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マーダーミステリーは流行るか否か

●筆者紹介

 ということで筆を執らせて頂きました、木皿儀隼一(きさらぎはやと)です。本名です。普段は有限会社ワンドローという会社でボードゲームなどを作っています。 マーダーミステリーに関しては、中村誠さんがゲームデザインをした『ゲームマーケット2020大阪殺人事件』『魔女の聖餐式』『最後の晩餐の殺人』などのディベロップ(テストプレイ手配や調整、編集協力や校正など)を担当しました。また、イベント「マーダーミステリーコンベンションvol.01」を企画・開催などもさせて頂きました。 そんなまだまだマーダーミステリー界ではひよっこの自分にお声がけ頂き、かんちょーさんありがとうございます! さて、自己紹介もほどほどに自分がマーダーミステリーと関わっていく上でお伝えしたいことをいくつか。どちらかというとプレイヤー向けの内容ではないかもしれません。

●マーダーミステリーは流行しているか

 こういう機会を頂いたのに、開幕から不遜なお話を。というのも、周りの一般的な人達にマーダーミステリーの認知度が全くないのです。付き合いのあるお仕事関係の方々はエンタメにアンテナを張っていることが多く、問い合わせもあったりするのですが、やはり一般的な友達には知られていません。みなさんもそうではないでしょうか?
 たとえばビデオゲーム業界でいえば、今年は巣ごもり需要もあり『あつまれどうぶつの森』がヒットしました。他にも、配信周りであれば宇宙人狼の『Among Us』や、ちょっと前だと殺伐としないバトロワの『Fall Guys』なども一時的に国内外で流行りました。これらと比べるとマーダーミステリーは流行っているとは言えません。もちろんこれは極端な例ですが、間違っても「流行っている」と認識するのは早計だと思っております。流行ってしまったら、あとは「定着する」か「廃れる」かのどちらか。現状の規模で定着してしまえば大きな広がりは望めません。

●マーダーミステリーの脆弱性

 ジャンルとして流行ってほしいという気持ちはありますが、マーダーミステリーがそれに耐えうるものなのか、ということを分解してみたいと思います。まずはその「脆弱性」について。

・ネタバレ禁止
・プレイ人数の固定
・1回しか遊べない

 「ネタバレ禁止」はどんなに面白くても(つまらなくても)具体的な部分を言いえず、拡散力に乏しいです。「プレイ人数の固定」に関しては、一人でも欠けるとセッションが解散になる脆さ、それに伴い固定メンバーで回す方が遊びやすいクローズド化問題もあります。これらも拡散力を下げています。「1回しか遊べない」ことは、その名の通りリプレイ性を損ないます。一般的なボドゲであれば何度も遊べてコスパが良いです。

●マーダーミステリーの魅力

 反面、マーダーミステリーにとっての「魅力」はなんでしょう? 何を期待して皆さんが遊んでいるのか、もちろんそれは人それです。なので、私が個人的に思う魅力を挙げます。

・推理小説(映画など)の登場人物になれる
・犯人当てゲームであり犯人ゲーム
・1回しか遊べない

 やはり一番は、個々人が秘匿情報を握り、推理作品の登場人物さながらに物語に主観で入り込めることです。また、犯人役になるかもしれないこと、も、魅力の一つです。もし、それが無いのであれば、謎解きゲームやミステリーナイト的なものでも事足ります。参加者が犯人を捜す姿勢で臨みつつ、その中に実は犯人がいる(かもしれない)、という前提がマーダーミステリーにとっては大事であり、魅力なのです。
 1回しか遊べないのは脆弱性として挙げた部分でもありますが、魅力でもあると感じています。1回だけ……それだけで遊ぶ心構えが変わります。やり直しができないからこそ、真剣に取り組むし、世界観に没入できます。自分が選んだ選択が良かったとしても悪かったとしても、みんなで紡いだ物語だからこそ尊いのです。ネタバレ厳禁も見方を変えれば、やらなければ体験できないもの、として打ち出せます。このように、脆弱性は魅力に転嫁できる可能性を秘めております。
 マーダーミステリーには脆弱性はたくさんある、が、それを補って余りある魅力を備える。このことを作る側も、遊ぶ側も意識できれば、面白い体験を共有できやすくなると信じています。もちろんマーダーミステリーの魅力は他にもたくさんある、というのは前提の上です。こういった魅力を広めていくことが、流行らせるための最初の一歩だと思います。

●マーダーミステリーのゲーム構造

 次の話をするために、まず、現在のマーダーミステリーのゲーム構造を考えてみます。
※下記、「ゲームメカニクス大全[注釈1]」からの引用です。

・「協力ゲーム」プレイヤーが共通の勝利条件を達成するためにアクションを調整するメカニクス。
・「準協力ゲーム」勝者がいない場合や、グループが勝者になって終了する場合に、1人のプレイヤーが「個人」として勝者として認められるメカニクス。
・「チーム戦ゲーム」複数のプレイヤーによるチームが他のチームと勝利のために競うメカニクス。

 まずは「犯人」を捕まえるためにみんなで協力して遊ぶので「協力ゲーム」に属します。ただし、勝利点のある作品は最多得点者を勝者にすることが多いので、「準協力ゲーム」の方がより適切かもしれません。マーダーミステリーとシステム上近しいRPG(TRPG)は「ゲームメカニクス大全」でも「準協力ゲーム」に関わるとの記述があります。それ以外に考えられるとしたら、実は陣営が分かれている「チーム戦ゲーム」や、犯人視点であれば一人負けを決める「シングルルーザー」、共犯者の存在などは「裏切り者ゲーム」ともいえます。

まとめますと……

マーダーミステリーは「協力ゲーム」である。
ただし、作品・キャラクターごとにその前提は覆る可能性を秘めている。

 となります。結局、「覆る」可能性があるため断定できないのが悩ましいわけですが、それこそマーダーミステリーが「協力ゲーム」ではなく「マーダーミステリー」たる所以なのではないでしょうか。ぶっちゃけると、「協力ゲーム」の皮を被った「ブラックボックス」ゲームなわけで、予想していない物語やギミックがプレイヤーの胸を躍らせてくれるわけです。

●ボドゲデザイナーよ立ち上がれ

 詰まるところマーダーミステリーとは、犯人当ての「協力ゲーム」を前提として踏襲し、いかにそれを真摯に仕上げるか。もしくは、仕上げるように見せつつ、他の方向性を創造し驚きを生み出せるか、ということになります。現在、マーダーミステリー界隈には様々な出自の方がいて、人狼勢・TRPG勢・謎解き勢・ボドゲ勢などごっちゃになっています。だから面白いし、それぞれの知見が融合し新たなエンタメが生まれる期待が持てます。すでにボードゲーム出自の方の製作されたマーダーミステリーも多々あり、独自性を発揮しつつあります。
 中村誠さんが執筆された記事「マーダーミステリーのゲームデザイン[注釈2]」でもそういった趣旨で説明があり、加えてゲームデザインに踏み込んだお話になっております。その記事によりますと「インタラクション(相互作用)」「選択と葛藤と結果」「ゲーム的ギミックの導入」という手法でマーダーミステリーに「ゲーム」を組み込むことを推奨しています(たいへん素晴らしい記事なので、いま読んでいる記事は後回しにして、まずは氏の記事を読むことをお勧めします)。
 それとは別で、ゲームデザインで気にした方が良いと思うことは、普段のボードゲームを作る方法論の“まま”では良くないということです。その理由については後述致します。

●マーダーミステリーの新鮮な体験

 まずはマーダーミステリーを見てみましょう。目新しいギミックはサプライズとして新鮮に目に映ります。マーダーミステリープレイヤーは新鮮な体験に飢えているので、ボードゲームデザイナーとして培った経験を活かせる可能性は大いにあります。しかし、むやみやたらとギミックを組み込むものでもありません。

・マーダーミステリーの主役は犯人探し、議論(+密談)
・リプレイ性の皆無

 ギミックがそのマーダーミステリーの中心になるとしたら、少しだけ危険です。それはもしかしたらマーダーミステリーではなく、むしろボードゲームになりかねません。どんなマーダーミステリーでも「犯人探し」「議論」はあり、それらを期待しているユーザーが現在では遊んでいるはずです。したがって、ギミックをふんだんに仕込みたいのであれば、これらの要素が活きるような方向性が望ましいでしょう。
 「リプレイ性の皆無」というのはそのままの意味です。ボードゲームは何度も遊びトライアンドエラーを重ね、習熟度を上げ、勝利の確率を向上させるホビーです。その習熟度の曲線を調整し、説明が手軽でとっつきやすいゲームになるか、説明は複雑だが自己成長が実感できるゲームにするかはゲームデザイナーの手腕の見せ所です。このように、ボードゲームがリプレイを前提としてデザインされているのに対し、その真逆がマーダーミステリーです。プレイヤーはシステムやギミックをゲーム中に習熟し、それを駆使することで犯人探しや議論を進行し、満足度のいく体験を得ます。システムやギミックを覚える難易度が高い場合、本来楽しむべきの犯人探しや議論を蔑ろにしてしまう可能性があることを覚えておきましょう。
 ちなみに一例として、システムの非対称性やコミュニケーション要素にギミックとシナリオを落とし込む実践として、二人用マダミス『あの春をむすんでまたむすぶ』を製作しました。サプライズ的な部分と難易度をできるだけ調節したつもりです。もし遊ぶ機会がございましたら、体験して頂けると幸いです。

●システム・ギミックの流用

 決められた枠組みの中でシナリオとエンディングを組み上げ、新しい体験を生み出すことができないわけではありません。制限があるからこそ、そこをどう脱却するかを四苦八苦して面白いシナリオ・体験を生み出すのもひとつの手でしょう。
 しかし、せっかくボードゲームデザイナーが手掛けるのであれば、システムやギミックがシナリオに影響を与え、それがドラマティックに絡み合うような作品を私は期待します。ただ前述した通り、あまりに強い新規性の高い作品を作る場合、マーダーミステリー本来の魅力を阻害する可能性があります。じゃあ、どうすればいいのか、と。少しだけ良い作戦を思いついているので、ここでみなさんにお伝えするので実践してもらいたいです。
 新規性が高く面白いシステム・ギミックを搭載した作品が完成したら、発表せずに寝かしましょう。そして、もう一作品作るのです、同じシステムで、でもギミック部分には差分で違いは設けてください。そして二作品がそろったところで同時に発表しましょう。どちらか一本を遊んだら、その新規性の高いシステムを習熟した人はその知識を活かせるもう一本をプレイしたくなるでしょう。ベースは一緒で導入としては入りやすく、差分のギミックにより新鮮味を味わえます。まさに一石二鳥!
 ……と、ここまで書いて思ったのですが、グループSNE/cosaicさんの「MYSTERY PARTY IN THE BOX」シリーズがそれに近いことをやっていますよね。さすがです。ま、でも、ほら、すでにこのシステムの法則が確立されてると、証明されているわけですよ。ぜひ、みなさんご参考に!

●むすびに

 本当に、皆さんの素晴らしいアイデアが実を結び、どれを遊んでも最高の体験を受けられる環境ができることを望んでいます。流行を作るための受け皿をみんなで揃えましょう。
 来年以降は、他の漫画やボードゲームやビデオゲームや映画や小説やテレビなどと比べて面白いと評価され、そして一般的に認知されるコンテンツになることを期待しています。他力本願ではなく、自分も自分で動けることをやっていきますので、どうかごひいきに。またご協力いただけると幸いです。


注1)Geoffrey Engelstein, Isaac Shalev. ゲームメカニクス大全 ボードゲームに学ぶ「おもしろさ」の仕掛け(日本語). 株式会社翔泳社, 2020, 2-24
https://www.amazon.co.jp/dp/4798164739/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_3D.YFbNVYP6DW

注2)中村誠「マーダーミステリーのゲームデザイン」
https://note.com/macogame/n/n6f80c0de75cb

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