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「冬が終わる嬉しさと寂しさ」今週の俳句(2021.02.15-02.20)

煙草より 煙草で私を 傷付けたいの

煙草なんて好きじゃない。臭いが服に着くし、おじさんみたいだし。でも今日は嫌なことがあったの。自分で自分が嫌になっちゃうくらい、嫌なことが。だから私は、煙草を吸う。急に吸ってむせ込んだり、ニコチンのせいでクラクラしたりしても、今日は構わないの。

空き箱を 数え暫しの 冷やし酒

インターネットで注文して届いた商品の空き箱で部屋がいっぱいになってきた。それらを一つ一つ畳みながら数えていると、商品が届いたときのわくわく、箱を開けるときの高揚感、そしてしばらくしたあとのお決まりの失望を思い出す。この空っぽの箱はなんて人生を的確に表現しているんだろう。僕はもう数えるのをやめて、暗いキッチンにある冷蔵庫から酒の瓶を取り出した。

シャッターを 向ければちびた 雪達磨

暖かくなってきたから、カメラを持って外に出かけた。公園には冬の間に誰かが作ったたくさんの雪だるまがあったはずだ。せっかくだし写真を撮っておこうと思って雪だるまがあった場所に向かうと、もう彼らは半分以上溶けて、言われなければ気づかないくらいの雪の小さな塊になってしまっていた。
教訓---自分が良いと思ったものはそのときに行動に移さないと、あとからではもういなくなってしまう。

夏の果て 天井と減らない ナンプラー

彼女が家を出ていったのはうだるような暑さの7月の始めのことだった。それからというもの、僕は一夏中自分の部屋の天井を眺めながら地獄のような暑さを耐え続けた。そして8月も終わりに近づきやっと暑さも和らいだ頃、僕はやっと彼女の不在を受け入れられるようになりつつあった。水でも飲もうと台所に入り、偶然まだ半分以上残っているナンプラーの瓶が目に入った。彼女はエスニック料理が好きだった。僕一人では、ナンプラーの使い方なんてさっぱりわからない。

名残雪 箸から溢れる 大根よ

これが今年最後の雪になりそうだから、僕たちははりきっておでんを作った。今年の冬の総まとめのような気がして、コトコトと、だけど沸騰させないように弱火で長時間。このおでんを食べ終えてしまったらもう今年の冬には戻って来られないと思うと、冬の間にあったことを一つ一つ振り返って、そのときが来るのを先延ばしにしていた。だけどもう、煮込みすぎて箸で大根がうまくつかめない。
「思い出話は……もう……おしまいっ。」(FF X, ユウナ)

聞きしかど 未だ果たせぬ 春のあけぼの

春はあけぼのがいいって、古文の授業で清少納言に教わってから何年も経つけど、春に早起きするのって本当に難しい。冬は寒さに打ち勝つっていう気持ちさえあれば起きられるんだけど、春のあの気持ちのいい朝の光と温度じゃ、ベッドから出られそうもない。もはや伝説と化している春のあけぼのがどれくらい美しいものなのか庭にでも出て確かめたいけど、気がついたときにはもうすっかり太陽が昇っている。それも含めて趣深いってことなのかなあ。


先週頃から急に暖かくなって雪もすっかり溶けてしまい、長い冬が終わったことを実感しています。冬よりも春の方が過ごしやすいし、春は好きな季節なのに、なにかの終わりってたとえそれが全体としてネガティブなものであったとしても、どこかで終わってしまうことに対する寂しさみたいなものがありますよね。合計された最終値としての良い悪いだけではなくて、良いものの中にある悪いもの、悪いものの中にある良いものに光を当てていきたいと感じています。

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