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せんちめんたる・なんせんす

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嘘吐きは夜の海を散歩する。嘘吐きの僕の日常のことです。
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#前世の記憶

前の人生を思い出したと云う友人の話(1)

「僕の產まれる前の人生は、明治生まれの男で閒違ひないやうだ」 さう言つた幾野君は手に持つた白いマグカップに口を付けた。 「小さな弟たちが居たり姉が居たりとそんな夢を見る事がある。皆んな着物を着て居たよ」 「突然呼び出したと思つたらそんな話かい?」 僕は首を些か右に傾けて、彼に向かつて歎息とも笑ひともつかない聲を溢す。 「否、それだけでは無いんだけどね。ここ最近、生まれてこの方體驗した筈が無い事を思ひ出し續けてしまひ、氣持ちを持て餘して居るんだ。けれど此樣な事を誰彼構はず話した

京都のお茶屋さんで遊んでいた頃の話。

昭和2か3年頃だったと思う。 僕は仕事で京都に行く事があった。 その頃お茶屋さんにいる女の子2人と仲良くなった。 舞妓さんと芸妓さんの姉妹だった。本当の姉妹かははっきりしないけど、姉妹のように寄り添って仲良くしている二人だった。 最初は僕の仕事先の年長の偉い人に連れて行かれた場所だった。けれどあの二人ともう少し話がしてみたくて二人のことが忘れられずに、二度目は一人で思い切ってそのお店ののれんをくぐった。 相当意を決して行ったらしい。 僕にしては珍しく、その二人には恋愛や

僕は嘘吐き

●A面 僕の肩書は「[嘘吐き]」。英語で書く時は「fabulist」。 嘘吐き(うそつき)と云う肩書にしたのは、僕には「小説家」や「作家」「文筆家」……等々、そう云うものがどうもしっくり来なかったからだった。 僕が書いて居るものなんて、小説や文芸、随筆エッセイ評論等々、どんな文章作品にも当てはまらなくて、「嘘」位なものなんです。 僕は君たちを氣持ちよく騙せるような、質の良い嘘を沢山吐きたいと思って居ます。 ●B面 「嘘吐き」と云う名称に思い当たった時すごくしっくり來る

海、散歩する僕

宙に浮かんだ扉を開ければ蜜柑色の光を映して輝く海が在る どうして海、それも夕焼けの 美しい海 わけも解らず けれども扉が開いたからには僕はその中へ 飛び込む。 深黒な山高帽と深黒のインバネスコートで オレンジを反射して輝く海とオレンジに染まる空 を右にして 僕は歩いて往く 此処は一体何処の海だろう 海の匂いは? 街の匂いは? 僕の故郷の近くかしら それとも鎌倉の海? インバネスの中はウール素材のジャケットで それも同じ黒い色だ。 僕は外套中で上着の裾を掴んで 柔らかさと

小学生の時に見たHな夢の答え合わせが出來た友達の話。

「僕が初めて淫らな夢を見たのは小學6年生の時だつたよ」 女給さんが僕らの前にミルクティーを運び終へると、幾野くんはさう話し始める。昼食を食べ終へた僕と幾野くんは、彼の云ふ所の「一寸面白い話」を聞くためにカフェへ移動して居た。 「へえ、それは一體どう云ふ夢だつたんだい?」僕は尋ねる。 すると幾野くんは 「それがさ、まあ何とも云へない夢でね……」 と言ひながらティーカップを置くと、こんな風に話を始めた。 ⚫︎ 當時の僕の性的智識は、まあ基本的なことだけ。3年生の時に「セッ

百年前の僕の戀。

ずつと昔の夢を見た。大正時代、關東大震災の後の話だつた。 多分大正13年、場所は東京。 * 彼女はお店をしてゐるおうちの子だつた。 お父さんのお遣ひに、と買ひ物かごを提げて店を出た彼女を追つて、少し遲れて僕も店を出た。 「一緖にお散步に行くよ」 と僕は店から少し離れた地點で彼女に驅け寄つて、隣を步く。 談笑する二人。彼女は三つ編みお下げで僕はスーツにネクタイ。 僕は彼女が次の路地を曲がることを知つてゐたから、隠れんぼか何か悪戯をする顔で、少し走つて先回りをして彼女を待ち伏