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海、散歩する僕

宙に浮かんだ扉を開ければ蜜柑色の光を映して輝く海が在る
どうして海、それも夕焼けの
美しい海
わけも解らず
けれども扉が開いたからには僕はその中へ

飛び込む。
深黒な山高帽と深黒のインバネスコートで
オレンジを反射して輝く海とオレンジに染まる空
を右にして
僕は歩いて往く

此処は一体何処の海だろう
海の匂いは?
街の匂いは?
僕の故郷の近くかしら
それとも鎌倉の海?

インバネスの中はウール素材のジャケットで
それも同じ黒い色だ。
僕は外套中で上着の裾を掴んで
柔らかさと暖かさを確かめる

日差しはすぐに水平線の彼方へ沈んで

辺りはすべて暗闇の中に沈んだ。


黒い革靴の爪先に波が打ち寄せる

僕は砂の上に腰を下ろして

海を眺める

此の儘僕も闇に溶けて仕舞えばいいのに

此の儘暗闇の中に


きみと一緒になれないことが

ぼくはどうしてもかなしい


きみと一緒になれないのなら

これからの人生孤独でいい


きみ以外の誰に僕は心を見せることがあるだろう?

きみが側にいなければ誰といても僕は孤独だ

きみ以外に心を見せるような人は

もう二度と現れない


僕はこれから一人で生きていく

誰といても僕は孤独だ

打ち寄せる波の音

街の明かりはほとんど見えず海も浜も家も全てが墨を塗ったような真っ暗闇だ。

僕の上着は境界を失ってその闇の中に溶けていく


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