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記憶のカイダン 6歳

ー6歳ー

◆習字◆
初めてのお稽古の日。
ドキドキしながら1階の靴箱に靴を入れ、階段を登る。
ガラガラガラーと引き戸を開けるとそこは墨汁と半紙の混ざった匂い。

墨を削る音。硯や筆を水道水で洗う音。半紙を動かす音。
書き上げた作品を先生に持っていくときの足音。
スリスリゴリゴリシュッシュ…しゅーーーージャーペラっパタパタパタ。

長机が5列くらい。1列には4つ並んで置かれている。小学生から中学生くらいが皆正座をして、時折コソコソとお話ししては筆を熱心に走らせている。
その前方には3つ独立して机が並んでいる。
向かって左におばあちゃん先生。真ん中がお姉ちゃん先生、右におじいちゃん先生。
まずおじいちゃん先生に並んでいる人の少なさよ。
そしてなにやら通称「ポカン」という直径30㎝ほどの小さな木刀みたいなものでそれこそポカンっと生徒の頭にその凶器をふりおろしている。
ポカンされた子の耳が真っ赤になっている。
小1の私、初めてのお稽古でその光景をみて戦慄。
絶対おじいちゃん先生のところに並びたくない。
しかし、その願いは見事に裏切られる。入ったばかりはおじいちゃん先生のところへ行かないといけないシステムらしく、その日私はえんぴつで「あ」をひたすらに書き続け、ぶるぶるしながらおじいちゃん先生にノートを差し出す。ポカンは免れたものの、ニコリともせず、任侠映画にでてくるような色の濁ったメガネから不揃いで不格好な「あ」を見下ろす。
50個くらい書いたうち3つだけ〇。あとは全て赤鉛筆で修正される。
合格するまではひたすら「あ」しか書けない。しょっぱなから半泣きになりながら「あ」を書く。
「あ」から「い」までの遠さよ。
そうして初めてのお稽古デビューを終える。
後日ポカンの洗礼を受ける(文鎮を忘れたことによる罰)。
ちなみにおばあちゃん先生は指導も優しく、
肩を揉んだらペコちゃんのぽっぷきゃんでーをくれる超絶優しい先生でした。これぞ飴とポカン(鞭)

◆かに道楽◆
大阪に住んでいたら誰もが一度は行ったことのある!?かに道楽。
決して裕福とは言えなかった新田家。
お菓子が入っていた牛乳瓶の形をしたプラスチック製の透明容器、
2Lくらいの容量はあるだろうか。
そこへ余ったおつりや母親にマッサージをしてもらったお小遣いを3姉妹で協力し(ほぼ母がいれてたかも…)貯めていく。
小銭でいっぱいになったら、全員でじゃらじゃら〜とお金を出し、1円玉5円玉10円玉100円玉にグループわけして総額を計算する。
このちゃりんといれる行為から全員でわくわくしながらお金を計算していくまでが小1の私は大人の仲間入りをした気分で、心底楽しかった。
そして数万円になったそれはかに道楽へと消えていく。
かに道楽のカニが美味しいのは言うまでもないが、お鍋の出汁がもう完璧で完璧で。黄金色の出汁と野菜やカニや豆腐やキノコやらのエキスが混ざったそれは、雑炊に行く前にぐびぐび飲み干してしまうほどの美味。
もうキングオブ出汁。
加えて苦労して貯めたお金でいくかに道楽は、お金持ちだと味わえないおいしさなのだ。半年以上もまえからちゃりんちゃりんと皆で貯めてようやくたどり着いた食事ほどおいしいものはない。
ここから味を占めた母+三姉妹は数年間毎年行くようになる。
ちなみに1年生、初めての参観で。「好きな食べ物はなあに?」という質問に、ピシっと手をそろえてあげた私。
「かに道楽です!!!!!」
と答えて保護者と先生から笑いをかっさらったのは良き思い出。

‐------つづく--------

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