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4. 銀河鉄道、岩手発イーハトーヴ行き

みなさんは「銀河鉄道」に乗ったことはあるだろうか。「銀河鉄道は架空の存在だろ」「そういう名前のアトラクションね」と思う方もいるだろうが、私が言っているのはれっきとした交通機関の話である。その鉄道は、「いわて銀河鉄道線」という名前で、実際に岩手県北部を走っている。
いわて銀河鉄道線(IGR, Iwate Galaxy Railway line)は、もちろんその名を宮沢賢治の名作『銀河鉄道の夜』にちなんでいるが、私が幼少期に訪れた岩手県も、各所で日本を代表する作家・宮沢賢治を身近に感じることができる場所であった。

1. 【思い出の場所①】雫石

大学時代、私は同期と東京サマーランドに出かけた。八王子からバスに揺られ、ようやく到着した先で、私は懐かしさに駆られた。これはあの「けんじワールド」ではないか、と。
けんじワールドとは、秋田県境のまち・岩手県雫石町にあった大型屋内プール施設で、東北ではスパリゾートハワイアンズに次いで有名なプール施設であった。もちろんこの名前も宮沢賢治に肖っているわけだが、今思うとレジャー施設につけるにはなかなか渋い名前ではと思う節もある。

小学校時代の夏休み、私は家族で何度かけんじワールドに行ったが、今でもその記憶が残っているほど、あの場所は子供の楽園だったと思う。
まずは流れるプール。泳ぐのが得意でなかった私はプールはそこまで好きではなかったが、あれはアトラクションとして楽しかった。浮き輪につかまりながら、水流とたくさんの燥ぐ声に身を委ね、ゆっくりと運ばれていく。大きな施設をぐるりと取り囲むように流れるプールが設置されていたので、1周がわりと長く、流されているだけで満足だった覚えがある。
それからウォータースライダー。田舎の施設だからといってそこに手加減はなく、オーソドックスではあるものの、けっこう長くてスリリングなスライダーだった。もちろん施設中央のいちばん大きなプールも、天井から雨が降ってきたり、たまに大波がやって来たりと、様々な仕掛けがたくさんのお客さんを盛り上げていた。一日中いても飽きない、そんな思い出の場所だった。

残念ながらけんじワールドは2013年、8年前に多くの東北人から惜しまれながら閉園した。数少ない東北のレジャー施設がまた一つ失われたと思うと悲しかったが、私も地元を出て上京している以上、子供の頃に行った場所はどんどん「思い出」と化していくのだろう。私は一瞬、東京サマーランドで過去に思いを馳せ、そして目の前のプールに向かっていった。
ちなみに、雫石には小岩井農場というレジャー施設もあり、こちらは現在も営業中である。牛や羊を間近で見たり、ジャージーソフト等新鮮な乳製品を味わうこともできて、こちらも家族で訪れて楽しかった場所なので、もし盛岡まで来る機会のある方は、ぜひ足を伸ばしてみてはいかがだろうか。

2. 【思い出の場所②】花巻

けんじワールドのあった雫石は、実は宮沢賢治生誕の地ではない。彼の出身地は、あの大谷翔平を輩出した花巻東高校でも有名な花巻であり、ここに「宮沢賢治童話村」が存在する。これまた小学生の頃、私は家族でこの場所を訪れた。
宮沢賢治といえば、冒頭でも言及した『銀河鉄道の夜』、日本の小学生の大半が目にする『やまなし』、元祖・意味がわかると怖い話『注文の多い料理店』等、他にもたくさんの名作を遺しているが、宮沢賢治童話村はこれら一つ一つを解説するというよりは、その世界観が生まれた源流を探るような場所であった。
まずは「賢治の学校」。金沢21世紀美術館に訪れたことのある方ならなんとなく感覚が共有できると思うのだが、万華鏡のような鏡張りの空間を通り抜けたり、巨大な動物の世界に迷い込んだりと、自分が不思議な世界の一員になれたような気がする場所で、きっとあの当時の私は想像力を刺激されたことだと思う。
「賢治の学校」が想像の世界であるなら、その隣にある「賢治の教室」は自然の世界。ログハウスの中に、賢治が触れていたであろう動物や植物についての解説があり、このような自然に囲まれて暮らす中で、『雨ニモマケズ』は生み出されたのだろうと想像が膨らむ。
ちなみに『注文の多い料理店』に出てくる「山猫軒」もこの施設内にあり、「安心して」食事ができるということで、当時訪れたかどうか記憶が定かでないのだが、ぜひこちらも訪れたい。この世界観を伝えるには言葉ではなかなか限界があるので、ぜひ以下のサイトもご覧いただきたい。

3. 【訪れたい場所】龍泉洞、宮古

「洞窟」とは、どうしてかくもロマン溢れる言葉に聞こえるのだろう。自然が創り出したその空間の先にあるのは、人間が隠した財宝か、はたまた自然が隠した神秘か。前者に巡り会うことは物語の中でしかないが、後者ならば現実でも目にすることができる。それが岩手県岩泉町にある鍾乳洞「龍泉洞」である。
龍泉洞は山口県の秋芳洞、高知県の龍河洞と並ぶ日本三大鍾乳洞の一つで、どれも魅力的ではあるのだが、その神秘性には特に興味をそそられる。まず、龍泉洞には透き通った水を湛えた地底湖が複数存在する。「地底湖」なんてセンター・オブ・ジ・アースの世界なのでそれだけでわくわくするが、この地底湖は現在調査中で未公開のものもあるのだという。未だ全貌の見えない末恐ろしい鍾乳洞だが、私たちに見える部分は青くライトアップされ、とても美しい光景が広がっているそうなので、ぜひ訪れたいところである。

また、距離は少し離れているが、宮古にも行ってみたい。宮古には「浄土ヶ浜」という名の景勝地があり、白い砂浜と群青色の海に緑色の松という風景があまりにも絶景であったことから、江戸時代には既にその名が与えられていたという。この周辺は砂浜だけでなく、三陸リアス式海岸を存分に楽しめるエリアでもあるので、ぜひ散策してみたい。
さらに、宮古には名物「瓶ドン」がある。東京でもポスター等でPRされているのを見かけたこともあるが、牛乳瓶の中に旬の海産物が詰まっていて、その中身をご飯に載せて頂くのだという。いくらや雲丹、蟹、帆立などが入ったその瓶は、味だけでなくその色鮮やかな見た目も素晴らしく、まさにインスタ映えが重視される時代にはうってつけの逸品に違いない。
龍泉洞、浄土ヶ浜、そして瓶ドンと、このエリアは自然が織りなすカラフルさに囲まれることができる。私は渋い旅も好きだが、こういう周りの人に自慢できる旅も、たまにはいいかなと思っている。

岩手を訪れれば、きっと宮沢賢治がなぜあんな世界を醸造することができたのか、少しだけわかる気がするのだろう。そのとき私たちはイーハトーヴ、つまり彼が創造した桃源郷の一員になる資格を、与えられるのだろうと思っている。

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