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流水不争先 (ことばの日企画)

 「流水不争先」流れる水は先を争わずという言葉が私は好きだ。この言葉に出会ったのは、小学生の時である。当時は意味まで理解していたわけではない。たまたま書道の師であった父に、この文字を書いてみろと言われて書いたのが最初だ。その時は読み方も知らなければ意味もわかるはずがない。父が書いたお手本を横に置き、五つの漢字を真似て書いたに過ぎない。

 それから、すっかり忘れていた言葉だったが、働き始める頃、そう四十年以上前に「流水不争先」の言葉を思い出し、焦りは禁物だなということを自分に言い聞かせるようになった。仕事は自分一人では成し得ないので協力して進むことが必須だ。そんな時、自分だけ足掻いたとしてもうまくはいかない。水が高きから低きに流れるように、争うことなく進めば良いのである。そうすることで結果的に大きな安定した川になるのだと思いながら仕事をするようになったのである。

 それ以来、何かにつけて自分の中では座右の銘のような存在の言葉である。出典などが正確に記されている言葉ではないが、そんなことはどうでも良い。川を想像した時、あの小さな湧き水が徐々に下流にいくに従って大きな流れとなり海へと注いでいる様は、我々人間の一生にも例えられる様子である。川を成す水自体は滝や川の形状や川幅などに合わせながら流れていく。どんな時でも我先にではなく時間の流れとともに川の水は流れていくのである。

 人間にとって、成長するための欲望は必要であるが、他人を押しのけるようなことで得た知識や権力は、得たとしてもその人の周りの人は離れていくのではないかと思う。人と争うことなく、自分自身を成長させていくことが人生では必要なことなのではないかと思った時、この言葉に帰り着く。人は元来争う動物である。常に戦いを通して歴史は作られてきた。だからこそ「流水不争先」のような言葉はそんな心を戒めるためにも必要なのだと思う。人は自分を律することのできる生き物なのだから。

「流水不争先」たった五文字の漢字ではあるが、人としての生き方を教えてくれる言葉のようである。流れる水は先を争わず。残りの人生、この言葉のような人生でありたい。


下記の企画に出会い、投稿しました。素敵な企画に感謝します。

毎日投稿している記念日でのショートショートで5月18日は「ことばの日」を取り上げたことからこの企画に辿り着きました。


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