バカは死んでもなんとやら(声劇・演劇、男3女1不問1)

(人物一覧表)
天使(?)…元人間の天使
斉藤 真(24)…クズ男
伊瀬 葵(22)…ギャル
宮部 恭太郎(42)…博士
尾田 隆文(21)…根暗大学生

(あらすじ)
 ここはあの世。この世で死んだ四人は天使の力で生まれ変わることが決まっていた。彼らは生まれ変わるまでの時間、どうして自分たちが死んでしまったのかを話し合い、反省していく。しかし「バカは死んでも治らない」という言葉があるように……。

声劇・演劇想定台本
上演時間約40分

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〇あの世

 三人の男女と天使が集まっている。

天使「あと一人、まだ来てないようですね」

 と、そこへ隆文が。

隆文「あ、あのぉ。すいません。転生課はこちらでよろしかったでしょうか?」

天使「はいはい、合ってますよ」

隆文「よ、良かった。いやね、迷子になっちゃって。いや大学生にもなって迷子って、お恥ずかしい話なんですけどね、どうも道が分かりにくくてですね、それで」

天使「あー、はいはい、分かりましたから」

隆文「え、あ、すいません」

葵「早くしてほしいンですけどォ」

隆文「ひぃ」

天使「はいはい、では皆様、まずは自己紹介の方から。私は死者管理事務局転生課の第六十三号天使、アンスロポス・マルアーク・アイオーン・レナトゥスと申します」

真「アンスロ……え、何ですって?」

葵「わけわかんないンですけど」

恭太郎「ギリシャ語、ヘブライ語、ラテン語をごちゃまぜにしている。おかしな名前だ」

天使「よく言われます」

恭太郎「気になるのはアンスロポス、つまり人間という意味だが。天使ではなかったのか?」

天使「私は元人間なんですよ。あなた方人間と交流しやすいように、特に人と関わる部署には元人間の天使を配置しておりまして」

恭太郎「なるほど」

葵「何がなるほどなのかさっぱりなンですけど。なんか偉そうだし」

恭太郎「ふん。実際に偉いのだ。博士だからな」

真「もうちょっと呼びやすい名前だと楽なんですけど」

天使「私のことは単に天使と呼んでいただければ」

葵「最初からそうしろって話だしィ」

真「まぁまぁ」

天使「私の仕事は貴方たちがちゃんと生まれ変われるか見送るのことです。転生課の名のごとく」

真「見送る、だけ?」

天使「はい」

葵「めっちゃ楽そう」

天使「さて、それでは……。まずは点呼を取らせていただきます。一人ずつお名前と亡くなった時の状況を確認していきます」

葵「えー、めんどくさァ」

天使「一応、規則ですので。ではまず、斉藤真さん」

真「はい」

天使「享年二十四歳。突如発生した事態を解決しようとして死亡。最期の言葉は」

真「俺、帰ったら幼馴染と結婚するんだ」

隆文「死亡フラグだ!」

葵「やだ。ちょっとカッコイイかも」

天使「次は伊瀬葵さん。享年二十二歳。観光地でサメに襲われて死亡。最期の言葉は」

葵「マジ超あり得ないンですけど。ぶっちゃけサメとか余裕っしょ」

隆文「またしても死亡フラグ」

恭太郎「サメだと……?」

天使「次は宮部恭太郎さん。享年四十二歳。自分が開発した実験動物に捕食され死亡。最期の言葉は」

恭太郎「き、貴様、創造主たる私に何をする!」

隆文「これもまた香ばしい死亡フラグだなぁ」

真「マッドサイエンティストってやつですね」

天使「次に尾田隆文さん。享年二十一歳。心霊スポットとなっていた洋館にて、ポルターガイストに巻き込まれて死亡。最期の言葉は」

隆文「こ、こんな危ないところにいられるか! 僕一人だけでも逃げてやる! ……あ、うん。僕もたいがい死亡フラグ立ててたな」

天使「以上、四名」

真「なんだか皆さん。何でしょう、まるで映画みたいな死に様ですね」

恭太郎「科学者たるもの劇的に生きて劇的に死ねばなるまい」

葵「そーゆー真だってすっげェかっこいい死に方じゃん?」

真「いやぁ、それほどでも」

隆文「それに比べて僕は。情けないなぁ」

天使「さて。すでに転生課の別の天使から聞いているとは思いますが、厳正なる抽選の結果、あなた方は特典として一つだけ前世の記憶を来世に持ち込めることとなりました。その持ち込む記憶なのですが……」

真「急に言われましたからねぇ」

葵「ぜんぜん」

恭太郎「選びきれんな」

隆文「ぼ、僕も」

天使「どうでしょう皆さん。ここは一つ、どうやって死んでしまったのか語り合うというのは。幸い転生まで時間もありますし」

真「それはいいですね。我々が早死にしてしまった原因と対策を覚えていられたら同じ過ちは繰り返さずに済みそうだ」

隆文「う、うん。そうですね。皆死亡フラグ立てまくって死んでたし、最低限それは避けたいですよね」

真「その。隆文さんですっけ」

隆文「け、敬語使わなくていいですよ。た、たぶん年下ですし、僕」

真「そう? えーっと、隆文君。さっきからその、死亡フラグっていうのは何だい?」

葵「私も気になってた」

隆文「え、えっと。漫画とかアニメとか、映画とかで死にそうな発言とか行動のことを死亡フラグって言うんです。皆さんの最期の行動はそれに当てはまるんですよ。真さんが言ってた故郷に帰ったら結婚する、とか」

真「そうなのか」

葵「漫画とかアニメとかあんまし見ないから分かンないや。何、隆文ってもしかしてオタクってヤツなの?」

隆文「い、いや、そ、そんなことはないと思うます。僕なんかがオタクと名乗ってはおこがましいと言うかなんというか」

真「とにかくその、死亡フラグ? だっけ。それを回避すればいいということか」

隆文「おそらく。あ、ちなみに真さんみたいな台詞はプラトーンという映画が元祖なんですけど、言った十分後に死亡してました」

真「嘘ぉ」

恭太郎「我々は現実でありアニメだの映画だのとは違う。しかしそういった娯楽作品は現実の地続き。現実を映す鏡とも言える。参考にする価値はありそうだ。凡人にしては良い発想ではないか。褒めてつかわそう」

隆文「あ、ありがとう、ございます」

天使「うーん。そんな運命じみた話は聞いたことないですけどねぇ。ま、とにかく話していきましょう。えっと、誰から始めます?」

真「俺から話そう」


〇真の死亡パターン

真「夏真っただ中のあの日。俺は同級生の女の子と海に来ていた。砂浜で二人、貝殻を探したりして遊んでいた」

葵「いい雰囲気じゃない。例の幼馴染かな。婚約者と海辺でデート」

天使「ロマンチックですね」

葵「ここでプロポーズとかしちゃったりして。だからあの言葉なのかな」

真「そしたら海の方から悲鳴が上がったんです。ぎゃーっ! な、何だ! 化物だ! 怪物だ! だれか助けてくれぇ!」

隆文「急展開!」

真「俺は何事かと海へ向かって走り出そうとした」

隆文「勇気あるなぁ」

真「しかし、そんな俺を止める女性が。『真君! 危ないよ! 私、貴方が死んじゃったら嫌だよ。まだ思いも伝えてないのに』」

隆文「ほとんど伝えてるようなものじゃないか」

葵「ヒューヒュー!」

真「そこで僕は言ったんです。『俺、帰ったら幼馴染と結婚するんだ』」

恭太郎「……ん? その一緒に海に行ったという同級生というのは幼馴染ではなかったのか?」

真「そうですけど」

隆文「え、じゃぁ何ですか。あなた結婚したい人がいるのに別の女性と海に行ったんですか?」

真「あぁ」

隆文「二人きりでぇ!?」

真「あぁ。え、何かおかしいか?」

隆文「何だろう。決定的に何か倫理観が違う気がする。い、いや、待てよ。これは僕がオタクだから、いやオタクでは無いんだけど、そういう方向性の人間だからそう思うだけなのか?」

葵「最悪なんですけどォ」

隆文「はいやっぱり真さんギルティ!」

恭太郎「クズの一言に尽きるな」

葵「何でこんなヤツが生まれ変われるのよ」

天使「すいません、私には分からないんですよ。私の仕事はあくまで見送りです。誰を転生させるか決めるのは別の天使の仕事でして」

恭太郎「人間の倫理観ならこのような存在を再度この世に生むというのはいささか理解しかねるが」

真「そこまで言いますか」

天使「転生を決める天使は元人間ではなく神様が別に作った存在なんですよ。だから神様の考えに従っているもので。上位存在たる神様の意思というものは我々人間程度では推し量ることはできず」

葵「納得できないンですけど」

隆文「い、一応続きを聞きましょう。それで真さんはその化物? に挑んで死んじゃったんですか?」

真「いや、なぜか幼馴染と結婚するって言った瞬間に背中に痛みが走ってな。おそらくそのまま死んだ」

隆文「……刺されたのでは?」

天使「あ、確かに真さんの死因は包丁で刺されたことによる失血死ですね。すいません資料を見落としていたみたいです」

隆文「そ、その同級生もかなりアグレッシブですね」

恭太郎「ところで真よ。貴様、その同級生とやらのことはどう思っていたのだ」

真「え、いや、可愛いなって」

恭太郎「それだけか?」

真「はい」

葵「最悪」

隆文「ギルティ」

真「えぇ……」

恭太郎「次の人生ではその女癖を直す必要がありそうだな」

真「お、女癖って」

恭太郎「自覚が無いとはなおのこと悪いではないか。その幼馴染とは婚約していたのであろう?」

真「えぇ、まぁ。お恥ずかしながら」

 と照れる。

葵「殴っていい?」

隆文「葵さん。押さえて、押さえて」

恭太郎「では別の女性と海へというのは裏切りに当たるのではないか」

真「裏切りですか」

恭太郎「自分のことだと考えてみよ。自分の幼馴染、それも婚約者が別の男と海へデート」

真「嫌ですね」

恭太郎「同じことだ」

真「な、なるほど」

葵「あとその同級生。ぜってー真のこと好きっしょ」

真「えぇ、いや、まぁ、そうなのかなぁ?」

 と照れる。

隆文「殴っていいですかね」

天使「押さえてください」

葵「思わせぶりな態度とってポイ、なんて最低っしょ」

真「でもそれは向こうが勝手に」

葵「だとしても。相手のことを考えるべきってこと」

真「……なるほど」

天使「生まれ変わったら人の気持ちを考えるようにしてくださいね」

真「そうですね」


〇葵のパターン

葵「てかずっと気になってたんだけど、もしかして真が死んだのってハザマノビーチ?」

真「そうだけど。え、観光地ってまさか」

葵「うっそまじィ!? すっげ、超奇跡なんですけど!」

隆文「二人は同じ場所で死んだんですね」

葵「違う言い方して。こいつと同じなんて嫌」

真「えぇ……」

葵「ちょっと、アタシのこと狙わないでよ」

真「狙わないよ。それで君は……」

葵「夏休みに友達と海水浴に来てたのよ。それで海に入ってピチャピチャ遊んでたらこのザマ」

隆文「怪物に襲われた……。いや、怪物じゃなくてでかいサメでしたっけ」

葵「そー。マジ最悪」

真「でもどうして逃げなかったんだ?」

葵「だって信じれないでしょ。おっきィサメが近づいてるぞって言われて信じる? ここ日本だよ」

隆文「た、確かに」

葵「それにワンチャン、サメぐらいなら倒せるかなって」

隆文「そんなバカな」

恭太郎「アレが貴様ごときに倒せるわけが無かろう」

葵「アレがって、見たことないっしょアンタ」

恭太郎「し、しかし巨大なサメであろう。有名なモノならホオジロザメ、平均サイズ四から四点八メートル、体重は一トンを超える例もある。人間なぞ一口ではないか」

葵「でもぶっちゃけ魚っしょ。それにどっかのテレビでサメは人を襲わないとか言ってたし」

恭太郎「まったく襲わないと言うことでは無いぞ。怪我をしていて血が海中に流れている場合など血の匂いにつられて襲うこともある。単純に腹が減っている場合は食料として見られることもしばしばだ」

葵「食べられる前に知りたかったなァ」

恭太郎「そればかりは仕方あるまい」

天使「まぁ葵さんの反省点は分かりやすいですね。油断大敵です」

隆文「油断は死亡フラグに繋がりますから」

葵「気を付けまァす。てゆーか天使さん」

天使「はいはい」

葵「一緒に来てた友達。どうなったの」

天使「残念ながら」

葵「天国には行けた?」

天使「そのようですよ」

葵「なら、少しだけ良かったって思える。でもすぐには割り切れない。どうしてアタシたちがこんな目に逢わなくちゃいけなかったの。そりゃ頭もよくなかったし、おかーさんにもよく叱られてたけどさ。でも悪いことはしてなかったのに。死亡フラグだかなんだか知らないけどさ。こんな理不尽なことってねーよ」

隆文「ご、ごめんなさい」

葵「アンタが謝ることないでしょ」

隆文「いや、その。死亡フラグだーって、軽く言い過ぎたかなって」

葵「気にしてない」

隆文「ご、ごめん」


〇恭太郎のパターン

天使「さてでは次は……。恭太郎さん?」

恭太郎、皆から背を向けている。

恭太郎「私は黙秘しよう」

葵「えー。ズルくなァい」

真「そうですよ。貴方も話すべきです」

恭太郎「う、うむ……。私は博士だぁ」

真「いや知ってますよ」

隆文「あ。あー。僕ちょっと分かっちゃったんですけど。一応、聞いちゃっていいですかね、恭太郎……博士」

恭太郎「し、仕方あるまい」

隆文「開発した実験動物って、サメ?」

恭太郎「……うむ」

葵「サメェ!? うっわ、すっご、奇跡じゃん。アタシら三人ともサメ関連で死んだってことォ?」

真「あ。そういうことか」

葵「え、何、どういうこと?」

隆文「その実験施設から一番近い、観光地はどこですか?」

恭太郎「ハザマノビーチだな」

葵「……あ、思い出した。サメって足ついてた?」

恭太郎「私がつけた」

葵「……お前のせいかァ!!!」

 葵、恭太郎に殴りかかる。

 皆で止める。

天使「ちょ、ちょっと落ち着いてください!」

真「暴力はダメですよ、暴力は!」

葵「落ち着けるわけないっしょ! てか何でお前も止めるんだよ同じ被害者だろ」

真「そうですけど暴力はダメです!」

隆文「同じ被害者っておかしくないですか?」

葵「ホントだ。お前は別にサメに殺されたわけじゃねェじゃん」

真「確かに」

葵「……もういいよ!」

皆、葵から離れる。

葵「……最悪」

恭太郎「申し訳ないことをしたな」

葵「ホントだよ」

恭太郎「こうなるとは思っていなかったのだ」

葵「……あーもう! 切り替える! 死んじゃったのはもう取り返せないし、いい! アンタを殴ってもどうにもならないし。それより何でアタシらが、友達が死ななくちゃいけなかったのか知りたい」

恭太郎「……私はとある研究所に勤めていた。我が研究所は表向きには再生医療の研究を行っていたが、その裏では医療技術を流用し生物兵器の開発を行っていた。その結果生まれたのがあのサメだ」

真「俺が住んでたのって本当に日本だよな」

天使「間違いないですよ」

真「日常の裏でこんなことが……」

恭太郎「誓って言うが、私は別に君たちに危害を及ぼそうとしたわけではない。むしろ逆だ。力によって人々を守らんとしたのだ。しかし、実験は失敗した。最強の力を手にしたあのサメ。名前をAmphibium Pistrix(アンフィービウム・ピストリークス)と言うんだが」

天使「ちなみに意味は」

恭太郎「水陸両用サメだ」

天使「そのまんまですね」

恭太郎「ホオジロザメをベースに陸上生活が可能な四足を取り付けた」

天使「どうしてそんなことを」

恭太郎「強そうだから」

隆文「科学者とは思えないほど短絡的だ」

恭太郎「何を言う。電磁波の感知を可能としたロレンチーニ器官による高い索敵能力。多数のナイフのような鋭い牙と動物界トップクラスの咬合力による攻撃力。水中を六十キロメートル毎時で駆け抜けるスピード。海中最強の生物が陸上に進出したとなればこれほどの脅威は無いだろう。熊すら仕留められる」

真「熊って。まさか熊から人々を守るために熊に勝てる動物を作ったってことですか?」

葵「さすがにないっしょ」

恭太郎「そのまさかだ」

葵「うっそぉ。え、私こんなンのせいで死んだの? 信じたくないンですけど」

恭太郎「何を言う。熊だぞ。日本の陸上に生息する動物の中でも最強の戦力を誇るあの熊だぞ」

葵「え、だって、熊っしょ。なんか可愛いじゃん」

恭太郎「貴様。出身はどこだ」

葵「東京だけど」

恭太郎「だからそのようなことが言えるのだ」

真「ちなみにあなたは」

恭太郎「北海道だ」

天使・隆文・真「あぁ。なるほどねぇ」

葵「何、どういうこと?」

恭太郎「さらに言えば実家は猟師だ」

天使「心中お察しします」

葵「何がなるほどか全然分かんないンですけど。あ、てか天使に言われて知ったンだけど」

恭太郎「何かね?」

葵「あれ、サメだったンだ」

恭太郎「何だと思っていたのだ」

葵「ワニ」

恭太郎「……な、何たることだ。ワニ、ワニだと。寄りにもよって、ワ、ワニィ……?」

隆文「恭太郎博士。好きな映画は?」

恭太郎「ジョーズ」

隆文「そうですよね」

恭太郎「私の何が悪かったと言うのだ。やはりあの無能どもに頼ったのがいけなかったのか」

真「無能?」

恭太郎「我が研究チームは私ありきで成り立っていたようなものだ。天才たる私を立てるために集まったメンバーだ。だというのに奴らときたら、崇高たる我が思想をほんの僅かとて理解せんのだ」

真「あー……。それがいけなかったのかもしれませんね」

恭太郎「何?」

真「大切なのは、相手の立場に立つことです」

葵「お前が言うか」

隆文「まったく説得力が無いですよ。天使さん、お願いします」

天使「はい」

真「えぇ……」

天使「恭太郎さん。これまでの人生を振り返ってどうですか。周りは下だと決めつけて、一人暴走するようなことがあったのではないですか?」

恭太郎「暴走。ふむ……。どうだろうな。言われてみれば、というところだ。すぐには思いつかんよ」

天使「先ほどの発言から分かりますよ。貴方は無能と罵りますが、それでも同じ研究チームになれるほどの能力はあったのでしょう。貴方が求める能力では無かったかも知れません。それでも何か学べるものがあったのではないでしょうか」

恭太郎「なるほどな。自分は天才だと思い込み、誰の言葉も聞かなかった。そんな傲慢さこそが私の間違いだったというわけか」

天使「そうだと思いますよ。転生したら、謙虚に生きましょう」

恭太郎「うむ。……葵よ」

葵「何?」

恭太郎「謝って済むことでは無いとは思うが。申し訳ないことをした。すまない」

葵「許さないって言ったところでアイツらが返って来るわけでもないし。もういいよ。次の人生で同じことをしなければ」

恭太郎「うむ。心がけよう」


〇隆文のパターン

天使「さて。最後は隆文さんの番です」

隆文「は、はい。ぼ、僕はその。大学のサークルに入って。でもなじめなくて。弄られることばっかりで。それで、怖がらせようとしたんでしょうかね。心霊スポットに連れていかれて。僕、ホラー映画はよく見るんですけど。実際のそういうところは苦手で。それなのに無理矢理」

葵「最低な連中ね」

真「あまり良い話ではなさそうだね」

隆文「それで。森に入って行って。すると古い、廃墟になった洋館があったんです。入ってみると凄い嫌な予感がして。ヒヒヒ、ヒヒヒ、と謎の声が」

恭太郎「危険極まるではないか」

真「あれ、恭太郎さんってそういうの信じるタイプなんですか? 科学者なのに」

恭太郎「証明はできないが否定もできないからな。信じるというほどではないが……。いや、今は信じているな」

真「どうして」

恭太郎「目の前に天使がいるからな」

真「あ、そっか」

天使「ちなみに幽霊も実在しますよ。心霊スポットはほとんど嘘ですけど」

葵「少しホントってこと?」

天使「隆文さんのグループは見事に本物を引き当てました」

葵「運悪ゥ」

隆文「皆強がって奥の部屋まで行こうっていうからもう僕限界で。『こ、こんな危ないところにいられるか!』と一人で逃げ出したところ。シャンデリアが落ちてきて」

恭太郎「ポルターガイストか」

隆文「ぼ、僕がいったい何をしたって言うんだぁ!」

真「ちなみに天使さん。他のメンバーはここにはいないようだけど」

天使「全滅した後、天国なり地獄なりに行ったようです。転生に選ばれたのは隆文さんだけみたいで」

葵「ま、まぁ、連中も天罰を食らったみたいだし、良かったんじゃね?」

隆文「でも天国に行ってるやつもいるんでしょ」

天使「まぁ、はい」

隆文「……もういいです。仕方ないです。神様のことなんて分かんないですし。地獄に落ちろとまでは思ってませんから。それで僕はいったいどうしたらよかったんでしょうか」

真「うーん」

葵「心霊スポットにはいかない、つっても無理矢理だったんだもんなァ」

恭太郎「ふと思ったんだが。隆文だけは別なのか」

隆文「……はい?」

恭太郎「我々は例のサメ関係で死んだわけだが隆文だけ」

隆文「あーっ! ホントだぁ! け、結局ここでも仲間外れじゃないかぁ! うわぁ!」

 と泣き出す。

恭太郎「す、すまん」

隆文「僕は死んでも一人ぼっちなんだぁ」

葵「あ。それなンじゃね?」

隆文「それ?」

葵「一人ぼっち。だから死んだんじゃね」

真「確かに他のメンバーと行動を共にしていれば死なずに済んだかも」

天使「でも全滅してますよ」

真「うーん」

恭太郎「だが一理あるな。お前が連中と仲良くしていればあるいは止められたかもしれん」

隆文「そんなの無理ですよ。あんなのと仲良くなんて」

恭太郎「あんなの、とはずいぶんだな」

隆文「知らないからそんなこと言えるんですよ」

恭太郎「ふむ……。だがな。私もどうやら周りを見下して仲良くしなかったことが遠因ながら死につながったらしい。もしやお前も」

隆文「別に見下してたわけじゃないですよ。ただなんていうか。馬が合わないって言うか。僕が浮いてたっていうか」

葵「なら別に無理に仲良くなる必要なんてなくね? てかつるまなきゃいいじゃん」

真「確かに。どうして関係を続けていたんだ?」

隆文「それは、ほら。大学デビューっていうか、なんていうか」

真「あー……」

葵「……だ、ダサい」

隆文「あーっ!」

 とまた泣く。

天使「ちょっと葵さん、ダメですよ」

葵「思わず……」

天使「生まれ変わったら仲良くできる人たちだけと仲良くすればいいんじゃないでしょうか。無理に自分に合わない人と仲良くして、気分を害する必要はないですよ」

隆文「うぅ。そうですねぇ。次の人生ではオタク仲間だけとつるみます」

天使「いや、次もオタクになると決まったわけじゃ」

隆文「どうせなりますよ」

天使「はぁ」

隆文「いや、でも僕なんかがオタクと名乗るのは滑稽ですね。オタクじゃないです。にわかです」

恭太郎「なぜに卑屈なのだお前は」

葵「そんなに落ち込む必要なくね? もっとハッピーにいこーよ」

隆文「ハッピーですか。まぁ、そうですね。生まれ変わったら前向きに頑張りますよ。できる範囲で」


〇生まれ変わるとき

天使「それでは皆様。転生の時間です。色々と思うところはありますでしょうが。気持ちを切り替えて、次の人生を頑張ってきてください」

真「はい」

葵「うん」

恭太郎「うむ」

隆文「は、はい」

天使「では、行ってらっしゃい」

真「よし。次の人生ではハーレムを作るぞ」

天使「はい。頑張ってくだ……え?」

真「皆さんの話を聞いて理解しました。つまり、一人の女性を愛するというのが間違っていたんです! 俺は可愛いと思った女性の気持ちを思いやり、皆愛してやるぞ! ハッハッハッ!」

天使「え、ちょっと、何か違うんですけど、真さぁん!」

 真、去る。

葵「油断大敵。ま、要はシンチョーに行けってことっしょ」

天使「まぁ平たく言えば」

葵「それならアタシは大丈夫!」

天使「……え、どうしてですか?」

葵「大丈夫!」

天使「え?」

葵「じゃっ!」

 葵、去る。

天使「えぇ!? 何が大丈夫なんだぁ!?」

恭太郎「天使よ。世話になったな」

天使「恭太郎さん……。貴方は」

恭太郎「ふん。心配するな。私は、博士だぞ」

天使「恭太郎さん! ……根拠が薄い!」

恭太郎「謙虚に生きれば良いということだろう」

天使「あ、は、はい、そうです。謙虚さを持って、皆と協力して」

恭太郎「つまり、サメに拘るなということだ」

天使「ん?」

恭太郎「ワニもまた、よし」

天使「いやちょっと何言ってるか分かんないんですけど。そういう話じゃなかったですよね?」

恭太郎「ではな!」

 恭太郎、去る。

天使「恭太郎さぁん! 謙虚という字を辞書で調べてくださぁい!」

隆文「て、天使さん」

天使「隆文さん。……大丈夫ですよね」

隆文「僕も反省しました。今まで僕は無理して生きていたみたいです。もっと楽に関われる仲間を探します」

天使「そうですね」

隆文「まずはフォロワー千人を目指します」

天使「……ん?」

隆文「その後は配信者になって。いや、配信と並行してやって行った方が良いか」

天使「ちょっと待ってください。え、それは、インターネット?」

隆文「そりゃそうですよ。リアルなんて僕にはまだ早いですから」

天使「え? あ、うん、まぁ、そうなのかなぁ? ネットの友達が一番と言うのも、それもいいのかなぁ?」

隆文「それじゃぁ天使さん。また会いましょう」

天使「あ、はい、また……」

 隆文、去る。

天使「……また? 何だろう、すごく嫌な予感がする」


〇約二十年後

天使「あれから地上では二十年ぐらいが経っただろうか。長い天使生活の中でもひときわおかしな人たちだったなぁ。さて。今回生まれ変わるのはいったいどんな人たちか」

 四人、集まる。

天使「……なんだか見覚えがある人たちですね。……えーっと、死因と最期の言葉を確認していきますよ。六股をかけた結果、そのうちの一人に刺されて死亡」

真「ま、待ってくれ! 話せば分かる!」

天使「村人の忠告を聞かずに悪霊の封印を解いてしまい呪われて即死」

葵「悪霊? いるわけないっしょ! いても数珠とかお札とかもあるし楽勝っしょ!」

天使「ワニに翼をはやした合成動物を開発し捕食される」

葵「素晴らしい! 究極の生物の誕生だ。む、何だこのデータは、こんなもの見たことが。うわ、何をする、止めろぉ!」

天使「とある旅館に泊まったところ殺人事件が発生。犯人捜しの話し合いの最中に」

隆文「この中に殺人鬼がいるかも知れないのに一緒の部屋にいられるか!」

天使「翌朝死体で発見される。えー。皆さん。……お久しぶりです」

真「お久ぶりです」

葵「おひさー」

恭太郎「久しいな天使よ」

隆文「お、お久しぶり、です」

天使「何も変わっていない! ……あなた方にぴったりのことわざがあります。バカは死んでも治らない」


終劇。

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