見出し画像

1年9ヶ月待った推しのボイスがついに出た

真っ暗な山奥、冷たく降り続く雨、足が呑まれそうなほどぬかるんだ土。
そんな情景が浮かぶ音声を聴いた私の心は、クリスマスの朝、サンタさんにお願いした通りのプレゼントが届いてはしゃぐ子供のようでした。

まえがき

この記事はにじさんじオタクの自分語りですが、「ジョー・力一あめもようボイス2021」のネタバレを含みます。
台詞を丸ごと引用したりはしないので、大まかな内容が気になる方などはご覧になっていただいて問題ないかと思われますが、一切知りたくない方はこの記事を閉じてボイスを聴くことをおすすめします。

また、筆者の主観により書かれている部分が多いので、明らかに事実と異なる記述等があった場合はお知らせください。


オタクの妄想がとっ捕まえられた瞬間

2019年9月、私の推しであるジョー・力一は、配信中に
「個人で出すボイスの内容はどんなものがいいか」
とリスナーに問いました。

チャット欄に思い思いのリクエストが飛び交う中、彼がピックアップしたのは「死体を埋めるボイス」。

「エゴサをしているとちょいちょい引っかかる」らしいそれへの言及に、まさにTwitterで
「こんなボイス出たらいいな~」
と呟いたり、乗っかって妄想を繰り広げてくれたフォロワーさん達のツイートを見ながらニヤニヤしたりしていたオタクの私は背筋が凍りました。検索避けって意味ないもんだね……。

その後も心中ボイスやこっ酷く振られるボイスなど、ヤバい方向へと振り切る提案は増殖し続け、その配信が終わっても事あるごとに
死体を埋めてくれ!!!
という声が聞こえてくる始末。

「もしかして私はパンドラの箱を開けてしまったのでは……?」
と自意識過剰すぎる罪悪感に襲われるも、自分自身その手のボイスへの期待は捨てられずにいました。

何せジョー・力一のボイスはあまりにも質が高いのです。会話調の台詞でシチュエーションを自然に提示し、色とりどりの声で心の機微を細やかに表現。早すぎず遅すぎない間の取り方は聞き手を「貴方」として招き、ボイスという作品の世界に没入させます。

お出かけボイスもいいけれど、この人が描くディープな世界が見てみたい。この人なら絶対に凄いものを作ってくれる。そんな希望を胸に抱きつつ、
「まあでもオタクの妄言なんてスルーしてくれていいから……本人がやりたかったらでいいよ……」
と物分かりのいいふりをして、極めて消極的に、しかし心のどこかで火は絶やさずに待ち続けていました。


忘れた頃に来る告知

配信での言及から1年半以上が過ぎ、趣向を凝らしたボイスも多々出揃い、なんとなくそれで満足してしまっていたところに、その告知は突然(実際のところ突然でもなかったりしましたが)やってきました。

正直なところ、もうなかったことにされても仕方がないと思っていました。出ると聞いてからも、期待はしつつ
「まさか望んだものがそのまま出てくることはないだろう」
と高をくくっていました。

取り扱うテーマがテーマですから、運営側のチェックも厳しいはず(前例はあるらしいとはいえ)。球根かタイムカプセルでも埋めるか、夢オチにするのが限界だろうと。

何にせよ推しのボイスは間違いなく良いので、販売開始時刻にすぐ購入し、ヘッドフォンをつけて音声を再生しました。


がっつり埋めてました。


直接的な言葉を排してはいるものの、ファミレスで相談を受け、道具を用意し、土を掘り、埋め……という、あの日配信で語られた流れがそっくりそのままボイスになっていたのです。雨というぴったりの情景に合わせて。普段滅多につかないSEまでついて。

こんな忠実かつ丁寧に願望を叶えてもらえることってあるんだ。それがまずとても嬉しかったです。

しかし、私の心を震わせたのは、忠実さの先にあるシビアさでした。


ジョー・力一はヒーローでも救世主でもない

秘密を共有し、一緒にそれを覆い隠して、ふたりだけのものにしてしまう。あるいは自分を犠牲にして、罪を丸ごと被ってあげる。フィクションにおける共犯関係は、そのある種の甘美さをメインディッシュにし、罪は仄暗い雰囲気を担う味付け程度のポジションに収めてしまうこともできます。

しかし今回のボイスは違いました。「貴方」は取り返しのつかないことをしてしまったし、その片棒を担ぐ方も人生のレールを踏み外すんだ、それはとても重く苦しいことなんだということを、直接言葉にせずとも真正面から描いています。

相談を受けた作中の力一は、嫌な顔ひとつせず「貴方」を許して願いを聞いてくれるわけでも、「あとは全部おれに任せて」と率先して隠蔽工作を図ってくれるわけでもありません。

彼の冷たく重い声色は、「お前は目の前にいる人間の人生を滅茶苦茶にしたんだぞ」という事実をしばしば突きつけてきます。そして、隠蔽すると決めるのは「貴方」で、その責任も「貴方」にあり、「おれ」はあくまで言われた通りにやるだけと、きっちり線引きをしてきます。

震える声で弱音を溢し、いつものお道化た調子に近い励ましの言葉すら縋れるほどの強度はなく、楽になんて一切なれない、けれど最早やるしかない。吐きそうになるほどひりついた空気は、彼が都合のいいヒーローや救世主ではなく、ひとりの人間なんだということを克明に表しています。

そして、罪を犯した2人が無事それを覆い隠して、明日からは何事もなかったかのように暮らす……というわけにはいかないことが、ボイスの終盤で示されます。咎を背負った人間が、そう都合良く許されてはいけない。この先どうするにせよ、それを引きずっていくしかない。そんな不文律をそこに感じました。


やさしくないのが、うれしい

推しが守ってくれる、推しと特別な関係になれる。そういう方向性のボイスにもなり得たはずですし、それはそれで喜ばれるのではないかと思います。

でも私は、このどうしようもないシビアさに、彼が真剣にテーマと向き合ってこのボイスを作ってくれたのを感じたのです。

これまでのボイスでも、彼は「ジョー・力一」としての意思や価値観を提示してくれています。ピエロという在り方。ファンとの向き合い方。何を好ましく思い慈しむか。

そうやって深くまっすぐ世界を見つめる目に心臓を射抜かれ続けてきたからこそ、罪は罪であるという見方に、またその視線を感じられた気がして嬉しいのです。

聞こえの良い言葉の羅列には収まらない、彼の人間性が息づいた作品に触れられることがとても有り難いなと思います。

まあこれ、ぶん殴られたのを都合良く解釈して悦んでるだけのマゾヒストって言われたらそれまでなんですけどね……。推しが何考えてるかなんて知らん。

(6/27追記:人間性というよりは、作り手、書き手としてのオリジナリティと言った方が正確かなと後から思いました。人間性なんて容易く推し量れるものではないので……)


あとがき

だらだらと書き連ねてしまいましたが、伝えたかったことはただひとつで、ジョー・力一のあめもようボイス2021が聴けたことが本当に嬉しかった、それだけです。最高の作品を生み出してくれてありがとう。本当にお疲れ様です。売上でおいしいメロンとか食べてください。

そして、もしこの記事を読んでボイスに興味を持った方がいたら、ぜひこちらから購入してみてください。ジョー・力一のボイス、マジで良いので……。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?