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君のクイズ 小川哲 感想
ハウダニット(如何にしてなされたか)という命題が、この小説が出題する大きな「クイズ」になっています。それを解き明かそうとする主人公は、舞台となったテレビ番組の録画を見ながら一問づつ検証をしていくのですが、その過程で自分のクイズ遍歴、ひいては人生の一齣をありありと思い出します。
早押しクイズの競技的な側面も紹介され、その蘊蓄も面白おかしく描かれていますが、やはり白眉は「そもそもクイズとは何か」という探求でしょう。知識が増えると知らないことも増えていく、それだけ世界が広がっていくという認識は、人間の好奇心であり、記憶の蓄積であり、思考の営みであり、つまりは世界と対峙している自分の意識のありようであるといえます。その立場に立って初めて、人生におけるその人の大小無数の決断が、正解のないクイズであるといえるのでしょう。
小川哲氏の著作はこれで3冊目ですが、いずれも、とあるルール、例えば人工的に設計された特別行政区(『ユートロニカのこちら側』)だったり、カンボジアの政治体制(『ゲームの王国』)だったりの、そのルール自体を事細かく物語ることがまずは主題であり、またそのルールの内側にいる主人公が、それを利用し/利用されるのではなく、かといってアウトローのように抗うのでもなく、ルールもまたこの世界を構成する一つの要素であると認識し探求していく様子が共通しているように思います。
そうした大局的な史観が、哲学的な奥行きと広がりを感じさせ、またどこかユーモラスでもあって独特の浮遊感を覚えるところが、僕が著者の小説から感じる魅力です。