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城とその不確かな句碑

 五歳児が二俣城にある野面積み天守台の写真を見てそこへ行きたいと言うので天竜区へ赴く。駐車場に四輪を停めて本丸へ登るとゲートボール大会が催されている。

 二俣城を下りて天竜川の堤沿いに鳥羽山城へ向かう。むかしの二俣川が二俣城と鳥羽山城の間を流れていたことを思えば、二俣城は三方を川に囲まれた天然の要害と分かる。鳥羽山城を登ると秩父古生層の片理が露出している。栗はおおかた毬を残して猿に食われている。鳥羽山城本丸下の南西には富安風生の句碑が建つ。

天龍のへりに椅子おき夕涼み 富安風生

 天龍をより大きなものに読める。鳥羽山城の本丸には枯山水庭園跡があり、平時のにおいがする。本丸広場にてフリスビーで遊ぶ。こうやって遊んでもらえるのはあと二年くらいだろう。

 本丸北西の笹曲輪には見晴台の反対側にただの岩に擬態して百合山羽公の句碑が建つ。

寒流として天竜も伏し流る 百合山羽公

 大地の底を寒々と流れる川よ。城跡散策を終えるとクローバー通り商店街まで下りて、山ノ舎にてタコライスを大盛りで食べる。本棚には村上春樹の『街とその不確かな壁』がおいてある。少し冒頭を読んで、過去作と似ていると思う。

 四輪で秋葉神社下社まで往復して適度な疲労と満腹で五歳児をひと眠りさせる。只来トンネルを出ると只来六所神社の祭礼で屋台を曳いており、屋台待ちの車列ができる。

 五歳児を起こし、大谷の内山真龍資料館に入る。敷地内で「秋を楽しむちいさないけばな展」をやっている。五歳児が「はいりたい」と言うのでお邪魔する。船明に住む華道の先生のもとで学ぶ門下生たちの生け花展と聞く。鶏頭を比べたり柿紅葉のまだらを褒めたりしていると五歳児とともに南知多の波まくらと抹茶をご馳走になる。五歳児は着物の女性を見て、お菓子をもらえると読んだのだろう。自分の子どもなのに、もう遠いところにいる気がする。家に帰ればオトナプリキュアを観るし。

 小雨が降ってくる。もう晩秋の風だ。

窓にまだ君の指紋の残りおり雨の消せない体温として 甲太郎

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