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【読書感想】ジョージ・エリオット「サイラス・マーナ―」

ジョージ・エリオット「サイラス・マーナ―」 (株)光文社


友にも恋人にも裏切られて
盗人の濡れ衣を着せられて
故郷から遠く離れ、見知らぬ土地に住み着いて
他者と交流するでもなく、ひたすら仕事だけして
ただただ貯めた金貨を愛でるだけが生活のすべてだった男。
それがある日、大切な金貨を盗まれたことがきっかけで
隣人たちとの交流が生まれる。
村人たちのそれは同情心だったけれど。とにもかくにも、男のあまりに意気消沈した様子に、「どうやらコイツにも人間らしい心があるようだ」と。
男と周囲の関係が変わり始めたところに、さらに思いもよらない出会いが訪れる。


物語の時代は、イギリスの、産業革命やら戦争前後くらいの時代でしょうか。
結構、宗教観が強く出ている部分があって。キリスト教と縁のない私には、ちょっと登場人物たちの感覚が想像しにくかった場面も。
けれど、時代背景や社会。身分社会から資本家と労働者の社会へ。古い世代若い世代の感覚、人生観。
人の望む幸福の、それぞれ違った形。
そういったものが大きく変わっていった頃だっていうのが、とても濃く反映されている話だったと思います。

しっかし、まあ。
前半の、暗いこと。
3回くらい、読むの止めようと思いましたよ。
友人の裏切りにあって、神様への信仰も持ち続けられず。金貨だけ握りしめて。
このしんどい爺さんに、これから付き合って、話を読み進めるのかと思うと、ページをめくる手が重い。
その分、後半が明るく希望が引き立つのですが。
それと少々文章と話の構成が読みづらかった。
登場人物のセリフが、やたらと長ったらしい。ご近所の井戸端会議をそのまま文字起こししたような。たまに重要発言もあるけれど、大半は意味のない井戸端会議。
地の文でも、ふいに作者の思想語りが差し込まれたりして、哲学書みたいな印象を受けた。
文学としてはすごい作品なのだろうけど、自分はあまり楽しめなかったです。
「めでたし、めでたし」で終わったし、読後感は悪くはなかったのですが。


おまけの感想
読むきっかけは鷹野久さんの漫画「午後3時雨宮教授のお茶の時間」で登場した本だったから。
なので、この「サイラス・マーナー」で自分が気になったお菓子を挙げておこう。

村で一番気立ての良いおかみさん、ドリーが、サイラスに差し入れした『ラード・ケーキ』
豚脂で作る、それもケーキですって。カロリーありそう。貧しい農村では、かなりのご馳走なのでは。
金貨盗難のショックで半死人みたいになってたサイラスをどうにか力づけようという心づかい、おかみさんの気質をよく表している品だと思いました。
そのケーキでサイラスが、不器用なしぐさでどうにか感謝の気持ちを示そうとするのも、重要シーン。

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