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人は変わる


1. いまがすべて


一緒のアパートメントに住むチームメイトの姿を通じて学ぶことがある。

「いま」こそがすべてということだ。

彼との付き合いは長く、去年別のチームでも一緒にプレーし、今年はチームが同じだけでなく住むアパートまで同じだ。

年齢は23歳。

彼の身体能力と技術を持ってすればひとつ、ふたつ上のカテゴリーでプレーしていても全くおかしくないのだが、彼を知る人間が口を揃えて言うことは

「技術はピカイチだけど、頭がね…」

「悪い奴じゃないんだけど、幼いよね」

こういった意見だ。

背格好からして、まるでトップリーグで活躍するサッカー選手そのもの。

スペイン語で、Tiene pinta.
というのだが、見た目だけなら一流だ。

けれど、心の奥ではいつも自信がなく、自分を大きく見せるために周囲の注目をあえて集めるような言動や行動によくでる。

そして自分が気に入らないことや、思い通りにいかないことに対してはすぐに感情的になり、コントロールができなくなる。

試合中や、練習中にミスが重なると途端に周りが見えなくなり、自分でもどうしてよいか分からず、人のせいにしたり、ふてくされてしまう。

要するに、外見だけ大人で、中身が子どものまま。

そのギャップが大きいせいで、付き合いが短い人間からすると、到底理解してもらえないだろう。

自分は今年で彼とは2年目の付き合いになるが、最近やっと距離感がつかめてきた。


2. スキルはあって当たり前


彼が持ちうる身体能力とサッカーの技術が、彼をここまで連れてきてくれたのは間違いない。

だが、彼は過去の遺産、貯金(身体能力と技術)を切り崩して今を生きているから、周りからの一定の評価はもらえるもの、日々の積み重ねがないことで現在の自己評価と周囲からの評価や期待にギャップが生まれてしまう。

そのことで、自信が失われていき、本来持つ技術すら思う様に発揮できなくなってしまう。

彼が今シーズン苦しんでいることは、もしかすると彼の家族よりも自分のほうが良く分かっているかもしれない。

ただ彼が本当の意味で変化し、選手として、人間として一人前になるには、必要な苦しみだと客観的に見ていて思う。

世の中で生きていくうえで、人から求められるスキルがあるのは当然のこと。

そのうえで、どうスキルを活かすかは自分が考えなければいけない。

彼には一度チームメイトが全員いる前で激怒したことがある。

彼が相当に嫌がっていたことは、その後の反応からも良く分かったが、少しづつ練習態度が改善されていき、普段の彼の表情も随分と柔らかくなったと感じる。

正直なところ彼のことを遠ざけていた時期もあった。

彼の人間性に共感できず、自分の世界から追い出したい一心だったころは、自分に余裕がなかったんだと今振り返って思う。

少しづつではあるが、彼に向き合い始め、いますぐ変わらないと分かっていても、その時々で大事だと思ったことを伝え続けてきた。

その甲斐あってか、最近彼との距離が縮まってきた。

また自分の中に彼を応援したいという気持ちが芽生えるようになってきた。

自分がこれまでしてきた経験や、知恵を彼に伝えることで彼自身が少しでも前に進む力になれたら自分も嬉しい。

そんなふうに感じる瞬間が最近ちらほらある。

自分も聖人ではないから、彼の幸せをずっと願うことなど出来ないし、する必要もおそらくないと思うが、彼と過ごす時間が今より少し豊かになれば良いと思うことで、自分も心が豊かになるように感じる。

シーズン残り7節。

現時点の自分たちの目標はプレーオフに進出すること。

その目標に向かって、一緒にプレーする彼にはこれからも大事なことを伝え続けていく。


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