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せんちめんたる・なんせんす

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嘘吐きは夜の海を散歩する。嘘吐きの僕の日常のことです。
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#恋

前の人生を思い出したと云う友人の話(1)

「僕の產まれる前の人生は、明治生まれの男で閒違ひないやうだ」 さう言つた幾野君は手に持つた白いマグカップに口を付けた。 「小さな弟たちが居たり姉が居たりとそんな夢を見る事がある。皆んな着物を着て居たよ」 「突然呼び出したと思つたらそんな話かい?」 僕は首を些か右に傾けて、彼に向かつて歎息とも笑ひともつかない聲を溢す。 「否、それだけでは無いんだけどね。ここ最近、生まれてこの方體驗した筈が無い事を思ひ出し續けてしまひ、氣持ちを持て餘して居るんだ。けれど此樣な事を誰彼構はず話した

海、散歩する僕

宙に浮かんだ扉を開ければ蜜柑色の光を映して輝く海が在る どうして海、それも夕焼けの 美しい海 わけも解らず けれども扉が開いたからには僕はその中へ 飛び込む。 深黒な山高帽と深黒のインバネスコートで オレンジを反射して輝く海とオレンジに染まる空 を右にして 僕は歩いて往く 此処は一体何処の海だろう 海の匂いは? 街の匂いは? 僕の故郷の近くかしら それとも鎌倉の海? インバネスの中はウール素材のジャケットで それも同じ黒い色だ。 僕は外套中で上着の裾を掴んで 柔らかさと

僕の戀(1)

「溫子は好きな男の子、誰?」そんな風に聞かれたのは小學1年の頃だつた。當時、岡田あーみん目當てでりぼんを購讀してゐた僕は、掲載されていた恋愛少女漫畫を讀んでゐたこともあり「戀愛」がどう云ふものか、7歲とはいへ形式の上では理解してゐた。 近所には女の子が多く、この質問を投げかけたのは何時も構つて呉れてゐる小4と小2のお姉さんたちだつた。人見知りで內氣な僕は、可愛い可愛いと妹のやうに扱つてくれるこのお姉さんたちと何時も一緖に遊んでゐた。 僕は非常に素直な子供だつた。女體化して