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【原作大賞応募】ケンとメリーの不思議な絆 第三話

※これは、noteで連載していたファンタジー小説を原作大賞用にまとめなおしたものです。


第三話 届いたワイン

 ケンの友人であるキヨシが経営する酒屋にフランスのメリーからワインが届いた。白ワインばかり五十本入っているのを確認し、キヨシは弟のヨウジとともにワインを一本とって試飲してみた。ワインのコルクを抜いた途端に爽やかな香りが漂った。たくさんの太陽を浴びた爽やかさを感じる香りだ。同時に、何かが飛んで行くような錯覚を二人とも覚えた。まるで透明な蝶が羽を広げて飛び去っていったように感じていて不思議そうに消えるまで眺めていた。

「なんだか妖精みたいな感じだったな。ワインを開けた途端に飛び立ったように見えたけど、錯覚だろうな」
「兄さん、僕にもそんな感じに見えたけど、圧縮されていた空気が一気に抜けた時の蜃気楼みたいなもんじゃないのかな。今時妖精なんて言ったら笑われそうだし」
「ああ、まぁ、そうだな。じゃあ、気にするのは良そう。早速飲んでみようか。ケンおすすめのワインを」

 二人とも、気のせいだろうということで自分自身を納得させ、キヨシはコルクを抜いた後ワインボトルから立ち上る香りをそっと鼻に近づけてからボトルを傾け、ワイングラスに注ぎ入れた。トクトクと音を立ててグラスに注ぎ込まれる白ワインの薄い琥珀色が踊りながら満たされていき、とても綺麗な輝きを放っている。

「めちゃくちゃ軽くて飲みやすいワインだな。しかも色もすごく綺麗だ。白ならではの透明な清純さを感じられるな。これは女性をターゲットにすればブームを起こせるかもしれないな」
「兄さん、僕もそう思うよ。さっそくネット広告も検討したいけど、その前に提携しているホテルに売り込みをしてみようか」
「そうだな、関係者の感触をまず確かめたいから、まずは、ホテルに行って支配人と話をしてみよう」

 翌日二人は、ワインを車に積んで、取引しているホテルに向かった。少し小高い丘の上に建っている瀟洒なホテルで女性客に人気がある。天気がいいと富士山も見える好立地であり、旅行雑誌などにも取り上げられていて人気が上がって来ているホテルだ。ホテルの担当者に対して女性のお客様専用に夕食時にサービスでつけるワインとしてどうかという相談をしたのだった。その時、ホテルの大きな窓ガラスの上のほうで飛んでいる透き通るような小さな白い蝶が舞っていたが、誰も気づかなかった。ワインを開けた時に外に飛び出したワインの妖精だった。誰にも気づかれない間に妖精は消えていた。

 もちろんその場でホテルの担当者にも試飲してもらった。担当者の評価も上々でかなり乗り気になっている。結果、物は試しということでとりあえず週末限定でお試しプランを作ってみようということになったのである。今回は白だけを試飲したのだが、これなら赤でもロゼでもいけそうだということで、ワインの色別の宿泊プランというアイデアまで出され検討が始まっていった。これを受けてキヨシはメリーに追加で二千本を送って欲しいと連絡した。

 手応えは十分である。旅行サイト経由で女性専用ワイン付き宿泊プランを限定で出したところ、宿泊者の評価がネット上の口コミで広がり、大人気となり予定数量はすぐに完売。その後はホテルへや旅行サイトへの問い合わせが殺到して来たほどだった。いきなり嬉しい誤算である。そうなるとキヨシたちは、ワインの追加仕入れに対する相談を現地と早急に実施しなければならない。キヨシはなんとなく運命みたいなものを感じ始めていた。しかしキヨシたちの力だけではない何かが作用していた。

 最初の試飲用ワインには、実はワインの妖精が入っていた。その数三人。妖精たちは意思疎通を図りながら、なんとかメリーを助けようと動き回っていた。キヨシとヨウジがホテルの担当者と打ち合わせをしていた時は、窓枠のところを飛び回って妖精の羽から溢れる見えない粉で目の前のワインにとても興味を示すように誘導をしていたのだ。

 キヨシたちはとんとん拍子に進む順調な交渉を疑いもせずに対応していたが、実は妖精の貢献が大きかったのである。この妖精たちは、一度葡萄畑が水不足でダメになりかけた時、メリーの両親が街までトラックで何往復もして水を運び、なんとか葡萄畑を守り抜いたことで死なずに済んだのである。妖精であるが故に、葡萄畑が死滅すると妖精も無くなってしまう。葡萄畑が延々と生き続けてくれれば、妖精も生き続けられるのだった。

 メリーの両親が生きている時に、妖精たちはメリーの両親にお礼の言葉を伝えていた。ちょうどメリーが生まれたころだった。そしてその時に、誓ったこともあったのだ。

「私たちは、この葡萄畑が続く限りワイン作りを応援します。私たちの命を救ってくれたことは決して忘れることはありません。今生まれたメリーが後を継ぐことになれば、私たちはメリーが困った時にはなんとかして助けたいと思います」
 妖精たちは、メリーの両親にそう告げていた。でも両親はそのことをメリーには伝えることなく他界してしまった。交通事故に関しては妖精たちは何もしてあげられずに悲しんでいたのである。

 三人の妖精はアーサ、ケーサ、ハーサという名前を持っている。アーサはホテルでのワイン付き宿泊プランの最初の一人旅の女性客のそばに行き、ワインを口にする前に小刻みに羽を震わせて粉をまいた。そして、ワインを口にした途端、このワインの虜になってしまったのだ。その時の女性はネットに旅行の感想を投稿しているライターだった。そして、この女性が書いた記事が多くの女性に読まれることになり、次々と予約が舞い込むようになったのだった。
 キヨシたちが喜んでいた影には、実は妖精たちの支援があった。キヨシはそうとは知らず次の一手を打つ時期に来ていると判断していた。

 まだ試飲用のワインしか届いていない最初の頃。女性専用プランとして限定提供した宿泊プランの最初のお客様は、ホテルを利用した感想などをブログにあげたり、雑誌社の依頼を受けて記事を書く二十六歳の主婦ライターだった。大学から付き合っていた男性と結婚するも、自分自身も何か発信し続けたいと思いライターとして活躍している女性だった。結構辛口の評価の記事を書くことで有名な人で、ペンネームで香辛(こうしん)と名乗り性別不詳で通っていた。まだ子供がなく夫婦二人だったので取材での一人旅も問題なくこなしていたようである。

 そんな彼女は常に新規企画をチェックしていた。今回のプランもいち早く見つけ申し込み、誰よりも早く予約していたのだそうだ。特に、女性に的を絞るためにアルコール度数の低いワインを準備したというところが彼女の興味を引いていた。
 彼女は事前に取材であるということは告げずに、女性の一人旅で観光という装いで山の上のホテルにバスに乗ってやって来た。やがて日が落ち夕食の時間になり、楽しみのディナータイムとなり、案内されたテーブル席に着くとスタッフが女性に近づいて話しかけて来た。

「本日はお越しいただき誠にありがとうございます。また、本日から提供を開始させていただきました女性限定ワインプランにお申し込みいただき誠にありがとうございます。お客様はこのプランの最初のお客様でございます。その記念に、本日お召し上がりになられるワインと同じワインをお土産としてご用意させていただきました。お帰りの際に、お荷物になるとは思いますがお持ちくだいませ。では、お食事とワインをごゆっくりとご堪能ください」

「まぁ、ありがとうございます。私が一番最初の利用者だったんですね。光栄だわ。それにお土産まで、ありがとうございます」

 女性は上機嫌となり、スマホをとりだし、ワインの写真や料理が運ばれる前のテーブルの写真などを撮っていた。横ではワインの準備がなされていた。

 フランスから届いたメリーの白ワインのボトルのコルクが抜かれ、テーブルに置かれた大きめのワイングラスに少しだけ注がれた。女性はそっと手を伸ばしワイングラスを手に取り顔に近づけた。フルーティな香りの中に爽やかさも感じる透明度の高いワインだった。一口含みテイスティングする。その爽やかさが口いっぱいに広がり、太陽の暖かさのような心地よい温もりが身体中に広がる。アルコール度数が低いので問題なく一本飲めそうだ。テイスティングで満足し、一旦テーブルに戻した空になったワイングラスに、今度は十分な量のワインが満たされていく。液体がゆっくりと流れて落ちていきワイングラスのカーブに沿って争うようにワインが弾けていくのを女性は見つめた。一瞬のことではあるが、注ぎ込まれる瞬間が好きだった。それから次々と順番に運ばれてくるフランス料理のフルコースを素早くスマホに収めながら、舌鼓を打ちながら食事を楽しみ女性は感じていた。

「このワインなら魚料理だけじゃなく肉料理の油でも口の中をさっぱりしてくれるわ。この白ワインさえあれば問題なしね。というよりも赤よりいいかもって感じ。料理もとってもおいしいわ。これは女性に取っていいプランね。そのうちにカップル用プランに発展しそうな気配だわ」

 女性は取材目的ということは知られることもなくホテルを後にした。まだ余韻が残っているうちに帰りの電車の中でタブレットを出して記事の原稿を手早く打ち込んだ。あとは、自宅に帰ってから写真と合わせた記事にして投稿するだけだ。もっているバッグにはお土産用のワインも入っている。その夜、もらって来た白ワインのコルクを抜いた。その瞬間に小さな白い透き通るような蝶がヒラっと宙に舞って消えていったような気がした。一瞬のことだったのでそれほど気にすることもなく夫婦での食事を楽しんだ。この夜、二人の間に新しい命が宿った。

 一方、キヨシたちには今後のワイン調達の増量の課題がのしかかり頭を抱えていた。

つづく

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