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【SS】会いたいから #たいらとショートショート

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」

「いや、まだ連れが来てないんで、もうちょっと待ってもいいですか」
「もちろんです。ではまた後ほどお伺いに来ます」

路地裏にある見落としそうな古い喫茶店。四席のカウンターと四席の四人がけの席がある小さな喫茶店だが、四人がけの席は全て一人で来ている客で埋まっている。カウンターに座っている客はいない。なんとかなく活気を感じられない喫茶店で BGMも流れていない。

よくある光景かもしれないが、待ち合わせで一人先にきたらしい男性が入ってきた。注文もせずにじっと窓際の席に座って連れがくるのを待っている。まだ、約束の時間になってないらしい。男性は持ってきてもらった水を一口飲み、スマホの画面に目を落としている。

他の客をよく見てみると、みんな一人のはずなのに水は一つで飲み物は二つだったり四つだったりしている。その時、ちょうど朝の八時になり、一人の女性が男性の前に姿を現してニコッと微笑んだ。男性もそれに気づいて「やぁ」と少しぎこちなく微笑んだ。女性は男性の正面に座り、透き通るような姿で話しかけた。

「元気にしてた? そろそろ好きな女性でもできたんじゃない」
「僕が好きなのは、君だけだよ。わかってるだろ。どれだけ会える日を楽しみにしているか」
「私も会える日が待ち遠しかったわ。でもね、わたし、あなたに幸せになってほしいの。だって、あなたの人生はまだ続いているんだから」
「僕の人生は君と一緒になれないのなら必要なんてないさ」
「ダメ、私が好きなあなたはもっと前向きな人よ。最近は仕事もちゃんとしてないてしょ。私、見てるんだから」
「あなたのそばにあなたのことを心配している女性がいるわよ。きっと今頃も心配してると思うわ。今日、ここにくることを言ってきた女性が一人だけいるでしょう」
「ああ、なぜ君が知っているんだ」
「ふふ、彼女はね大好きだったお父さんを亡くしてここに来てるのよ。彼女はあなたに好意を持っているわ。彼女なら私も安心して旅に出られるわ。あなたを誰かに託さないと私は楽になれないの」

この女性は四年前の今日の朝八時、男性と一緒に出勤する途中、交通事故に遭い亡くなっていた。今日は命日だったのである。男性の目には涙が浮かんでいた。


そう、ここは命日に大切だった人と会える喫茶店。ただし、ルールが一つだけあった。飲み物は会っている人の分も注文すること。

「ご注文はいかがなさいますか?」

999文字


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#たいらとショートショート #ショートショート #創作

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