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目黒のさんまと赤木裁判の認諾

古典落語『目黒のさんま』をTBSラジオで聞きました。演者は三遊亭栄馬さん、1991年の高座から。枕(導入部)の一節です。

落語というのはなんとなくさらっと笑って聞き流していただくとまことに面白いわけで、落語から人の生き方を学ぼうとか歴史を学ぼうとか、そういう余計なことを考えないで、心を無にして最後までお付き合いいただきたいと思います。
戦国の世も治りまして太平の世の中、殿様も世襲制ですから何もご苦労がない。周りもわざとそういう教育をしたそうですな。あまり頭が切れすぎる殿様は困る。幕府の逆鱗に触れてお家お取り潰しになりかねない。
ですから、できるだけ波風の立たないように、平穏無事に何もしないというのが平和な時代の保身の最たる術でありまして。下々のことに疎いのが殿様の自慢としてあったそうですな。
たまたま家来が蔵の中から米俵を運び出すのを見ておりますから、「おぉ、米と申すものは蔵の中で採れるのか」と、そのくらいの知識しかございませんでな。
(TBSラジオ『ラジオ寄席』2021年10月24日)

本編は有名な古典なので、ごくごく簡単に筋を紹介すると、遠乗りに出た殿様が、出先で、焼き秋刀魚を食して大層気に入った。後日、屋敷に戻り再び秋刀魚を所望したが、家来はそれを蒸し焼きにし骨を抜き、崩れた身をごまかすためにあんかけにしたので美味くもなんともない。「これはどこで獲れたものか」「房州でございます」「それはいかん。秋刀魚は目黒に限るぞ」

森友問題は、安倍首相(当時)が「自分や妻が関わっていたら辞める」と言った発言を発端として、官邸幹部がその後処理をするために、財務省に文書の改ざんを指示した。その作業を実際にやらされた近畿財務局の赤木俊夫さんは、こんなことを後輩にやらせたくない、と全てを背負った上でそれを苦にして自殺した、という経緯です。

この番組では、今回の認諾の意味を解説しています。その中で社会学者の宮台さんは「無能な政治家がついた嘘を、統治権力がこぞって守る、そのためにはどんな違法なこともやり、人も殺してしまう、それに怒りを感じて欲しい」と語っています。

天下泰平の小噺『目黒のさんま』は笑えても、国民に嘘をつく、戦時中の政府のようなやり方には大きな怒りと怖れを感じます。