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大人の我慢と平日コメダ

半年ぶりに脱毛を予約した。
脱毛は一度で完結するものではなく、1〜2ヶ月の間隔でしばらく通い続ける必要がある。
気を抜くと「もう毛なんてどうでもいいや」と思えてきて、私みたいに半年も空いてしまう。

久しぶりに美容クリニックのベッドに寝た。
照射が始まる前、少し一人で待機する時間があった。その間、どのくらい構える痛さだったっけ?と思い出そうとした。
そうすると、あれ?確かまあまあ痛かったような気がするな...と少し怖くなってきた。

我慢、これ「我慢」の感覚だなぁ.....これから我慢するんだ。痛みの程度は思い出せないけど、前回照射されているときに我慢してたなぁという感覚だけ蘇ってきた。
大人になってから我慢することってあまりないよなぁ。欲しいものは手に入るし、ひとりなら毎日何を食べても良いし。習い事もやめたければやめられるし。我慢するのってこういうときの痛みくらいかもしれないな。

脱毛以外だと、歯医者も似ている。
歯列矯正の過程で何本か抜歯をした。数十分のあいだ歯を抜くためにペンチでぐらんぐらんと揺らされ、奥歯に近い歯だったので全然抜けなくて、頭まで痛くなってきたなぁと思い出す。
いつ終わるか分からないその時間がしんどすぎて、そもそも歯並びを良くするために健康な歯を抜くことの是非はどうなんだ、という思考まで巡った。もう手遅れなのに。本当にいいんだろうか?もう少し色んな手段を調べてみるべきだったんじゃないか?後悔しながら、もう止められない鈍痛に耐える時間。あれは明確に「我慢」だった。

脱毛の話に戻る。
この日は顔と両脇を予約していて、まずは顔からだった。「それでは始めていきますね」という声の直後、バチンバチンと照射が始まった。レーザーの眩しさを防ぐために目を隠されているとはいえ、いざ始まるとかなり眩しくて、これ大丈夫か!?と少し不安になった。
痛みはというと、「我慢するんだ....!」と力んでいた割にそこまで痛くなかった。熱くて少しヒリヒリするけど、まあこんなもんかと拍子抜けした。
たぶん記憶が曖昧になっていて怖がりすぎていたんだなと思いながら、我慢にも及ばないゆるい我慢を続けた。担当のお姉さんは優しい方で、頻繁に「大丈夫ですか?」「痛みはどうですか?」と聞いてくれた。だけど今答えたら表情筋が動いてしまう。バチンバチンとやられてるときに動いたら照射ズレないかな?変なところに当たらないかな?と少し怖くて、申し訳ないけどすべて無視した。無視=問題ないと察してくれることを願った。

これも、歯医者でもよくある。口を大きく開いた状態で固定するための装置をはめられているとき、その状態で話そうとするとかなり無理をして口を動かす必要がある。でも担当の先生や歯科衛生士の方は「大丈夫ですか?」「痛くないですか?」「何かあれば言ってくださいね」「どこが痛いですか?」と頻繁に話しかけてくる。これは一見優しいように思うけど、明らかに話せない状態の私に聞いている時点で、心配しているムーブをしているだけで本当の意味では心配していないんだろうなと思ってしまう。
頷くだけでは回答できないような質問を連発されるとイライラしてきて、痛みとストレスに耐える時間が続く。

そして脱毛は両脇にうつった。
両脇の照射が始まって、急激に思い出した。我慢してたのは脇のときだった!!!と。そうだ、顔は毛が細いからあまり痛くないんだった。
痛いーー、痛い。痛い。これ正常な痛さだよね?と思っていたとき、お姉さんに「痛みは大丈夫ですか?」と聞かれた。2秒くらい黙ってしまった。そして「あっ、はい。痛いですけど....」とできるだけ冷静なトーンで答えた。お姉さんは「あぁ〜💦」と言ってそのまま続けた。
いや、そうだよね!?分かってるよ。歯医者も脱毛も、痛いと言っても何か変わるわけではない。これは結局我慢しなきゃいけないんだ。あ〜〜辛いー。早く終われ〜〜。私はドMな人の気持ち分からないわ!!!痛いのが好きって気持ち、全く分かりませーーんと心の中で叫んだ。
終わって「痛みとか乾燥は大丈夫ですか?」と聞かれた。もちろん照射中にあれだけ痛かったんだから直後はまだヒリヒリしていたけど、おそらくこれは我慢の範疇のやつだろうと判断して「大丈夫です」と答えた。

半年ぶりに脱毛へ来たのは来週プールに行く予定があるからだった。「一週間後くらいには抜け始めますよ」と言われて安心した。間に合いそうな予約日が勤務時間中しかなかったので、フレックス制度を使って早退してきたのだった。
脱毛が終わった時点で15:30。この日は絶対に喫茶店かカフェに行こうと決めていた。多くの人が仕事をしている平日の昼間に喫茶店でボーッとしたい!!という願望を常に持っていた。そのためにoutlookでいつなら休めそうか繰り返し確認していた。そのためだけに休みを取るのは気が引けていたので、ちょうど脱毛という用事があって良かった。
さあどこに行こうか。脱毛は家から自転車で行ける距離のクリニックだった。近所にも喫茶店やカフェ、スタバもたくさんある。でもなんとなく、この日はコメダ珈琲に行きたい気分だった。コメダは近所になくて、一駅分は電車に乗る必要がある。暑いしコメダのためだけに電車に乗るのもどうかと少し迷って、近所をぶらぶらした。いや、やっぱり自分の直感に従ってコメダに行こう。電車に乗った。

初めて降り立つ駅。着いた瞬間、足がふわっと浮き立った。わざわざ電車に乗ってきて良かった。新しい土地というだけでなんだか楽しい。
着いたコメダは、ショッピングビルに入っているコメダじゃない。独立している店舗で、駐車場もあるコメダ。こじんまりしてるようで、店内に入ってみると意外と広かった。
この感じは、地元に帰ってきた感がすごい。来てよかった。コメダは元父親がよく連れて行ってくれた。朝活という概念をふんわり覚えたのも、元父親のコメダがきっかけだった気がする。元父親と数ヶ月に一回会うのはあまり嬉しくなかった。面倒で、会うたびに早く終わらせたいなと思っていた。だから朝7時台のコメダが一番すきだった。元父親の実家で食べる夜ご飯とか、元父親の後妻を交えた手巻き寿司パーティーとか、一番面倒だった。

ずっと願っていた平日昼間のひとり喫茶店は、やっぱり最高だった。金曜午後だからか思ったより人は多かったけど。何度もスマホで時間を見て、よしよし今もみんな仕事をしている時間だなと実感してにやにやした。これがしたかった。
ソフトクリームが乗ったココアとトーストされたサンドイッチを注文して、TverでVIVIANT(ドラマ)観始めた。開始10分で既に面白かった。
隣のカップル?夫婦?は、男の人が履歴書を書いていた。「体重50kgだと軽すぎるかな?やばいかな?」と聞いて、女の人が「しらないよ、そんなんで落とされたらやめときなよってことでしょ」と言っていた。どんな職種?俳優とかなのかな。気になって片方だけイヤホンを外してしまった。「よし、じゃあ52、うーん53kgにしておく!」と思いきり詐称していた。そもそも体重を書く履歴書って.....?と疑問は解決されないままだったので、片方のイヤホンを戻してVIVIANTの続きを観始めた。
いやーおもしろいな、と思って一時停止すると残りが60分あった。まさかの初回90分スペシャルだった。追加でコメチキとポテトのセットを注文した。
すべて食べ終わったら、食べ過ぎなのか変なしゃっくりが止まらなくなった。しゃっくりが止まらず、隣のカップルに迷惑をかけている気がして帰ることにした。

我慢したあとの平日コメダは最高で、もしかしてドMな人が好きなのもこういう緩急だったりする?となんだか少し理解できたような気もした。

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