、上司のパワハラや待遇に我慢できなくなってキレてしまった。放った言葉は「こんな腐った会社、こっちから辞めてやるわ」だった。もっと他のやり方があったはずなのに、どうしても自分の感情を制御できなかった。結局その皺寄せは自分に返ってくることになることを十分に知っているつもりなのに、カッとなると肝心な時には知っている知識も役に立たない。他人のことなら冷静になって考えられるのに自分のことになると全くダメな私だった。

 ある日、モヤモヤしたまま会社帰りにショッピングモールに寄ってみた。服でもみて気分を晴らそうと思ったのだ。いつの間にか何気なく文具売り場の中に迷い込んでしまった。そういえば学生の頃は、文具売り場が好きだったなと思い出しながら展示されているペンやハサミなどをみて楽しんでいた。その時懐かしいものを見つけた。「あっ、これ今でも売ってるんだ」と懐かしさのあまり手に取った鉛筆。それは赤青鉛筆だった。鉛筆の半分までが赤鉛筆、反対側が青鉛筆になっているものだ。中学生のころ筆箱の中に入れていたような気がする。教科書の大切なところに線を引いたり、ノートで強調するところに下線を引いたりして使っていた。先生は、テストの丸つけ用に使っていた。丸は赤でコメントは青で書いてくれていた。

 赤青鉛筆を手に取ったとき、これで日記をつけてみようかなと突然思いついた。私の悪い癖は、売り言葉に買い言葉で返してしまうところ。これまで何度失敗したことだろう。もう、繰り返したくないし、楽しい毎日を送りたい。そう考えた時、日記をつけてみようと考えたのだ。何があっても夜になるまで怒らないことにしようと思い立った。そして大学ノートを日記帳の代わりにして毎日起こったことを書き始めてみた。その時、理不尽だなとかカッとなったことに関して赤鉛筆で書き込んだ。もちろん、それ以外のところは普通の黒鉛筆を使って書いている。

 何日か経って赤鉛筆で書いたことが解決したら、その下に青鉛筆でそのことを追記して、赤鉛筆で書いた項目に青鉛筆で横線を引く。青鉛筆で追記できるように日記自体は一行おきに書いている。青鉛筆で書いた部分が増えていくとなぜだか幸せな気分になる。何よりも、その場での反応ではなく一日以上、時間を空けての反応ができるようになり、心は常に穏やかでいられるようになったことが何よりうれしい。会社では「あなたって、本当に穏和で怒らない人ね。私もあやかりたいわ」と言われることが多くなった。以前の私ではとても考えられなかったことでとてもうれしい。

 私は、赤青鉛筆に出会うことで、会社生活までも変えることができた。赤青鉛筆に感謝である。ましてそれまで日記を書いたことがなかった私が七年間も日記をつけ続けられていることもとてもうれしい。ひとり日記を書きながら、最近は赤色の文字が減ってきていることに気づいて、思わず微笑んだ。もう、大学ノートの日記帳は何冊目になったのだろうか。

 私は、今日も赤青鉛筆で日記を書いている。そしてこれからも書き続けるだろう。赤青鉛筆を使わなくて良くなる日が来るまで。


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