雑記02 『文章を書きたい』という話について

(以下、架空の友人に宛てた手紙という形式の雑記です。)

〇〇さん、こんにちは。元気にしているようだと嬉しいです。
〇〇さんから、『あれこれ文章を書きたいと思っているけれども、そうしたことがなかなかうまく進まない、どうしたらいいだろうか』、と言う話を前に伺っていました。

その返事が遅くなってしまいましたが、自分はそのテーマについて長く考え続けていました。果たして〇〇さんの参考になる話がこれから書くことに含まれているかどうか分かりませんが、とりあえず自分の頭に浮かんでいるいくつかの考えを文字にして送ろうと思います。


経営についての文章作家として有名なドラッカーが、『私の履歴書』と言う本の中で、自らの執筆方法について話している箇所があって面白いと思いました。

①まず箇条書きのような形で書こうと思っているテーマについてメモを書くそうです。

②そうしたらテープレコーダーを取り出して、メモを見ながら思ったことをどんどんしゃべって録音をします。

③録音が済んだらその録音のデータを業者さんにお金を払って文字起こしをしてもらいます。

④文字起こしされた文面を受け取ったら、その文面にメモを書き加えたり、不要だと思った箇所を削除したりします。

そうして加筆と削除を加えたメモをもとに、2回目のボイスレコーディングを行います。そうして②③④を3周ほど繰り返し、原稿の完成となるようです。『それが1番早い』、と書いています。『私の履歴書』の編集者の記述では、このドラッカーの執筆方法について読者から反響が大きかったそうです。
自分はこうした、口述筆記と言うものについて前から関心が強くあるので、この話を読んだときに面白いと感じました。

ついでに口述筆記について少し話を広げると、まず頭に浮かぶのはスタンダールです。スタンダールの『パルムの僧院』は大部分が口述で筆記されたそうです。

これだけの質と分量の作品がごく短い期間で作成された事は驚くべきことである、
と言う意味の記述を昔、スタンダールについて書いた本の中で目にしたことがあります。ドラッカーの話と同じく、速さということがこの話と共通して強調されています。


最近、ゲーテとの交友を記録した『ゲーテとの対話』と言う本を読んでいます。エッカーマンの著作です。その中でゲーテはこういう趣旨のことを話しています。

『下書きを業者に清書させて、作品の発表に向けて物事を進めている。下書きは最後まで書かれたものではなく、途中で途切れたりしている。自分が作業の近くをうろうろ巡回していて、清書作業の途中でその途切れている箇所まで業者の作業が到達したら、口頭で文章を伝えて、それをその場で記録してもらう、と言うやり方をとっている。』

このことから、ゲーテも口述での作品制作を行っていたということが伺えると思います。あくまで全体の仕事量からしたら部分的な役割かもしれませんが。


他にもいろいろな口述の形式で作成された文章というのが世の中にあると思います。よくイメージされがちな、机に座って原稿用紙やワープロ、パソコンとにらめっこをしている文章作家の像というのがあると思います。こうしたやり方に、ピタリとハマる人はそうしたやり方が良いと思いますが、世の中にはそうしたやり方だとかえって筆の滑りが極端に悪くなると言う人もいるように思います。
〇〇さんにちょうど合った文章の作成のスタイル、やり方というものが見つかったらいいな、と言うことを思っています。


芸人で文章作家の又吉さんの話も印象に残っています。又吉さんは、文章の締め切りが近づいていて、編集者が『又吉さん、どうか一刻も早く原稿をいただきたいです。』とお願いをしてくる時、『今書いている文章と関わりのある場所に連れて行ってくれれば、ここで座って書こうとしているよりもずっと早く書き進めることができると思います。どうか自分をその場所に連れて行ってくれないでしょうか。』と、お願いをすることがあるそうです。そして実際に、編集者の人にその場所に連れて行ってもらうと、自然と筆がどんどん進む、ということがある、ということを話していました。
どんな場所で書くかということが、何かを書こうとしている人に不思議なほどに影響を与えることがあると言うことを思います。


将棋棋士の加藤一二三さんは、自分の娘さんが、『勉強机ではどうしても勉強することができない』、ということを話していた、と本に書いています。話によると、『自分のベッドの上で寝転がっている状態』だと、驚くほど勉強が進んでくれるそうです。加藤一二三さんは、自身のお気に入りの文章作家さんについても触れていました。その文章作家さんは、作業机みたいなところだとあまり筆が進まず、台所のちょっとしたテーブルだとすごく文章作成がはかどるので決まって台所で執筆をしていると言う話でした。
(ちなみに、加藤一二三さんと娘さんとで共通して その文章作家さんの愛読者だそうです。)


こうして考えていると、文章を作成、執筆がはかどるかどうか、と言うのは、受験生など何かの勉強をしようとしている人が、『こうした環境だと不思議とはかどる』、『こうした環境だとどういうわけか集中できない』、と言うテーマと共通したものがあると感じます。

ざわざわとさがしい所の方がかえって集中できるという人もいると思いますし、静まり返っているところの方が集中して作業できるという人もいると思います。植物など自然物の多い環境だと作業に集中できるという人もいると思いますし、都会のビルの中の方が集中できると言う人もいると思います。


時間帯も関係があるのかなと言うことを思います。ヤンケレビッチ(ジャンケレヴィッチ)と言うフランスの哲学者、文章作家の本を読んで前に面白いなと思ったことがあります。
彼が言うには、音楽家のショパンには、お気に入りの作業の時間帯というのがあるそうです。夕方とか夕暮れを過ぎた頃から制作作業に取り掛かるらしいです。夕方から真夜中が不思議と作品制作に勢いが乗ってきてくれる時間帯だと認識していたようです。朝や昼など明るい時間帯は、ショパンにとって作品制作において不都合な時間だったと言うようなことをヤンケレビッチが本の中で書いていたように自分は認識しています。

〇〇さんにも、もしかすると、『朝起きてすぐの時間に文章作成をすると筆の滑りが良い』、とか、『この時間帯に文章作成をしようとするとなかなか停滞してしまってうまく進んでいってくれない』、という何かしらの傾向があるかもしれません。そうした傾向を把握して活用していくのも1つの着眼点として有効かもしれないと言うことを思ったりしています。


もう一つ思いつくのは、チャンドラー方式と言うやり方です。作家の村上春樹さんがそれについてコメントをしていて自分は知りました。チャンドラーさんと言う方は、1日の中に例えば2時間とか時間を決めて、文章がスルスルと書けても、筆が停滞してしまっても、どちらであろうと 『その時間の間は絶対に作業机の前に座り続ける』、と言うふうに決めて 長らくその習慣を続けていたそうです。

人間にはいろんなタイプがあると思いますが、文章作成に慣れていない人の中には、何か文章を書こうと思って取り組むけれども、なかなかうまく筆が進まないので、だんだんと気分が変わってしまって、10分くらいする内に机から離れてしまう、という人も結構いるように思います。


チャンドラー方式と言うのは、そうした『10分位で机からリタイヤしてしまう人』に向けて、『筆が進まなくてもとりあえず例えば1時間は机の前にいるようにしてみるといいことがあるかも知れませんよ。』、と言う呼びかけをしている方式、と言うように受け取っても良いのじゃないかなと言うように思います。


前に知人が僕に、こういうことを話してくれました。
『自分は× ×の作業のこと苦手だ、とずっと思っていたけれども、最近改めて、自分は× ×と言う作業について今まで、ほとんどまとまった時間を割いたことがないと言うだけのことではないか、と思うようになってきた。』、という趣旨の話です。

筆の進みがどうしてもなめらかに進んでくれない、作業がスムーズにうまく進んでくれない、と言うもどかしさから、該当作業から早い段階で離脱してしまうということは世の中によくあることに思います。自分もそうしたことがいろいろあるな、と言うことをつくづく感じています。

物事の進みが良い悪いに限らず、1時間とか30分間とか決めた時間の間は、その作業に関わることに触れ続けていよう、と言うやり方はもしかすると自分や〇〇さんの助けになってくれるかもしれないと思います。

他にも色々と書いて送りたい内容はあるのですが、ここまで書いておよそ3500字と言う分量になりました。ここで一旦区切りにしておく方が良さそうだと言うことを感じています。

あれこれ書いて長い文章になってしまいましたが、こうしてここまで書いてきた内容が、〇〇さんにとって何か少しでも参考やヒント、助けになっていったら嬉しい、ということを思っています。
〇〇さんの方からも思いついたこと何でも書いて送ってください。こうしたテーマに関係のない内容でも大歓迎です。
それでは今回はここで失礼いたします。ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。

この記事が参加している募集

#新生活をたのしく

47,932件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?