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せんちめんたる・なんせんす

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嘘吐きは夜の海を散歩する。嘘吐きの僕の日常のことです。
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#私小説

前の人生を思い出したと云う友人の話(1)

「僕の產まれる前の人生は、明治生まれの男で閒違ひないやうだ」 さう言つた幾野君は手に持つた白いマグカップに口を付けた。 「小さな弟たちが居たり姉が居たりとそんな夢を見る事がある。皆んな着物を着て居たよ」 「突然呼び出したと思つたらそんな話かい?」 僕は首を些か右に傾けて、彼に向かつて歎息とも笑ひともつかない聲を溢す。 「否、それだけでは無いんだけどね。ここ最近、生まれてこの方體驗した筈が無い事を思ひ出し續けてしまひ、氣持ちを持て餘して居るんだ。けれど此樣な事を誰彼構はず話した

産土神社で当たり前に前の人生の誕生月にコインを入れるつもりだった。そのことに気がついたけど、まあそうかと思ってそのまま前の人生誕生日のところに一円玉を置いてきた。

遠い昔の自分と今の自分が融合して地続きになってゆく。

ずつと遠い昔の自分と今の自分が融合して地續きになつてゆく。 前の人生の自分が今の自分に溶け込んで行く。恐らく皆は生まれる前にちやんと融合して此の世界に出て來るのだらうけど、僕は自分が分斷されると云ふ罰を背負つて生まれて來たらしく、ずつとバラバラであつた。 けれども閻魔樣や淺草寺の佛樣に依れば、僕はもう充分に罪を償って終はつてゐるらしい。とある僧に依れば拂ひ終はつたのは去年か今年の話と云ふ事だ。 「もう惡いことをするんぢゃあないよ」 と閻魔樣にも言はれたつけ。赤い御顔でにこにこ

前の人生を思い出したという友人からの手紙

長い付き合いのある友人からこんな手紙が届いた。 ××× 僕が前の人生のことをはっきりと思い出したのは去年の3月28日だった。 奇しくも僕の愛する小説家・渡辺温の四十九日に当たる日で、一人戦慄したものだが。 閑話休題、前の人生をはっきりと思い出した僕を襲ったのは激しい感情だった。 僕には愛する恋人が居たようで、その彼女が確かに存在した!ということをはっきりと手応えを持って思い出したのだった。 喩えるなら、保育園の時に仲良かった友達とのことを急に鮮明に思い出したような、小学

ピンク色の虎と暮らす

ピンクタイガーアイという石を買った。腕につけられるようになっているタイプのものである。この周り口説い言い方は、「数珠」と言いたくない僕の精一杯の抵抗である。 ◉◉◉◉◉ 以前、仕事運や金運が欲しい時に普通の虎目石を買ったのだが、見るからにエネルギーが強かったその石は、つけると仕事場ではハキハキシャキシャキ動くことが出来たが、その分人が離れて行ったと感じた。いつもにこやかに接してくれる人たちが誰も来てくれないのだ。一度つけて、外して、またつけると同じ。何度か試した結果、やっ