自然災害に強い地域をめざして~信州大学防災減災センターの役割
大学が地域に貢献するために
長野県は、その地形・地質的特徴からの自然災害が非常に多い地域です。
美しい山々や峡谷、そして温泉に恵まれた山岳県ですが、これらの恵まれた自然環境は自然災害の脅威と表裏一体です。
渓谷は、高い山から流れ出す豊富な水量によって形作られますが、そこを豪雨や雪解け水が一気に流れ下れば土石流となり、急流は狭い平野部で合流して水害も引き起こします。長野県内には、土石流危険渓流が約6千箇所もあります。
長野県の象徴とも言える山地は、活発な造山運動のたまもので、数百万年の時間をかけて三千メートル級の北アルプスが隆起しました。大地の下での活発な活動は現在も続いており、長野県には浅間山や焼岳、御嶽山などの6つの活火山が存在し、気象庁が常時観測、監視しています。県内の豊富な温泉は、地下での活動の反映とも言えます。
さらに、長野県にはたくさんの活断層が存在し、地震の危険性が高いことで知られています。中でも長野県北部から松本、諏訪を経て、山梨方面へと続いているのが、日本でも特に危険度の高い糸魚川静岡構造線断層帯です。この活断層が動くと、マグニチュード7前後の地震が発生する可能性があります。
上記のような地域の安全のために、大学が貢献できるのが「研究」と「教育」です。
過去の経験が通用しない災害が多発する現代において、自然の仕組みを明らかにし、災害を適切に予測し制御するための研究は欠かすことができません。さらには災害に強い国土、建築物やシステム、社会、組織、医療、そして人間のありかたも探求していかなければなりません。
また、その研究を発展させ、実際の防災に活用できる人材を育てる「教育」も必要です。この研究と教育こそ、大学の役割だと思います。
信州大学は県内に5つのキャンパスがあり、そこで文系理系あわせて8学部を置く、総合大学です。地震や風水害をはじめとした各種の災害の仕組みや、それにつながる社会や人間にかかわるさまざまな研究が続けられてきました。いわば災害を理解し、それに対処する知恵が豊富に蓄積されているのが信州大学です。
ただ、惜しむらくは、なかなか大学人というのは研究第一で、その成果が地域社会に見えにくいのですね。
しかも、県内の8学部に分散していて、どこにどんな専門家がいて、その研究が防災減災にどうかかわるのか、わかりにくい状況が過去には生じていました。たとえば学外の方が具体的な防災アドバイスなどを希望されても、誰にどう問い合わせればいいのか、戸惑うことも多かったわけです。
こうした大学をめぐる状況と、自然災害の頻発・激甚化をうけて、大学の知的資源を組織的積極的に発信し、地域の防災減災に活用していただこうという方針が立てられました。そのために大学内の専門家のネットワークを作って、研究と教育、地域連携の活性化をはかることとなり、そのネットワークの結節点として、また、地域に貢献する窓口として、2015年に信州大学の地域防災減災センターが設立されました。
信州大学防災減災センターの活動とは
センターは「防災減災教育部門」「地域連携部門」「防災減災研究部門」「医療支援部門」の4部門からなります。
これらの部門は、それぞれの専門的な性格をもとに地域と連携した諸活動を行うだけでなく、公開講座や講演、シンポジウムなどを通して一般の方々や学生に向けて、防災減災の考え方を広めていく活動を行っています。
こうした活動は、非常に多岐にわたりますので、信州大学地域防災減災センターのホームページをぜひご覧下さい。
地域の防災減災力を向上していくためには、一つの決定的なやり方があるのではなく、さまざまな取り組みを組み合わせながら、総合的、継続的に働きかけを行っていくことが大切です。そのために、信州の自治体や企業、組織の皆様と連携して活動を展開していければと考えております。
また、特に近年力を入れているのが、防災減災活動を推進するための知識や技術を十分にもった防災リーダーとなる若者の育成です。これも教育機関としての大学の大きな役割のひとつと考えています。信州大学では、従来の防災減災の教育に加えて、2023年度から、「防災士」の資格取得を目指す授業を開設し、地域の防災を担う人材育成を進めていく計画です。