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マラソンのペース配分について考える【その2】—コスゲイ選手のネガティブペース —(後編)

みなさんこんにちは!
ONE TOKYOスタッフのまゆゆです♪
先週の記事はいかがでしたか??

今週はその後編をご紹介!
ランニング学会の会長としても
日々様々なテーマでランニングを研究している
東京マラソン財団の伊藤理事長が
「東京マラソン2021」の
女子の部で優勝した
ブリジット・コスゲイ選手(ケニア)の
ペース配分について綴っております。

ぜひ最後までご覧ください♪
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■東京マラソン2021 コスゲイ選手のラストスパート

「35kmで向かい風になった。
それがなければ
2時間15分を切れたのではないかと思う」
レース後の記者会見で
コスゲイ選手が残したコメントです。
少し悔しさをのぞかせていますね。
確かに、彼女のペース配分をみると…

図3  代表的な女子マラソンレースにおけるペース配分の比較

30kmからペースは
次第に上がっていますが、
残念ながら最後の2kmで
急速にスピードがダウンしています。
やはり、向かい風がかなり影響したようです。
今回は、コスゲイ選手のこの悔しさを
データから推し量ってみたいと思います。

まず、東京マラソン2021の
結果を改めて振り返ります。
2時間16分02秒で自己の世界記録に次ぐ
セカンドベスト、
また世界歴代3番目の記録という
素晴らしいパフォーマンスでした。
女子マラソンの2番手は
自己記録2時間18分18秒を持つ
エチオピアの実力者
アシェテ・ベケレ選手で、
2時間17分58秒で自己記録を更新する
堂々たるフィニッシュでした。
それでも、コスゲイ選手は、
すでにその2分前にフィニッシュテープを切っていたのです。
さて、フィニッシュ直前の向かい風に立ち向かった
選手たちの奮闘ぶりはどうだったのでしょうか?
前回の男子同様、
図4に最終タイム(横軸)と
最後の2.195kmのラップタイム(縦軸)との関係を
示しました。

図4 東京マラソン2021の最終記録と最後2.195kmのラップタイムとの関係

今回は、男子に加え、
女子上位50人のデータをプロットしました。
コスゲイ選手のフィニッシュタイムが
群を抜いていることは、すでに述べたとおりです。
それに劣らず、
ラストスパートも際立っていることが
図4からわかります。
最後の2.195kmのラップタイム7分06秒は、
女子選手の中にあって一頭地を抜いていますが、
男子の上位選手の中で比べても
決してひけをとらないスピードです。
コスゲイ選手は、
ラストスパートについても
強い自信を持っていたことがうかがえます。
そのたぐいまれなラストスパート能力
(スタミナと表現してもよいでしょう)が
向かい風にはばまれ十分に発揮できませんでした。
記者会見でのコメントは、
その悔しさの表れでしょう。
今回の東京マラソンでは、
たまたま最後に強い向かい風が待ち構えていました。
確かに、優勝したキプチョゲ選手もコスゲイ選手も
物理的にスピードの低下を
強いられることになりました。
しかしその向かい風という自然作用は、
両選手のラストスパートの潜在能力の高さを
逆に浮き彫りにしてくれたようにも思えるのです。
今回のデータを分析してみて、
あらためて彼ら世界記録保持者の
秘められた能力に大いに魅せられました。

■ネガティブスプリット再考

現代のエリートマラソンランナーは、
記録更新を目指し前半からのハイペースを
いといません。
それはエネルギー枯渇への挑戦でもあります。
ただし、ハイペースであるほど
貴重なエネルギー源である筋グリコーゲンを
消費します。
にもかかわらず、
エネルギー源の乏しくなった終盤で
さらにスピードアップをはかって勝負し、
記録更新をめざします。
それが、現代のエリートマラソンの
醍醐味と言っていいでしょう。
しかしながら、前半のハイペースが速すぎれば、
後半のスピード低下を招きかねません。
他方、後半のペースアップにそなえ
前半にスピードをセーブすれば
記録向上はのぞめません。
この二律背反の絶妙なバランスを追求してきた結果が、
現在のエリートマラソンランナーたちが具現化している
『ネガティブペース』に他ならない、と思うのです。
むろん、机上の計算だけで
たやすく実現できるものではないでしょう。
また、エネルギー貯蔵量の多寡(スタミナ)だけで
論じられるものでもありません。
様々な要素が複雑に絡み合い、
ネガティブペースが形成されるのだと
考えたいところです。
その中で、脳の機能が重要だと考える研究者も
少なくありません。
コンピュータに例えれば、
ネガティブペースというテンプレートが
確実にインストールされていなければならない
というわけです。
このインストール作業が、
日々のトレーニングということになります。
マラソンのペース配分と脳機能との関係は、
生理学、心理学、バイオメカニクスなど
多領域にわたり多くの研究者が取り組んでいる
研究テーマでもあります。
このホットな話題についても、
今後このコラムでも取り上げてみたいと思います。

それでは、今回も前編・後編と
お付き合いいただきありがとうございました。

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最後までご覧いただき
ありがとうございました!

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