見出し画像

【怪談】知らないトモダチが、家までついてきた

いまからもう20年以上前のことですが、僕が東京の実家に住んでいたとき、当時大学生だった姉の身に実際に起きた話です。

現在30代以上の方であれば分かると思いますが、昔はテレビで夏になると心霊写真とか、心霊スポットとかの特集番組が組まれていたこともあり、暇を持てあました若者たちが夜のドライブがてら、夜な夜なそういうスポットを回ることが流行っていました。

実家で僕を含めた家族と同居していた大学生の姉も、ごたぶんにもれずそういう番組が大好きで、冝保愛子の心霊番組とか、夏休みの昼間にやっていた「あなたの知らない世界」とかをよく見ていました。

ある夏の夜、友人たち4人と1台の車で、東京近郊の心霊スポットをまわることにしました。神奈川県内の廃墟となった病院とか、都心の有名な墓地とか、東京西部にある暗いトンネルとか、当時、霊が出ると噂になっていた場所をまわり、ワーキャー怖い怖い言いながらも、友人たちと夏の夜を楽しんでいたそうです。


東の空が白み始めるころには、肝試しも終了し、姉の友人が運転する車で、23区内にある実家に帰ることとなりました。あのトンネルで人影が見えた、とか、病院ですすり泣く声が聞こえた、とか、その夜の出来事を興奮気味に語る友人たちの中で、姉はなんとなく気だるさと両肩に違和感というか重さのようなものを感じ始めていました。ただ、これまで霊を見たこともない姉は、ただの気のせいだと思い、友人たちの話を聞きながら、すっかり夜の明けた東京の街の車窓を眺めているうちに車は実家の前に到着しました。

運転してくれた友人にお礼を告げ、車が走り去った後、姉は一軒家のドアの前で鍵を探しましたが、その日、鍵を持ってきていないことに気が付きました。もう朝だし、家族の誰かが起きているだろうと思い、ドアの前でインターフォンを鳴らすことにしました。

僕の実家は二階建てで、一階に祖母の部屋があり、二階に姉、僕、妹と両親の部屋がありました。インターフォンが家に鳴り響き、その時一階ですでに起きていた祖母が一階の居間でカメラで姉の姿を確認して、ドアの鍵を開けてくれました。

朝帰りした姉を玄関で迎え入れた祖母は「おかえりー」と声をかけたのですが、靴を脱いでいる姉を見て不思議そうな顔をしていました。姉は祖母のその顔を気が付き、「どうしたの?」と聞いてみたところ、祖母は姉にこんな事を言い始めました。

「いや、あきちゃん(姉の名前)が帰ってきたのをインターフォンで見てたんだけど、あきちゃんの後ろから和服を着た女の子が一緒に家に入ってきたのが見えたんだよね…。そのとき、いまどき和服をきた女の子なんてめずらしいけど、あきちゃんがお友達連れて帰って来たのかな、って思ってたんだけど…」

もちろん、姉はひとりで帰宅していますし、和服を着た女の子なんて、全く心当たりはありません。祖母の言葉に心拍が上がり、体中に鳥肌が立つのを感じた姉でしたが、祖母もすでに80歳を超えており、

「見間違いかなにかじゃない?」

と自分に言い聞かすように言い放ち、二階への階段を上り、自分の部屋へと向かいました。

二階の階段を上ると、そこにはすでに起床した妹が居間でテレビを見ていました。そして、妹もまた、奇妙なことを姉に聞いてきたのです。

「おかえり。あれ、一緒に帰ってきたお友達は?

「…友達?…なんで?」

「ピンポン鳴らしたとき、一階でおばあちゃん出たでしょ?私も二階で見てたんだけど、もう一人後ろから着いてきているのが見えたから、友達と帰ってきたと思ってた」

うちの実家のインターホンは、一階と二階の居間にそれぞれあり、妹は二階のインターホンの画像を見たときに誰かが一緒に帰ってきたのが見えたそうです。ただ、妹が言うには、和服を来ていたかどうかはっきりわからなかったが、若い女の子が後ろからついてきて家に入ってきている姿は見えていた、とのことでした。

その後、起きてきた家族みんなでこの話を共有し、姉がどこかの心霊スポットで連れてきてしまった和服の女の子の霊が自宅に入り込んでしまったのではないかという結論に達しました。

念のため塩をまいたりもしたのですが、姉の肩の違和感はしばらくの間抜けなかったそうです。その後、和服を着た女の子を見かけることはありませんでしたが、この夏を境に、姉は興味本位で心霊スポットに足を運ぶのは一切やめました。

最近テレビではこういう心霊番組はみなくなりましたが、youtubeではいまも心霊スポットに足を運ぶ企画を多く見かけます。僕自身、今でも霊とかお化けに興味はあるのですが、すでに亡くなられた方の思いや魂を思いがけずに拾ってしまうことはあるのだということを知り、家族全員でヒヤリとした夏の出来事でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?