【エヴァ考察】13号機とシンクロの話
今回は13号機の素体と同調に関するプチ考察です.
1.第13号機の素体
まずは過去何度か取り上げた13号機の素体について,説明を改めリニューアル.
(1)アダムスのコピー?
劇中で確認できることの1つは,13号機の素体がアダムスであることです.
覚醒13号機に対するこの台詞で13号機の素体がアダムスであることが分かります.
続いて,旧作のエヴァがアダムのコピーだったこともあり,以前から13号機のアダムスがオリジナルなのかコピーなのか気になってました.おそらくオリジナルです.それは“生き残り”という言葉からもなんとなくうかがえますが,同機体を見た弐号機パイロットは次のように言います.
『破』の覚醒初号機が擬似シン化第2形態で,このときの13号機は擬似化第3+形態といわれています.13号機の方がシン化が進んでいます.「第3+」という表記も気になりますが,ここではアスカの台詞に注目します.というのも上の台詞をそのまま受け取れば,“擬似“シン化形態を超えて“本物“のシン化に達した,と読むことができるからです(“マジ“シン化?).
そう捉えると,13号機がマジシン化できた理由について,それは素体が模造品(コピー)でなくオリジナルだからと理解できそうです.つまり初号機はコピー機だから第3+にはなれなかった(ここでは初号機の素体は旧作同様リリスのコピーという理解を前提にしています.そうした理解で特に不都合がないため).
『エヴァ』ではオリジナルとコピーの対比が好きなので,オリジナルとコピーでシン化形態に違いが出るといった設定があってもおかしくありません.彼女の台詞の理解として今回以上のような説明を提案したい.
ちなみにオリジナルアダムスの入手経緯は『序』冒頭で見られた巨人の地上絵から想像できます.つまり「アダムスの生き残り」がセカンドインパクトで南極から流れ着いたと.
この画像は結局シンエヴァでも明らかにされなかったので気になっていた方も多いと思います.
このレイアウト設定は庵野さん自身が描いており,そこには「セカンドインパクト後の景色」「白センの人型」とのメモ書きがあります(序全集316頁).白線からはこれが犯罪現場のチョーク・アウトラインであること(証拠の位置を示す線).これらを総合するとセカンドインパクト後に南極から流れ着いた巨大なヒト型が横たわっていた跡と読めます.
そこから白線の巨人の正体を考察すると,これがリリスである可能性は低いでしょう.リリスはセカンドインパクトと関連が薄いからです.そのため巨人は南極から漂着した「アダムスの生き残り」と考えられるわけですが,この生き残りがアダムスのコピーと考えることも微妙です.コピーならエヴァ同様量産を前提にしているはずなので新たに造れば足りるはずです.わざわざこうして入手したんですよ,という描き方は迂遠でしょう.
したがって,消極的な説明にはなりますが,序冒頭の白線の巨人は「アダムスの生き残り」,オリジナルのアダムスと推測でき,さらに13号機のシン化形態の説明へと一貫した理解ができます.
(2)翼の数
次にアダムスはシンエヴァにおいてネルフの戦艦NHGであり,NHGとはガフの守人でした.
これらの台詞から,ガフの扉にあった地上絵は守人アダムスを描いたものだったと考えられます.
絵の手足に見える部分は全て翼です.翼は6枚.旧作OPの画像も参考になります.
このように翼で体を隠すような描写は熾天使あるいは智天使を描いた宗教画でよく見られるものです(詳細は「アダムスの翼」).もっとも,13号機で翼となり得る部位は全部で8つあることになります(肩2,腕4,脚2).
そこで絵の翼6枚に比べて13号機が2枚多いのは別の素体を足しているからと予想できます.眼も4つでしたし.そこで次に,追加された素体の正体が問われます.同じくアダムスなのかそれ以外なのか.
これについては別の角度から考えます.そもそも13号機とは何のための機体だったかを確認したい.
つまり13号機はリリスの結界を突破するための機体でした.同機体がどうして突破できたのかといえば,素体にリリスが含まれていたからだと考えるのが自然でしょう.
(3)前田真宏監督
以上に加えて補足です.『Q:3.333』の特典に収められた前田監督のイメージボード集では13号機にコアが2つあるような描写があります.
こうした描写は『破』でもみられます.そこで初号期擬似シン化第2形態の設定案を手伝ったのが前田さん.
この初号機の設定案でも2つのコアのようなものがあり,前田監督は「心臓の部分に光るチャクラが2つ並んでいるのは,シンジと綾波の魂を表しているつもり」と説明しています(破全集49頁).
ここから先ほどの13号機についても設定者が同じ前田さんですから,同じように考えることができます.すなわち13号機には異なる魂,つまり素体が2つ用いられていると.
しかもイメージボードの13号機ではコアが青と赤と色分けしてあり,2つが異なることを強調しています.これはアダムスとは異なる素体を示唆するでしょう.これらを総合すると,結局2つの素体とはアダムスとリリスだろうとなります.
13号機の素体はアダムスとリリス.
ちなみにこの見解はリリス=ユイ説と奇妙な一致をします.次の画像はリリス=ユイ説と13号機=アダムス+リリス説の一致を示す画像と捉えることができます(ポーズに加えて手の装甲(スーツ)のデザインの一致).
前半は以上になります.
2.シン・「瞬間,心,重ねて」
(1)『Q』
続いてシンクロの話ですが,ここではパイロットとエヴァのそれではありません.Qでシンジとカヲルがピアノの連弾で友情(愛?)を育んでいましたが,これはリリスの結界を突破するためでした.
調子を合わせよう,つまりパイロット同士シンクロしようということです.まるでみんな大好き「瞬間,心,重ねて」です(旧作第9話).もちろんこれは2人で1つの機体を操作するからということもあるでしょうが,先ほどの機体の考察を踏まえると異なった見方ができます.
先ほど考察した通り,13号機の素体はアダムスとリリス.パイロットについてもシンジとカヲルはそれぞれリリス由来とアダム由来で異なります.
つまり13号機は本来敵対する2つの存在,リリスとアダムの要素を機体だけでなくパイロットにも抱えていたということになります(アダムとアダムスについては「神のシンボル/白い鳩」).これらを1つの目的のために調和させる必要から,彼らは同調の儀式を行なっていたと考えることができます.2人はただイチャついていたのではなく,作戦上の目標を据えてイチャイチャしていたのでした.
ちなみに「α」と「A」の意味について,脱線なので一段落とします.
(2)『シン・』
上述の同調の話はシンエヴァのアディショナルインパクトにつながります.
今度は初号期と第13号機をシンクロさせています.ともにリリスを素体にする機体であっても,絶望と希望という対になる意味を象徴する機体でした.もちろん槍も同じで同調させていたのかもしれません.
お気づきかもしれませんが,先ほどのQの結界突破の時と同じ構造を持っています.13号機の素体内とパイロット同士に異なる要素がありました.今回は現実と虚.これらは本来交わることのない異質なもの同士.ともに相反する2つのものを用意し,それらを同調して1つに調和させることで何かを達成する構造が見られます.
おそらくこれはヘーゲル弁証法に着想を得ています.G.W.F.ヘーゲル(1770-1831)はドイツの哲学者です.彼の解説は私の手に負えないのでご興味ある方は各自2次文献等に手を伸ばされたし,と言いたいところですが最低限の務めとして辞書の説明を紹介します(以下参照『縮刷版 ヘーゲル事典』(弘文堂,2014)).
なんのことやらだと思いますが,ここでは対立する2つが一定の労苦を経て良くなる動き,という図式的な理解で結構です.
Qのカヲルとシンジ,シンエヴァの初号機と13号機に対立要素があったことと,それらがシンクロの儀式を行い何かを目指していたことがこれにあたります.これらには矛盾対立を利用して次の段階へ進むという弁証法的構造をモチーフにしていたのです.
(3)アディショナルインパクト
もっとも,庵野さんはその弁証法的構造を取り入れた上で脚色しています.脚色部分は何かというと同調の儀式です.どうして対立するものをシンクロさせなければいけないのか.
もちろんアディショナルインパクトのため,すなわち現実と虚構を1つにするためでした.もう少し具体的にいえば,ゲンドウの脳内イメージで現実世界を塗り変えることです.
先ほどのゲンドウの台詞の構造は,彼の「認識(=世界を書き換えるアディショナルインパクト)が始まる」と理解できます.アディショナルによってこれまで秘めていたゲンドウの認識=虚構=妄想?が現実のものとして開始される.
そしてシンクロ(同調)させることも1つにすることです.劇中でエヴァ2機は動きを1つにしていました.したがって,現実と虚構という決して1つになるはずのないものを1つにするために,その前段階の儀式として対立する神の機体2機をシンクロさせていた(=動きを1つにしていた),ということのようです.
以上,Qとシンで何やら同調していた彼らの元ネタのお話でした.
今回は以上になります.お読みいただきありがとうございました.
・参考文献
大貫ほか編著『岩波キリスト教辞典』(岩波書店,2002年)
画像:©khara/Project Eva.
※追記(2022/10/11)
「2(3)アディショナルインパクト」を説明の追加とともに新設.
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