【考察】NewsPicksが次に狙うのはニューノーマルのインターン市場か

NewsPicksと言えばサブスクリプション型経済ニュースメディアであるが、その本質は戦略的にターゲティングされたユーザー基盤にあると考えている。「ビジネス芸人」とも言われるスタートアップ起業家や役員を取り込みコミュニティを形成、いわゆる"意識の高い"ビジネスパーソンを顧客に取り込み、有料記事コンテンツの月額課金だけでなく、顧客の平均所得の高さを活かした広告ビジネスを展開してきた。
そして今年からは"New school"という名称で、従来のビジネスセミナーをアップデートした"プロジェクト型スクール"を開校、銀座の一等地に商業施設とスクールを併設することで従来なかったオフラインの接点を創出した。サブスクリプション型のウェブメディアとなると、"デジタル新聞"の域を抜け出せない企業が多くある中で、自社の強みを活かした事業展開である。

そんなNewsPicksがここ最近、学生向けのコンテンツに注力してきている。主に次世代の就活をテーマにした動画コンテンツをフリーミアムで展開し、"意識の高い"学生を呼び込んでいるのだ。
この動きをこれまでの文脈を踏まえて考察すれば、単純なサブスクライバー(月額購読者)を増やすための施策ではないことは明らかだろう。長年NewsPicksを愛読している私が推測するに、次の一手は「優秀な学生と企業をマッチングするプラットフォームサービス」を見据えているのではないかと考えている。その理由を以下に記す。

with/afterコロナにおける市場変化

第一に、ニューノーマルの働き方/企業の人事戦略として、従来のメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行が行われることは明らかであり、不可逆である。そうなれば新卒採用はゼネラリストとしての素質を見定め、入社後に育て上げる前提の"大学5年生を採用する形式"から、"優秀なスペシャリストと契約する形式"に変わっていくだろう。専門性は当然新卒にも求められ、定量的に専門性を評価できるPh.D取得者以上は引く手数多となり、採用はよりレッドオーシャンと化していく。当然ながらライバル企業となるのは日本国内だけでなく、海外企業も含まれる。

市場変化がもたらす就職活動における課題

このような市場変化により、新卒の獲得コストは自ずと上がっていくことになる。当然ながら多くの企業は新卒採用を減らし、経験豊富なスペシャリストを増やすだろう。
働き方改革により副業が多くの企業で認められたこと、ならびにテレワークの標準化に伴い採用の地理的課題も解決された。ここまで来ると従来の就職活動は機能しなくなる。新たな就職氷河期の到来だ。しかしこれまでとは異なり、氷河期の要因は景気悪化ではない。この問題を解決するためには学生側の意識や教育構造そのものを変えて行かなくてはならなず、相当に根深い問題が浮き彫りになる。これが学生側の課題である(この国の課題と言った方が正確だが)。

若手人材の発想と価値観をどう取り入れるか

一方で企業側にも課題は残る。中堅のスペシャリストを雇うことで思考が固着化する点だ。全てのビジネスパーソンがそうであるとは言わないが、どうしても年齢を重ねるにつれ、自身の過去の成功や失敗に引きずられ新しい価値観を受け入れ辛くなる。会社が生き残っていけるかどうかは、様々な優秀な人材やアセット、戦略も重要であるが、"変化への適用力"が最も重要であると考える。
COVID-19のようなゲームのルールを変えてしまうような変化はもちろんのこと、消費者の価値観は常に変化し続ける。常時が有事である現代において、変化を察知し事業に組み込むことのできる若手の発想は必要不可欠である。つまりはコストだけを過剰に意識しすぎるがあまり、優秀な若手人材を組織に組み込めない企業はマーケットフィットする事業を生み出せず自然と淘汰されて行く可能性が高い。ここに企業側の課題がある。

課題の本質は何か

そもそも個人と会社の関係性における理想を挙げるならば、すべての個人が自身の成長を楽しみながら主体的に学び、work as lifeの精神で興味のある分野の知見を深め、能動的にアウトプットを行い、それら個人が共通のバリューで繋がったTeamとなり組織を形成すること(=会社)だと考える。
会社はその組織力を強みに資金を調達し、社員の成長に投資する。会社は個人の成長がレバレッジされ全社的な成長に繋がる構造的な仕組みを作り、より大きな社会課題を解決していく。これが理想的な状態だと考える。つまり「個」の変化/成長無くして、組織の変化/成長はないのだ。課題の本質はここにある。

顧客のナーチャリングこそNewsPicksの強み

NewsPicksの強みは2つある。
一つはビジネス業界とのネットワークだ。良質なコンテンツの多くは社員の企画力や取材力により生み出されていることは否定しないが、それ以上にスタートアップ起業家、CXO、大企業役員、大学教員/知識人等によって成立いる。
二つ目はそれらネットワークを活用した良質なコンテンツ制作力と顧客のナーチャリングである。日々様々な手段(記事/動画/音声/イベント)を活用し、顧客の思考やライフスタイルをアップデートする。時間をかけて"目的を持ち、成長することを楽しめる人材"を育成する。
これらの強みはすでに実証済みであり、メインターゲットをエリートビジネスパーソンから学生向けにスイッチするだけである。"New school"では、それらの起業家ネットワークとビジネスパーソンをマッチングさせ、プロジェクト型スクールとして事業化した。

狙うはニューノーマルのインターン市場?

上記を踏まえ私が予想しているのは、学生と企業をマッチングするプラットフォームサービスである。例えばプロジェクト型スクールである"New school"を横展開した"プロジェクト型インターンシップ"と言うのはどうだろうか。New schoolは受講者側からお金を取るモデルであるが、インターンシップの場合は企業側からお金を取るモデルになるだろう。
NewsPicksが集客、ナーチャリングをしたユーザーをスタートアップが採用チャネルとして活用する。実際にプロジェクトを一緒に行うことで、学生の本質を起業家自身が見抜くことができる上、優秀な学生と出会える確率は非常に高くなるはずだ。学歴で採用するより何倍も自社にとってマッチする人材をリクルーティングできるのではないだろうか。

学生側としてみれば、優秀なスタートアップ創業者からF2Fでノウハウを学び吸収することで、ビジネスパーソンとしての即戦力を身につけることができる。さらに共にプロジェクトを進める中で講師と相思相愛になることができれば、そのまま就職先を決められる。いわば米国式の就職活動であり、まさにジョブ型雇用の時代にマッチした、ニューノーマルの就職活動である。

【参考】サブスクリプション型ビジネスのKPI設計

基本的な話になるため、あえて最後にこの章を持ってきたが、サブスクリプション型ビジネスのKPIについて記したい。

売上 = 顧客数 x 顧客単価 x 継続率

上記3つがサブスクリプション型ビジネスの主なKPIである。顧客を集めリテンションするだけでは事業がスケールしないのはお分かりいただけると思う。キーとなるのは、集めた顧客の単価をどう上げるかである。これまで築いてきたブランディングや培ってきたノウハウ/ネットワークを最大限活用することで、顧客単価を上げる戦略を取ることが必然的なビジネスモデルなのだ。ここに記した考察以外にも、いくつかアイデアとして思いつくことはあるが、長くなるので一旦ここまでにしたいと思う。この考察が大きく的を外し、数年後読み返したら恥ずかしくなってしまうかもしれない。一方でNewsPicks愛読者としては、このような考察の斜め上を行くあっと驚くビジネスを展開してくれることを切に願い、この考察を終えようと思う。

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