産まれた日の空
午前五時に産気づいた妻を病院へ連れていく。九時前に破水して、十時に児が産まれる。一眼レフで妻と産まれたばかりの児を何枚も撮る。それから、市役所に出生届を出して、入院に足りないものを病室に届けて、忘れ物を届けてと自宅と病院を何往復もする。
午後になり病院の駐車場も混んできて屋上にしか停める場所がなくなる。車内が暑くなるので、みんな屋上には停めない。屋上から見た青空はどこまでも広がって、街全体を見渡せる。一眼レフを構え、空と街を撮ってみる。でも液晶モニターに映る画像は鮮やかすぎてしっくり来ない。そのとき、ショルダーバッグに入れていたトイカメラに気づき、片手でトイカメラを持って空と街を撮る。ちいさい液晶モニターに粗い青と駅前のビル群が映る。その解像度の低さが、父親になったばかりの自分の視野と近いことに気づく。
もし児が大きくなって、産まれた日の空を見たいと言われたらトイカメラで撮った空を見せる。「パパがそのとき見ていた空だよ」と言って。
一歩だけ蝉時雨から外へ出て自分は父になったと気付く 甲太郎
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?